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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
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【管理人より】

また《廃園設計士》のお話が書きたくなりました。
『……とは何ぞや?』というかた、サイドバーから《廃園設計士》カテゴリに飛んで、ざっくり読んでみてください。
《ありえない設定》のために、お手数をおかけします。ごめんなさい。

***


「来週から、ちょっとアンカラにいってくる」
交わった後のぼんやりとした時間。思い出したように、鈴(れい)が言う。
『思い出した』のではなく『言いだすタイミングを見計らっていた』のだと草多(そうた)は判断する。
「アンカラってトルコの?お前なんか関係してたっけ?」
「んー、設計した廃園が『みなし廃園』になっちゃってさ。『再廃化』するか『緑地化』するか俺が眼で見て、さわって、判断しなきゃいけないって」

廃園設計士の鈴。ちょいちょい諸外国へ出かけては、やれ『風化過程監査』やら『剪定技師』との綿密な打ち合わせやら、草多にはわけのわからない仕事をしている。
《廃園ヒーリング》のブームは昨今日本にとどまらず、もはや世界規模。互いに戸惑いと葛藤を乗り越え、付き合って5年経つが、普通の会社員の草多には鈴の仕事のことはさっぱりわからない。わからないなりにもニーズが急増している、ということは理解している。
「あー、自分の作ったとこが『みなさ』れるのってはじめてだな」
「ショック?」
「うん、ちょっとだけ」
草多は手を伸ばして、鈴を引き寄せる。ただ、抱きしめるためだけに抱きしめてやると、微かにわらった。
常に滅びていくものを見ている鈴。生きているものが苦手だと、出逢ったころにこぼしていた。
あのころよりは『滅び』に呑まれていない気がするが、腕のなかの身体が先程までの熱が嘘のように、ひんやりしているのに少し慄いた。
「性別ができるまで、生物は死ななかったんだって」
突然、ひとりごとのように鈴が言った。
「え?」
「だから、死なないかもしれないな、俺たち」
憧れに手の届かないこどものような響きだった。

「またかよ」
ぼそぼそと朝食のトーストをかじりながらテレビをザッピングしていると、どの番組も同じニュースを報じていた。
また紫の光が《注いだ》と。
「今度はどこ?」
「アンタナナリヴォ」
「マダガスカルかぁー…《失消者》は?」
「やっぱり、ざっと30人くらい、らしい」
キッチンから半熟の目玉焼きを運んできた鈴がごとっとテーブルに皿を置いた。

紫の、光。3年前から世界中で確認されている事象。
なにもない空から唐突に、紫の光の帯がランダムに各国首都に降り注ぎ、《照射》エリアでは幾人かの《失消者》が犠牲になる。
《死者》と呼べないのは、たしかに死んでいるはずなのに遺体が発見されないせいで、国際的には”the missing”、日本語では《失消者》とその呼称が定められた。東京に《注いだ》のは1年半前。34人が犠牲になった。

「アンカラはトルコの首都だろ?だいじょうぶなのか?」
「《光》を怖がってちゃ、この仕事できないし」
鈴は淡々と答えた。自分の生にも死にも《失消》にもさして関心がなさそうなその様子に、微かに草多はこわくなる。
「地球がすこしずつ、人口爆発対応をはじめてるのかもしれないし」と、さらに淡々と続けるので肩を掴んで揺さぶりたくなった。
お前の仕事のせいでお前が消えたとする。もしそうなったとして、お前は平気なのか?俺にもこの世にも何の未練も執着も覚えないのか、と。そうできないことがわかっているから尚のこと。
「心配すんなって」
食卓のむこう、なのにもっと遠いところにいるような笑顔で鈴が言う。
「アンカラでは一回、《注いだ》から。《照射率》は格段に少ない」
草多は、そうだな、と頷くことしかできない。
鈴は何を許しても、自分の仕事だけには草多を立ち入らせない。なにがそうさせているのか、草多にはわからない。

