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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
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とろけそうな脳みそでなんとか形にしましたー。
よろしくどうぞ。

*******

【回遊魚の還る家。】

開け放った窓から熱風が吹き込んでくる。ぼくと基樹は高3の夏休みの締めくくりにふさわしく、学校から出された宿題の消化に必死に取り組んでいた。
「なぁ、なんでお前の部屋、クーラーないんだよ。」
基樹がぶつくさ言う。
「仕方ないだろ。築三十年のボロ家なんだから。」
諦めと憧れの風を受けて、せめてもの日除けに引いたカーテンが揺れる。
「かき氷食いてぇー。勉強きらいだー。」
シャーペンを投げ出した基樹が床に転がった。期待のこもった視線は完全に無視して、手元の空間ベクトルの最終問題を解き続ける。
「なんで、俺ら受験しなきゃいけないのか、ぜんっぜん、わからんよな。」
「それは…」
ぼくは頑なにベクトル方程式を応用させる作業に取り組む。
「それがフツーだからだろ。」
「『フツー』ねぇ…、なぁ、もし受験しなかったらどうなるかな?」
「担任が激怒して、お前はどっかに就職するだろうな。」
「もし、受験も就職もしなかったら?」
質問攻撃に音をあげて基樹を見やる。意外なことに、わらっていた。
「永遠に路頭に迷う、それだけだ。」
彼の口が歪んだ。
「養ってくれないんだ、奏斗。」
「だーれが。甘ったれんな。」
「いつも『甘えて』くるのがどこのどいつだか。」
肌に肌が触れる感触を思い出して、爪先がざわざわした。五感のすべてで思いだしそうになるのを、封じる。
2年でおなじクラスになった。最初のHRで自己紹介をする彼を見て、心が動いた。欲しい。そう思った。己のためにあれほど自己中心的に動けるとは、自分が自分でないようだった。ぼくがしかけたいくつもの『偶然』。親しくなるために、そばに近づくために。裏庭で抱きしめられたとき、ぼくは彼の前で3カ月身につけていたミサンガを切った。
自分とは対照的な存在は、きらいなはずだった。光のような存在。光があれば、そこに影ができるのが道理というものだから。それなのに、そのはずなのに、なぜ、『フツー』を外れてまで彼に恋するのだろう。

基樹は宿題に戻る気はないらしく、小さな声でハミングをはじめた。聞き覚えのあるメロディ。流浪の民。
「せいぜい永遠に路頭に迷って、夢にラクダをさがせよ。」
「ラクダじゃない、楽土だ。」
「…え、ラクダをさがす歌じゃないんだ?」
「なんだよ、ラクダを歌でさがしてどうすんだよ。」
楽土。悲しみも苦しみもない、しあわせ溢れる桃源郷。ありっこない、そんな世界。

「結局、しあわせなことなんて、夢のなかにしかないのかな。」
ひとりごとのつもりだった。それなのに、聞かれたくないようなことばを口にしたときに限って、それを基樹は聞き逃さない。にょきり起き上がる。どこかキリンを思わせた。
「悲観的だな。」
「だって、そうだろ。しあわせなんかなくって、見つけられなくて、だからひとは流浪の民しちゃうんだろ。そんな歌が、できるくらいに。」
光を遮った部屋。影のような心。光のそばにいられても、なお、未来は見えない。
「お前、悲観主義だったっけ?」
「フツーは、そんなもんだろ。」
乾いた音を立てて、シャーペンの芯が折れた。
「お前みたいに、『受験も就職もしなかったら…』なんて考えている時点で、永遠に流浪しちゃうんだ。」
基樹が黙り込んだ。光なんて消えてしまえ。どうせ、いつか消えてしまうのならば。腕が震える。また、乾いた音。音のない部屋で、シャープペンシルの芯の折れる音だけが響き続ける。ぼくは言う。
「しあわせなんか、ない。なのに、それをどうしてさがしたいと思う?」
筆記用具が転がった。震える手でぼくは机を叩いた。
「しあわせなんかさがしはじめたら、回遊魚みたいになっちまうんだよ。」
「…ラクダとか、魚とか、急にどうしたんだよ、奏斗。」
「ぐるぐる回りつづけて、帰る場所もわかんなくなるんだ。だから、ぼくは…」
膝の上にぼたぼたと雫が落ちた。
「なにもさがさない。風が行くべきところにしか行けないみたいに、なにもさがさないで、みんなとおなじレールの上にいたいんだ。」
なのに、どうして。
どうして。
レールを外れてまで、基樹を好きになったのだろう?