なんとなく普段より密度の濃い時間を過ごし、鈴がトルコの《廃園地》に向かう日。空港まで送りにいく、というとやんわりと断られた。
「こどもじゃあるまいし、ひとりで行けるって。それに平日だから、お前は仕事」
「でも、いつ帰ってこれるかわからんだろ」
「仕方ないし、仕事だから。手こずったら、ごめん」
鈴は一瞬だけぎゅっと草多に抱きついて、「じゃあ、行ってくる」と箱庭みたいなスーツケースを引き摺って、部屋のドアを開けた。
一瞬、強く白い朝の光に鈴の姿を見失った気がして、目を眇めた。カラカラとキャリーの転がる音とともに、後ろ姿は振り向かずに歩いていった。
自分が駄々をこねているこどもみたいだ、と思い、しばらくのあいだはひとりきりになる食卓に戻った。

テレビ速報が入ったのは、それから3日後の夜だった。
アンカラで2度目の光の帯が確認され、現地大使館が邦人の安否確認を急いでいる、と。
ほら見ろー、と思った。お前の仕事と紫の光はどこか似ているんだよ。なくしていくことばかりで、なにひとつ生産性がない。鈴が帰ってきたら散々にからかってやろうとした思考が、最悪の事態からの逃げであることを知りながら眠った。
……翌朝のニュースで、最悪の事態というのは起きうるものなのだと知る。現地入りしていた《廃園設計士》の國田鈴が《失消》した可能性があり、関係各機関が云々。
まさか、とやっぱり、の入り混じった気持ちでその報道を眺め、草多はもう少しで盆休みだったことを思い出す。

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【2016/04/24 07:30】 | HAPPY
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現実からうまく逃げ出したい思考は、出逢ったころのことを繰り返し思い出す。
きっかけは、満員電車だった。
鈴は草多と同じ車両で、いつも同じ席に座っていた。眠っていたり、音楽を聴いていたり、ぼんやり車窓を眺めていたりした。
当分のあいだ、小柄な草多にとってなにより重要な発見だったのは、鈴が必ず自分の乗り込む駅のつぎの駅で降りる、ということだった。イコール、鈴の座っている前の席、というポジションさえ確保してしまえば大混雑の通勤快速でひと駅のあいだ押しくらまんじゅうに耐えるだけで、椅子に座れるのだから。
毎日、目の前に座っている相手はスーツ姿ではなく地味なポロシャツにジーンズというラフないでたちで小型のリュックをきちんと膝の上に載せていた。
鈴が草多に眼だけで会釈をするようになったのは、その習慣とも呼べない習慣がひと月ほど続いたころだった。内心気まずかったが、会釈を返すと微かにわらった。
さらなる変化が起きたのは、それから5カ月のち。鈴は草多とおなじ駅で降りるようになった。職場が変わったのか、と思った。そして、そうなってしまうと鈴の目の前のスペースを確保しておくメリットはもうどこにもないはずなのに、相変わらず草多は鈴の座るシートの前で満員電車に揺られていた。
社内で鈴の姿を見かけたのはそれから1カ月後。社屋の前の植え込みのなかだった。
「あ、電車の」
思わずさらりと口からこぼれたことばは「なにやってんですか?」と流れた。
鈴はツツジを根こそぎ掘り返しているところで、その作業をひとりでしている不自然さにさらに「花泥棒?」と零した。鈴は草多をきちんと認識したようで、好感のもてる笑顔で言った。
「俺、廃園設計士」
「そうなんですか……で、植え込みを」
「うん。なんか、変わってるよね。ちゃんとした植え込みなのに。流行に乗りたいのかな」
社員のヒーリングのため?とわらった。
鈴の手によって前庭の植え込みは更地になり、その4カ月のち《廃園》化された。

その間。毎日の挨拶が、個人的に会う約束になり、恋になり、抱きあう関係になる過程は、鈴の作りだす落ち葉が水が流れるように自然だった。
――だれかとこういうふうになるなんて、思ってもいなかった。
鈴は口癖のように繰り返した。理由を問うと、さびしそうにわらって言う。
――俺のすることって、失くしたり壊したりすることばっかりで、それが仕事であまつさえ唯一の食いぶちだからさぁ。
「そんなこと言うな」ということばがなんの気休めにも救いにもならないことを、鈴の笑顔が語っていた。
――お前、だったのは、こどもとか結婚とかそういう未来がないからかもしれない。
鈴がそう口にするたびに草多もさびしかったけれど、ことばにすればふたりともがふたりぶん傷つくことを知っていたから、なにも言わなかった。自分がなぜ鈴を選んだのかは知っていたから。
だから、「うちの会社の仕事が終わったら一緒に暮らそう」と申し出たときに鈴が「いいよ」と答えたことには少し驚いた。からっぽの箱だと思って蓋を開けたら思いかけず甘味を見つけたかのように。

鈴は約束をいやがった。「盆休みに、どこか旅行にでも行くか。温泉とか」と軽く言いだしただけでも表情を曇らせ「約束はきらいなんだ。守れなかったらがっかりするし、果たしちゃったら終わるから」と真顔で言った。
逃げている、と思った。思ったけれど、口にはしなかった。
……鈴に言えなかったこと、言いたかったこと、言わなければいけなかったこと。
鈴の不在より静かに圧し掛かる。鈴はもういないのだ、とその重みを全身で受け止めることで草多はそれを知る。
こんなことなら、と思う。無理にでも約束させればよかった。義理がたいところのある鈴は、その約束を守るためだけにでも、《失消》したりしなかったかもしれないのに。
鈴のいない部屋での、鈴に関する思考がもたらす沈黙を埋めるように「冷蔵庫はそんなに大きくなくていいと思う」と言われた当の機械がぶんっと唸り、雰囲気に負けたように黙り込んだ。

《失消者》をこちらの世界に《導く》ことができる存在がいることを草多が知ったのは、やはり、チャンネルがその報道だらけになった夏休み最初の午後だった。不安定な気候が、朝から雨を降らせて鈴の遺した鉢植えに雫の降り注ぐ、蒸し暑い午後にもかかわらず、その不快指数を草多は忘れた。
――会いたい。
頭のなかはタガが外れたようにそのことばでうずもれる。
どうやったら?答えもわからないまま、近くのコンビニの週刊誌の臨時号と新聞を買い漁ったのは翌日の朝。
新聞の生真面目な報道とは裏腹に、無責任な週刊誌は《失消者》を《導く》少女の盗撮写真とその実名を大っぴらに公開していた。
《失消者》の姿をもういちど、この世に具現させられる存在。それがあることがわかってから、鈴にはもう会えないのだとわかったときより、鈴の不在を強く感じた。
可能性があるのなら。もしももういちど、一目でもいい、会えるのなら。未練がましいと、鈴はわらうだろうか。

新聞、雑誌、ネット上の書きこみ。あらゆる情報網に縋った。
玉石混交のなかにひとつだけ信憑性の高そうな手がかりを見つけた。
――だってあの子、なんかほら、有名私立のM高の制服着てんじゃん?週刊誌に一枚だけ載ってた写真見ただけだけど。
そのヒントは鈴と出会うきっかけになった車両のなか、女子高生の群れのなかから飛び出してきた。
確かに、制服姿の横顔の写真が掲載されていた。たまたま、その列車がM高校の方向に向かう路線だったのもあり、草多は本来の目的たる墓参りをやめて、その少女の姿を求めて最寄りの駅に降り立った。
むわっとおそってくる熱気も、足元に溶けるように揺らぐ陽炎もなにも気にならなかった。M高校に辿りつく。着いたのはいいものの、さてどうしたものやら、と考え込んだ。ここから先は、なんらヒントも手掛かりもない。