しばらく黙りこんでいた基樹がふわりと肩でわらった。
「じゃあ、俺は流浪の民のための民宿になるよ。」
いつのまにか嗚咽していたぼくは、呆気にとられて基樹を見る。
「……は?」
「回遊魚が還る家になるよ。お前、ほんとはしあわせをさがしてみたいんだろ。」
「……。」
「充分、満足するまで、しあわせをさがしに行ってこいよ。俺は、回遊魚の家になって待ってるから。」
「…プロポーズ?」
「……たとえば、の話だよ。」
基樹はゆったりと立ち上がると、歩み寄ってきてくしゃくしゃとぼくの頭を撫ぜた。
「なに泣いてんだ。」
「…お前が……バカだから。…もうほんっとに、これ以上ないバカだ。」
「そうだなぁ…バカだな、ほんと。」
基樹が、わらった。

光を忌み嫌うくせに光のような存在に惹かれる。ぼくは回遊魚で、深海魚だ。しあわせとは、ひとを温かく包む光なのだろうか、それをさがす者を迷わせる暗闇なのだろうか。そして、基樹はぼくの還る家なのだろうか。
でも、もしも、しあわせを見つけられなくても。おかえり、と迎えてくれる場所があるのなら、そこに基樹がいてくれるのなら。ぼくは、そこに帰りたいと思う。
流浪の民。
楽土をさがす者たちの気持ちが、ほんのすこしわかった気がした。
風の吹く先へ先へと、熱の砂漠を、氷の草原を、歩きつづける…そんな、気持ちが。
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【2014/07/26 13:57】 | お題SS。
|

牛野若丸さんへ
砂凪
こんにちは、若丸さん!

水族館ではアザラシやペンギンばかり見ていた子供でしたが、
最近では癒しを求めてもっぱらクラゲさんを眺めています。
たまたま、ブログ名を『aquarium』に決めちゃった後に、あのお題。
参加しない手はないでしょう!(笑)

わたしは『進学当然!』の高校に通っていたので、悩む隙間のない…恵まれているのかどうかわかりませんが…ありがたい環境下にいました。
ですので、こういう葛藤みたいなのは憧れです。
ふつうでいたい、揃いたい。
だけど、どうしようもなくレールを外れざるを得ないことがある…。
これは、すごくすごくわかるのです。

『民宿』。
時代を感じさせますね。
エアコンではなく、クーラーといっているのも時代っぽい…(笑)

がんばって、BL連載もこちらではじめましたので、よろしくお願いします~。
見守ってください(笑)

拝読しました
牛野若丸
aquariumに行くと爬虫類ばかり見ていることが多い自分ですが(笑)、ブログ名とお題にぴったりの素敵な作品をありがとうございました!
進学も就職もしなかったら……そんなシチュエーションを想像してひやっとした高校時代を思い出しますね。
基樹くんは奏斗くんの涙を、もしかしたら進路の悩みだけと思っているかも知れませんが(汗)、本当はレールを外れた恋の切なさがメインなのでしょうかっ。
「民宿になる」という言い方がステキだけどちょっと微笑ましい言葉ですね。
味わい深いSSをありがとうございました!

沙色みおさまへ
砂凪
こんにちは、沙色みおさん✧
読んでいただいて、ありがとうございます。

等身大の心情。
書けていたのならよかったです~(*´∀`*)
まだ、あの頃のぐるぐるをどこかで引きずって歩いています。

回遊魚って水族館で見ると切なくなっちゃってダメですね。
ほんとに答えのない問いにずっと苦しんでいるみたいで。

…さ、さわやかっていっていただけました…!
ありがとうございます。
人生の方向性が見えないから、悩んじゃって。
でも、自由なんですよね、まだ。
どこにでも行けて、だから、こわくて不安で。

楽しんでいただけてよかったです!
ありがとうございました!

拝読しました!
沙色みお
こんにちは!
遅くなりましたが拝読しました。
進路や恋に悩む男の子の心情が、とっても等身大で微笑ましかったです。
回遊魚や深海魚が光りを求めてさまよう姿が目に浮かんで、部屋の中のシーンなのに美しい広がりを感じましたよ。
夏らしい爽やかさと、きゅんとする切なさが両方入っていて素敵でした。
普通でいたい、普通じゃいやだ。
まだ人生が決まっていないからこその贅沢な悩みですが、これが若さですよね。
ふたりの会話の応酬がちょっと変わっていて、それがまたよかったです。
楽しませていただきました!