そのとき、後ろから鋭い声がした。不確定要素を含むからこその鋭さ。
「カジヤマソータ、さん?」
振り返って啞然とした。探していた当の本人が立っている。なんでだ。
「ビンゴ?」
「……ビンゴ」
やっぱりねー、と腰まである長い髪をひとつに束ねた彼女は、ミュール……というか、よく言ってサンダル……の足をくるっと返した。そのまま、すたすたと歩み去ろうとする。
おい、と声をかける寸前で振り返る彼女は、「追いかけてこないの?クニタレイさん、があんたを呼んでくれ、いつかあたしを、ひいては自分を探し出すはず、ってうるさいったら」と言いつつ、スカイブルーのTシャツの裾をつかみ、ぱたぱたと風をやった。頼りない腰の線が丸見えになり草多は眼を逸らす。夏草のむこうに地面を揺らす陽炎が見えた。

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【2016/04/25 07:30】 | HAPPY
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「勝手に飲んで」
2リットル入りの麦茶のペットボトルをどん、とヒノキの一枚板でできた巨大なテーブルに載せた彼女は言った。
その腕は2キロの液体を持ち上げるのが難儀だろう…と思うほどに白くて細い。
「クニタさんとあんたって、まじで恋人だったの?」
10歳年下の少女に《あんた》呼ばわりされることや、ため口を使われることに、不思議と不快感や嫌悪感はなかった。

「そうだよ」
「ふーん……変わってんね。めんどくさくない?」
「めんどくさい、と思ったことはないな」
「ふーん。あのひと、あたしにはすごくめんどくさいし、重く思えるな。ひとの宿題、邪魔しないでほしい」
第三者に見える鈴の姿。傍にいるから見えない姿。少女は、だばだばとマグカップに麦茶を注いでひと息に飲み干す。

「君は……なんだか、俺が思っていたより、その……ふつう、だな」
「ふつうの基準は?」
「……もっと、こう、霊能者のオーラみたいなものを持っているものかと」
ここまでの会話でほぼ無愛想で無表情だった少女が爆笑した。霊能者!と手を打ってわらう。
「まー、うち、そういう家系だし。慣れちゃってもうなにもないんじゃない?」
「家系?」
「……んー、いま稼ぎ時で。ほんとに霊を呼んじゃう母親がすごく忙しいの。で、父親はそのサポート」
稼ぎ時。盆休みだったことを思い出す。
「あたしが母方の血を継いでないって、母親はかなり喜んだんだけどねぇ。血は争えないのか、あたしは流行最前線のイタコってわけ」
「鈴はその……元気、なのか?」
「うんー…、元気っつーか…あんたに会いたいし、あんたも探しているから、一致してる《呼びあい》が起こっている状態。会いたい?」

テーブルにべたりと伏せて試すようにこちらを上目遣いに見上げた少女に、草多は心のなかで前言撤回する。
君は、とても変わっている。沢山のことを、その歳で知っていいこと以外のことを沢山、知っている。

「……会いたい?ずっと傍にいられるわけじゃないよ。もって一週間かな。それでも会いたい?またなくすためだけにでも、会いたいの?」
「会いたい」
繰り返し繰り返し、呪文を唱えれば何かが起きる。そう信じているこどものような口調になってしまった。
会いたい。鈴、お前に会いたいよ。少女はくるっと後ろを向いた。長い髪が肩に絡むようにたわんだ。
「《呼びあい》が起きたよ。オッケー、クニタさん、こっち来ていいよ」
オッケー、っていうかノリはそれでいいのか?大雑把すぎやしないか。という思考は開けっ放しになっていた襖の陰から鈴の姿が見えた瞬間、消し飛んだ。
「鈴!」
ヒノキの一枚板のテーブルのむこうにたたずむ恋人は困ったように、言う。
「ごめんな、草多」

「じゃー、そのひと長くて一週間だからね」
念を押す少女の眼は優しかった。
優先順位をつけなければならない。できることも、言えることも、なにもかも限られた《再会》の期間。10日も経たないうちに、鈴はまた《失消》してしまう。
電車に乗っている時間も惜しかったので、少女の家の固定電話からタクシーを呼んでもらった。
車内で低く会話する、ただそれだけが奇跡なのだと思う。
「《失消》すると、どんな感じなんだ?」
「うーん……それ、その質問、『眠っている間はどんな感じ?』とおなじくらい、返答に困る」
鈴だ、と思う。丁寧に質問を噛み締めて、考えて、答えを口にする。鈴がここにいる。