鍵コメさまへ
砂凪
いえいえ。
基本的ルールを知らなかったので、ご指摘いただいて助かりました~(^∀^)

鍵コメさまへ
砂凪
こんにちは~。

良い作品!
ありがとうございます…!感激に打ち震えております…!
想像していただけただけではなく、『良い作品』…!←キーワードは繰り返し口にして覚えましょう…(笑)

わたしは案外とベンキョーと相性がよく、やればやっただけ効果が出るものに
「おもしろい~」とすっかり、ハマってしまいました。
いま思えば、好きだったのはベンキョーでなく『効果』だったのだと…。

なんの選択肢もなく進学した身にとっては、
就職or進学、という悩みは青春そのもののような気がして。
なんだか書いていて「うらやましいぞー!」ってなりました(笑)


ものすごく気になる、というの…わかります。
本を読んでいて、好きな作品でも「なんでここに"、"がついているのー?」ともやもやすることがあります。
(ここは読点でなく区点で区切るべきだろう!というのにも出くわします…/涙。)

そして、「知らなかった!」というのが情けなくも答えであります…。
よしもとばななさんが会話文の最後にも句点を用いられるかたで。
到底及びませんが(←当然。)「よっしゃ、ここだけマネしよう」とSSを書きはじめるころに思ったんですね。
それで会話文さいごに「~…。」としてしまっていましたー(>_<)
ワードでも特にはじかれなかったので、これでいいのだと…、てっきり。
ご指摘ありがとうございますー。
今後気をつけますね。

とおりあいみさまへ
砂凪
こんにちは、あいみさま。

…す、鋭いですよ…!(震)
いちばん最初に『ものを書いた』きっかけが詩だったんです。
なぜいきなりポエムに走ったかというと、それは若気の至りで…。
そういえば、書きものをはじめたの、高校生の頃でした(笑)
ぜんぶ、自分のためだったのですが。自己満足ここに至れり。

『ふつう』も『しあわせ』も、どこにあるのかわからない。
そういうとき、だれだってあるよ…といっても本人にはなかなか届かなくて。
だから基樹には『家になる』と言わせてみました。

>たがいに必要不可欠!
なるほど、書いていてぜんっぜん、気がつきませんでした…(笑)
なんでしょうね、読んでいただいてはじめて気がつくことってあります。

勉強に飽きて会話…。
わたしは「時間をこなせばベンキョーしたことになる!」信者だったので、
しきりに親友に「いま何時?」と聞いて嫌がられました。
懐かしいです…。
あの頃のわたしにドロップキックをかましてやりたい!
勉強は時間で測るものじゃない!

自分が自分でどうにもならないとき。
そんなときにホッとすることばをポーンと投げてくれる存在。
それが、大事なひとなんじゃないかな、と思います。

懐かしく読んでいただけたのなら、幸いです。
ありがとうございました。

日高千湖さまへ
砂凪
こんにちは、日高さま。

手紙の投函に出たところ…
「あつはなつーーーい!」と絶叫しながら
高校野球部男子がドップラー効果全開で通りすがっていきまして。
「絶っ対、男子ってなんも考えてないわ!」という気持ちと
「そうだね、きみたちにとってはあつはなついね。」という大人な気持ちが半々になりました。

高校卒業したら大学に進学して、そこから『脱線線路は続くよどこまでも…』なわたしです。
たぶん、いちばん『ふつう』がわからなくて、『ふつう』になりたいのがご本人なのでは…と。
あと、まわりと比べて『ふつう』を判断して、というタイプもいるかもしれませんね。

回遊魚をしつつ納得できているってすごーく、つよいことだと思います。
日高さまの息子さん…。

引っ掛かりコロリしましたか?よかったです~(笑)
あと、ご期待のエロエロに添えずに申し訳ありません…←日高さま宅でいただいたお返事より。
いつか『しっかりベッドで汗をかいて』のあとに『?』のつかないSSを書きます!

『赤い靴』…ぜんぜん知らない曲だったのですが、
たまたま、先日ラジオで耳にしてからたまに脳内無制限ループでスイッチオンになります。
なんでしょうね、あの暗ーいメロディ…。
サカナクションの『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』という歌があり、
それもなかなか……一回思い出すと、脳裏にこびりついて離れてくれないんですー。
あ…『サカナクション』…魚…。はい、どうでもいいですね。

いえいえ、こちらこそ読んでいただいてありがとうございました。

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―…コミュニティが、消えた。ぼくの、すべてだった場所。
UNHCR事務所の受話器を置き、ありがとうございました、と頭を下げてドアを閉めた。これから、どうすればいいのだろう。なにを信じ、どう生きればいいのだろう。冬の空。よく晴れている。

あの軍事的反政府組織のクーデターが成功裏に終わって、日本はふたつに分断されてしまった。クーデターの中央組織が置かれた、ぼくらみたいなマイノリティコミュニティにとっては危険な太平洋側国家。そこからいくつもの山を越え、国連軍に保護された比較的安全な日本海側。あれから、もう、15年。
ぼくらのコミュニティ…自給自足で暮らすベジタリアンが集まる、のんびりした、神さまがつくってくれた楽園みたいな場所。いくつかの共同体的ルールはあったけれど、ぼくたち家族みたいに時代の流れについていけなかったものにとっては、天国みたいなところ。もう、どこにもない。ぼくの家族も、あの共同体も。

15年前、弾圧を受けつづけるコミュニティから「逃げろ」と言ったのは、ぼくにとってはお姉さん的存在だった小菊さんだった。
「いい?風埜、なにがあっても生き延びて」。
小菊さんの最後のことばを胸に、ぼくは山伝いに日本海側を目指した逃避行をはじめた。初秋のことだった。ぼくらは木の実や山菜を食糧にすることもあったから、山中の食べてはいけないもの、食べられるものの区別は容易だった。いくつもの秋の実りに救われて、震える足で必死に走った。ぼくはまだ、12歳だった。
そして、27歳になるいま、ぜんぶを喪った。

小菊姉さんは言った。
「風埜、難民キャンプってわかる?」
「なんみ…?」
「国連難民高等…風埜にはわかんないね、とにかく、あたらしい国境の近くにキャンプがあるの」
「キャンプって、テントを張ったりキャンプファイヤーをしたりする、あれ?」
「全然ちがう。あなたが生き延びるために、国連っていうところがつくってくれる居場所」
小菊さんは大学で外国語を勉強していたらしい。難しいことばでなにやら書きつけ、ぼくにそれを握らせた。そして、言ったんだ。
「風埜、なにがあっても生き延びて」
小菊姉さんの言っていた『キャンプ』に辿りついたのは、冬の足音が聞こえ始めるころだった。ひとりで逃げてきたぼくを、キャンプにいただれもかれもが『奇跡の子』と呼んだ。小菊さんの走り書きを係員みたいなひとにみせると、彼は立ち並ぶテントのひとつにぼくを連れていってくれた。そこに暮らし始めて、15年。

いつか帰れると信じていた。いつか戻れると思っていた。でも、コミュニティが、消えてしまった。

壁沿いに歩いた。行く宛もなかった。ただ、心に空洞があって、そこからなにもかもが抜け出していくようだった。生きる力も、希望も、なにもかも。
パシャッと、音が聞こえたのはそのときだった。飛びあがって音のほうを向くと、大きなカメラを構えた男性がこちらにレンズを向けている。戦場カメラマン。こういうひとがたまにいて、ぼくらの写真を撮っている。なんのためなのかはわからない。無性に腹が立った。なににでもいいから八つ当たりしたかった。小石を拾って、彼のほうに思いきり投げつけた。
「おいおい、きみ、危ないじゃないか」
ことばのわりにのんびりと、彼は言った。ぼくより5歳くらい年上。
「どうしたんだ?国境沿いの壁は危険だろ」
危険。弾圧が始まって…いつだったかの小菊姉さんのことばが蘇る。
『風埜、コミュニティの外に出ちゃダメよ。壁のむこうは危険だから』
やさしかった小菊さん。もう…いない。どこにも。共同体でさえ、どこにもない。空を仰いだ。まだ青い。不意にそれが歪んだ。掠れた声でコミュニティの呼称を口にする。どっと涙があふれた。帰る場所。消えてしまった。

戦場カメラマンは名瀬と名乗った。ぼくの追跡取材をしたいという。
「どうしてですか?」
ぼくのテントの写真を撮っている彼の後ろ姿に訊ねる。
「どうして、ぼくなんですか?」
カメラを構えたまま、彼の背中が言った。
「きみ、弱小コミュニティから逃げてきた、『奇跡の子』だろ」
「……もう『子』って歳じゃないですけど」
わざと、つっけんどんに言ってやった。このひとは、きらいだ。
「やっぱり!」
ぼくの口調などお構いなしに彼はうれしそうに振り向いた。イライラする。
「滅んだコミュニティの生き残り。絶好の取材対…」
歩み寄ると、彼が言い終わらないうちに頬を殴った。数秒、ぼくの時間が止まった。コミュニティの教訓。『暴力は禁忌』。破ってしまった。

それが、ぼくのなかでコミュニティが消えた瞬間だった。信じるものが、生きるための縁が、崩れ去った瞬間だった。

その日の晩の炊き出しは、ごわごわした米飯と薄い肉のスープだった。いままでなら、スープからきれいに肉だけを除いて食べていた。食べ残しはとなりのテントに暮らす家族の子にあげていた。ベジタリアン、菜食主義。懐かしいことばを守りつづけるほうが、苦痛だった。コミュニティの亡霊に縛りつづけられることが。生まれて初めて口にした食べ物は、ひどい臭いがした。それでも噛み砕いて飲み込んだ。吐きそうになりながら、食器を戻しにいった。
毎朝、『恩寵』に祈りをささげるのも、やめた。神さまなんてどこにもいない。恩寵なんて、どこにもない。テントの壁にチョークで描いた簡素な『感謝のことば』を手のひらで擦って消した。
雨に祈りを、日差しに感謝を捧げること。毎晩、コミュニティで歌い継がれていた唄をうたってから眠ること。いろいろな、コミュニティの慣習。ひとつずつ、やめていった。
そのたびに、ぼくのなかであのコミュニティが生き絶えていった。