急く気持ちを抑え、鈴が好きだったように、ゆっくり、優しく抱きあった。
鈴が好きだった総菜屋のミートローフを買った。
『だった』と考えることで、期限付きなのだといちいち確認しながら。
永遠のうえを歩いている気がした。何気なく一緒にこのまま歳を重ねていくのだろう、と思っていたときよりずっと。
しんみりする空気も、不意に鈴が眼を逸らしてしまうことも、なにも気にならなかった。

鈴は、残していけるのが記憶とことばだけだと知っていた。
いつもより口数が少なく、その代わり口を開けば想い出やこれからを口にした。
「だれも、なにも悪くないんだ。こうなるのが運命で、あの日、俺が《失消》することはお前と俺が出逢ったときから……その前から、決まっていたんだ。だから、草多ならわかるよな。俺が消えても、自分が大丈夫だって、いま、自分に思えるよな」
強い眼でそう言った。遠い国で知らない世界にいざなわれる前には見せなかった眼差しだった。
「形のあるものを残せなくて、ごめんな。俺はどうにもそういう宿命みたいで」
「……形のあるものだって、いつかは壊れるだろ。鈴は形のないものを沢山、俺に残していくから。少なくとも、最後にちゃんと別れることができるから」
「うん」
《失消》まえと変わらぬつめたさの手を握り締めながら、結局、この手は温められなかったな、と思った。

終わる時間と流れる時間は、あやとりのようなイコールだった。
「じゃあ、あの子のところにそろそろ行かなくちゃだ」
なにかが終わりを告げたのだろう、夏の陽射しを膝に受けながら、鈴がソファから立ち上がった。
かと思うと、ぎゅっと手のひらを握った。戻ってきてから、はじめて声が震えていた。
「……こわい、草多」
「え?」
「いやだ、こわい、《失消》したらどうなるのか、憶えてない」
「……」
そうだ、以前、鈴は『夢のなか』と言った。
鈴がこれから見続けることになるであろう《夢》が悪夢ではないとだれに言えるだろう。それでも抱きしめて、言うしかなかった。
「大丈夫、大丈夫だから……」
震える声は言う。
「ごめん、ごめんな。草多がこれからつらくても悲しくても、傍にいられない」
「覚悟はできてた。俺なら、大丈夫だから」

あの朝と同じようにドアが開く。出ていくのが鈴だけであるのも同じ。
ただひとつ救いなのは、あの朝とちがって互いが似たような痛みに耐えていることだった。

季節は巡り、晩秋の真夜中に携帯がメールの受信を告げた。
草多はのろのろと手を伸ばし、半分夢のなかにいるままで差し出し人を確かめる。だれだよ、こんな時間に。
『鈴』のひと文字に夢が吹きとんだ。アドレスも番号も、何度も消そうとして消せなかった相手。
慌てて、本文を開く。眼を走らせた。ぱたり、と携帯が布団に落ちる。
ばかだ、と思った。お前、最後の最後になにを残してんだよ。

――『じゃーん、どうだ、びっくりした?もう、戻ってこれてない(と思う)けど、誕生日祝いくらい残しておきたくてさ。予約送信機能って便利だな。はじめてつかうから操作がこれであってんのかわかんないけど』
『忘れていいよ、っていったけど。やっぱ忘れられんのはこわいな、って。アパート出てからこれ打ってる』
『草多が最後に、なにも考えないで大丈夫って言ってくれたから。だから、また消えてもこわいことは起こらないと思う。俺のことは、忘れなくていいから、心配だけはしつづけないで』
『じゃあな。今度こそほんとに、バイバイ』

『あ、忘れてた。誕生日おめでとう。じゃあな。んでもって、HAPPY!』

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管理人の都合と事情でいつもの更新より長いエントリの駆け足更新で申し訳ありませんでした…。

【2016/04/26 07:30】 | HAPPY
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