ぼくが壊れていくのを、別のぼくがどこかからじっと見ていた。そして、レンズ越しにあの名瀬、という戦場カメラマンも。ぼくより、ずっとつらそうな顔をしていた。そんな顔をするなら、取材をやめればいいのに。

コミュニティで、絶対に絶対に『してはならない』こととされていた、自ら命を絶つ行為。それだけを考え続けた。なにもない世界。こんなところに、生きている価値なんて、ない。ただ、残念なことに、ぼくはなにをどうすれば自分が死ねるのか、わからなかった。だから、訊いた。

「あの、死にかた、って知ってます?」
「は?」
「自分で死にたいときに、どうやったら死ねるのか、知ってますか?」
呆気にとられた表情の名瀬さんは、まじまじとぼくを見た。
「きみ、死にたい…の?」
「あたりまえじゃないですか!」
悲鳴のように叫んでいた。
「コミュニティがなくなって、帰る場所を奪われて…信じられなくて、なにも信じられなくて……、これから先、どうなるのかも、どうすればいいのかも…わからなくて……、ずっと信じていたものも捨てて、ぼくが壊れて…」
ひどい眩暈がする。倒れそうになったぼくを名瀬さんが抱きとめた。そのまま、ぼくをテントの隅まで運ぶ。しばらく、重い沈黙が流れた。
「絶望が」
名瀬さんが言う。

「絶望が、希望を照らすことがあると、俺は信じたい」

それから、名瀬さんは話してくれた。彼の、妹の物語。長い長い話だった。最後、名瀬さんの妹さんは、自ら命を絶った。
「毎日毎日、考えたよ。俺も死のうと思ったよ。だけど」
つぎの名瀬さんのことばが祈りのようにぼくの心にしんと沁みた。
「生まれてきた、ってことは、どんなことがあっても、なにもなくても、少なくとも生きることは赦されてる、ってことだよ」
悲しくはなかった。ひたひたと胸の内を潮のように水が満たし、それが波になって溢れたようだった。声をあげて泣いた。コミュニティが消えたあの日から、ずっと泣くことなんてなかったのに。名瀬さんは、黙ってぼくの頭をずっと撫ぜていた。その手のひらが、小菊姉さんを思い出させて、つぎからつぎから涙が溢れた。

ぼくが泣き疲れて膝に顔を埋めると、名瀬さんが正面に回りこむ気配がした。
「風埜」
呼ばれて顔をあげる。次の瞬間、ぼくは名瀬さんの腕の中にいた。
「風埜…、つらいなぁ…」
また涙が零れそうになるのを押し留め、ぼくは名瀬さんの背に手を回した。名瀬さんがちょっと身じろぎした。あたたかい。名瀬さんは、そしてぼくは、生きている。ぼくも名瀬さんみたいになれますか、と、ぼくは訊いた。いつか、絶望が希望を照らすことがあると、心から信じられますか、と。
ぼくは名瀬さんを見上げた。そんな目で見られると困る、と、彼は言った。
困ってください、と、ぼくは言った。

名瀬さんの耳元で、彼を身体の奥深くに感じながら、何度も名瀬さんの名を呼んだ。行為の感覚は、帰る場所がなくなった、あのときの心許ない感じによく似ていたから。名瀬さんも、幻のように消えてしまいそうだったから。絶望の溢れる心のなかで、あと何度、ぼくは希望を信じられるだろうか。

外に出る。夜が明けようとしていた。名瀬さんは眠っている。テントを後に、ぼくは歩きだす。ときどき、木の実を取りに行く森があった。なぜだか、無性にそこに行きたかった。
雑草を、すっかり葉を落とした灌木をかき分けていると、ぽっかりと開けた場所に出た。空が見える。暁の光が低く、影を投げかけていた。走り出していた。
光の中に跪き、手を組み、目を閉じた。
『恩寵』。
あのことばが、聞こえた気がした。


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******

今月の幹事さまは『Stage Direction』の甘楽さんです。
ありがとうございます。

わたしはお題(B)で行ってみたのですが…。
近未来の日本…、『日本難民』って。
どれだけ暗いものを描けば、わたしは気が済むのでしょう。
(『J.R.C.』⇒『Japanese Refugee Camp』の略です。
せめてタイトルだけでも近未来的に…!)

難民キャンプやUNHCRの活動について調べていたら、
気持ちが暗くなってしまいました。
ですので、キャンプの描写はかなり端折ってあります。
いつか、しっかり書けるようになったら、ちゃんと描くべきテーマだな、と。

あと、リアルタイムの行為シーンにはじめて挑戦してみました。
あの……、そういう描写はどうやったら書けるのか
どなたかご教授いただけないでしょうか…(笑)

『恩寵』ということばはとても好きなことばで、
いつか小説の中で使えたらいいな、と思っていたので、
お題SSのキーとして出てきてくれたのでうれしいです。

感想などお聞かせ願えると、さいわいです。


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【2014/09/02 09:18】 | お題SS。
|

えなりさんへ
砂凪
こんにちは、えなりさん。

近未来って全然…わたしのなかで…きれいなイメージがなくて。
進歩の末の崩壊か、軍国国家への変貌か…それしかなくて。
で、こんなお話になっちゃったのですが、その世界観に引きこまれた!って、ありがとうございます。

"東北"自治区で"原子力"村って、なんだか預言書のようですね。
わたしの場合の衝撃近未来小説は、こどものころに読んだ『2050年東京物語』(…だったかな?)なのですが、
その『近未来』が…すごくて…ゴキブリに支配された東京がドーナツ化して、それでもそこで生きる人々、というお話でした。(←!!!)
描写がリアルで、そのあとしばらく子供心に『こいつら、未来支配するかもだな』と彼らを見るたびに思いました。
その方の(こどものころなものなので、著者ど忘れ…)『やわらかな記号』という別のSFもすごかったですが。

風埜は自分にもまわりにも絡め取られ、動けなくなっていたときに
名瀬という『第三者』によって解放される…というのがベースラインです。
泥水によって、息がラクになることってありますね。

いえいえ、こちらこそ読んでいただきありがとうございました。
わたしもえなりさんの作品を拝読したのですが…むぢゅかちくて…うまく感想が書けませんでした…。
この場を借りて、お詫び申し上げます。


えなり
世界観に引き込まれました。
分断された日本というのに、『2030年東北自治区』(作:半村良)という作品を思い出しました。(半村作品のわりには評価低いようですが、今月のお題である近未来日本が舞台です)
近未来SFなのですが、原子力村が出てきて、その描写がとても印象に残ってます。
・・・あ、2030年ってわりとすぐですね。読んだときはまだ20世紀だったのに。。。(^_^;)

主人公がとても苦しそうだったので、最後に光がさしてちょっとほっとしました。
清すぎる主人公が、名瀬と身体を重ねたことで泥水を少し飲み、それによって息がラクになったのかな…などと思って読みました。
読ませて頂き、ありがとうございました。

とおりあいみさんへ
砂凪
こんにちは、あいみさん!

読んでくださってありがとうございます。
近未来に退廃的なイメージを持っているの、わたしだけじゃなかった…!(感動)
どうにも、これから先…日本がいい方向に向かう気は全然しなくて。

『日本難民』…。
難民…世界中にたくさんいて、生きる権利や命の尊厳もギリギリの生活を強いられて。
大学時代に調べたことがあって(課題で)、今回ちょっとまたUNHCRのHPを見たりしました。
……凹みました。わたしは…、わたしは、なにをしているのだろう、と。

風埜はキャンプ全体の『希望』みたいな存在で。
(信条を捨てないで生きてきた15年間、ずっとそんな感じだった設定です)
そういうことって、重荷で苦痛ですよね…。
名瀬は、風埜のそういう危なっかしさに気付いた唯一のひと。
部外者だから、ちゃんと見ることができたのかな、と思います。

Rシーン…!
はじめて書きました!そしてそう呼んでいただけました!
しかも素敵だと…。
頑張って精進しようと思います(笑)

未来のこと、考えていただけたのならうれしいです。
『ひかりのひと』、読んでくださっているとのコメント、ほんとうに勇気になりました。
いつもありがとうございます~。

牛野若丸さんへ
砂凪
こんにちは、若丸さん!

毎回毎回毎回、ヘビーな設定ですみません。
(思い返すだけで、『言霊の罪』・『捨て子』などなど)
でも、日本って…戦争になったらどうなるのかな、と考えてしまって。
集団的自衛権の閣議決定にズーン…、となっていたひとなので。
だから『日本難民』なんです←長い言い訳。

>しあわせを感じるためのもの
……そうならなかったのは、わたしがいまだに『しあわせ』がわからないからです。
注がれることにも、満たされることにも慣れない。
さびしい、とか…そういう状況のほうが落ち着くんです。つらいですけど。
(はい、ズドーン発言。)
もう、それは性格上の問題というより、星の巡りレベルの…。
永遠に『しあわせなR18シーン』を描けそうにないです。

近しいひととの別れ。
しあわせなことに、まだ大事なものを失ったことがありません。
欲しいものを、手にいれたくないからかもしれませんが。
いつも手にするまえに、なくすことを考えて、
「なくして傷つくくらいなら、最初からないほうがいい」と思ってしまうんです。
でも、両親や親友や…そのうち、亡くすんですよね。
いつかそうなったら、ますます重い作品が書けそうです。自分に期待!←ええ!?

こちらこそ、お読みいただきありがとうございました~。


とおりあいみ
砂凪さん
拝読しました。
近未来って、こういった退廃的なイメージ、ありますよね。
難民かぁ。
今の日本では想像できにくいですが、世界中であふれているんですよね、今も。それを考えると、胸が痛いです。
「奇跡の子」とされた風埜が不憫でなりません(ちょっと込み上げてきてしまいました)。が、ちゃんと名瀬によってちょっとだけでも未来を感じ取ることができたので、心から安堵しました。
Rシーン、素敵でしたよ。このSSなら、丁度いいと思います♪
リアルでも少し未来のことを考えさせられるSSでした。ありがとうございます。


拝読しました
牛野若丸
日本人が難民キャンプの対象、という現在では全く想定できないヘヴィな近未来ですね!
身体を繋げるシーンは、BLだと通常は幸せを感じるためのものですが、本作では「生きるため」、「命を感じるため」の行為だと感じました。
僕も近しい人の別れがいろいろありましたので、こういう「命」の大切さを感じられるSSは深くしみます。
今月も素敵なSSをありがとうございました!

荻野ベル恵さまへ
砂凪
こんにちは、荻野さま!
このたびはお読みいただき、ありがとうございます。

わたしは荻野さんと真逆でして…
『近未来にはドラえもんがいたんだった!』と(笑)
どうしても…、素敵な未来を想像できない残念な脳みそです。

現実にある世界を描けるひとをわたしはいつも「すごいなー」と思いつつ、ネット小説を読んでいます。
名瀬は風埜の追跡取材をしているうちに、彼に惹かれていった、という設定です。
で、風埜は名瀬のことばで立ち直りのきっかけをつかんだ、という。
描き切れていませんね、ダメダメです。

読んでいただけてうれしいです!ありがとうございました。

拝読しました
荻野ベル恵
こんにちは。ss拝読いたしました。
近未来の日本というお題を見て私はまずドラ○もんのような 未来を想像したのですがこのような考え方もあるのだと感心しました!!
近未来やファンタジーなど書くのが苦手なので現実にない世界を自分で作れる人に憧れます。
二人とも大切な人をなくしたという共通点があって惹かれ合うものがあったのかなぁと感じました。
素敵なssありがとうございました。

矢島知果さまへ
砂凪
こんにちは、矢島さん!
このたびはお読みいただき、ありがとうございます。

短いんですよね、SSって!←当然のことです。
世界観を全然描き切れていないので、
これをもとに長編を書いてもいいかな…と思っています。
>日本が分断されて難民になっている設定に~…
ありがとうございます~。
退廃的すぎて、どなたにもついてきていただけないかと思っておりました(つд`)゜*・。

ここから自分ツッコミなのですが…
冬の日本海側にはもれなく雪がついてきます。
すっかり忘れていました、日本海側豪雪地帯在住なのに…。
余計に風埜の逃避行がたいへんなことに。

大地讃訟、いい曲ですよね。
風埜が暮らしていたコミュニティはこの曲っぽい地だった、という設定です。
(案の定、描き切れていませんが…)
『恩寵』ということばをうたうたびに、
なにか…神々しいような気持ちになったことを覚えています。

おもしろかった、とおっしゃっていただき光栄です。
感想、ありがとうございました。


矢島知果
拝読しました。
SSなので、短い中でこの世界観を書ききるのは大変かと思うのですが、
私は日本が分断されて難民になっている設定にどっぷりつかりました。
こういう世界観、私はけっこう好きです。
国が分断されるSFちっくな設定の映画を昔みたことがあって、
アメリカが西と東で分断されて、自由の地をもとめて逃げるという話でした。

作品は日本が舞台ですが、
主人公が山を越えて逃げるのは、かなり大変だったろうということも想像つきますよね。
「奇跡の子」と言われるのも。
「恩寵」ですが、大地讃頌!!
私、あれ大好きです。「恩寵」いい言葉ですよね。

面白かったです。楽しませていただきました。

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ご訪問ありがとうございます。砂凪です。
さて、今年も残すところあと3か月。
月初め、ということでお題SSへの参加を表明します。
今回の幹事は牛野若丸さん!お世話になります、ぺこり。

さて、今回のお題SSですが。
この企画、いつのまにか(ほんとにいつのまにかですみません)、ちょいちょい参加させていただいているので、作風や雰囲気をガラッと変えてみましたー!
砂凪がこんなのも書けるんだ!というご感想はもちろんのこと、『あんまり変わってない!』とか『なにを書いても砂凪!』とかの"ツッコミご意見"もお待ちしています。

では、どうぞ。

******

【茶柱信仰】

「うわぁ、立ったよ!ねぇ、ひーちゃん!」
俺と棗(なつめ)が暮らすアパートに、彼の歓声が響いたのは秋も深まったとある早朝。一緒に暮らし始めて半年経つが、台所からベートーヴェンの第九もびっくりの『歓喜の歌』が聞こえるのは4度目だ。
やれやれまたか、と布団から這いだし、オマケにくっつけました、程度の流しとシンクとガスコンロの並ぶ『台所』と呼ぶのも申し訳ないような、台所に向かう。
「茶柱!ほら、拝んで!はい、拝む!」
狭い台所に小躍りしかねない棗の声が響く。棗の前におかれたマグカップを覗くと、たしかに茶柱。形だけ手を合わせてみせると、にっこり笑って見せた棗は慎重にマグカップを口に運び「紅茶じゃこうはいかないからねー」と言う。
……こいつの『茶柱信仰』はいつになったら収まるんだ。そして、きょうも俺は朝っぱらから神社へ行かねばならないのか。棗ご推奨、『神さま茶柱ありがとう参り』。寝起きでぼんやりする頭を引き摺って、着替えの入っている透明ラックを開けた。

教祖は棗、信者は棗、『ひとり新興宗教』的な彼の茶柱信仰がはじまった原因はそもそも俺である。1年9カ月前の夕方に遡る。
なぜか俺のことを気に入っているらしい棗はいつものように遊びに来て、いつものように客のくせに俺に緑茶を淹れた。そのとき、彼の椀に茶柱が立ったのがすべての引き金。そのときはまだ『信者』ではなかった棗の最初のリアクションは「あ、茶柱」程度のものだったのだが…いきなり茶柱に手を合わせたと思ったら、「どうぞお願いします」と呟いた。なんだなんだ、と思っていたところ棗が言うに『ずっと俺のことが好き』だったらしく、『よろしければつきあってほしい』そうで。
棗は可愛らしい外見だし、実はかなり気にかかっている奴でもあったので「いいよ」と言うと飛び上がって「茶柱効果だ!」と言った。

それ以来、謎の茶柱信仰は続いていて、目下、俺らが飲んでいるのは棗の『ぼくたちの縁はぜんぶ茶柱のお陰』という主張により、毎朝晩、緑茶である。

棗はある意味、俺らの大学で有名人だ。関わると『面倒を見ずにいられない』、どこか妙ちきりん、とにかくずれている、異星人みたい、でも憎めない。それが周囲の総意的な反応。決して奇をてらっているわけではないのだが、同学科の連中の癒しの源みたいな存在だ。いや、他学科の奴らにとっても、か。棗の周囲にはいつも笑いが絶えない。あたたかな笑い。棗とつきあいはじめるまで、そしていつのまにか…というか、棗の『ひーちゃんと暮らしたい!』という願望から…共に暮らし始めるまで、ひとり淡々と日々をこなしていた俺とは大違いだ。
俺は中学のころから、自分がマイノリティである事実に気づいていたのだが…棗は性格だか興味の対象だがずれにずれた挙句『同性に恋をしている』状態なのではないかと俺は疑っている。
なぜかというと…、つきあいはじめて1年9カ月、一緒に暮らして半年経つのに、俺らの間には見事なほどになにもない。そういう雰囲気になることはあるにはあるのだが、棗があまりよい反応をみせないので、無理強いするわけにもいかない…たぶん。彼の反応が芳しくないのはなぜなのか。棗のことであるが故まったくの謎。

神社への道を並んで歩きつつ棗は跳ねながら「きっといいことあるよ!」とか「茶柱ってほんとにうれしいよねぇ!」とか、信者らしい発言を繰り返す。アパート近くのわりと立派な神社の鳥居をくぐる前に一礼、手水所で手を洗い、参道の真ん中を通らないように気をつけながら本殿へ。こういう、まめな神社での振る舞いは棗も俺も全く知らなかったのだが、一度目の『神さま茶柱ありがとう参り』の際に、棗がスマホ検索した。
いわく茶柱にかかわることすべてにおいて『俺ら』はまめにならなくてはならないとか。さすが、茶柱信者。

本殿の鈴をがらんがらんと棗がものすごい音で鳴らし、二礼二拍、でお祈り。特に『棗とヤりたい』以外に願いもない俺は、それを神社で祈るのもどうかと思われたので適当に『じゅげむじゅげむ、ごこうのすりきれ!』と投げやりに唱え、一礼。隣を見遣るとまだ祈っている。彼のお祈りが終わるのを待ち、帰ろうとすると棗がおみくじを引きたがった。
「だって、おみくじで大吉が出るように祈ったんだ」
呆れて言葉も出ない、というのはこういうことだろう。
「…その割に長々祈ってたな」
「念押しするために3回祈ったから」
神さまは流れ星かなんかか。というか、『神さま茶柱ありがとう参り』じゃないのか。いつものごとく、棗のマイペースに巻き込まれる形でおみくじを引くのを見守る。くそ真面目に緊張した面持ちで一枚選び、白い紙を開いた棗の顔がぱっと綻んだ。
「ひーちゃん、ほら!大吉!」
ひらひら振ってみせる。確かに大吉だ。
「すごいねぇ、茶柱効果!」
神さまのおかげじゃないのかよ、祈ったくせに。
「おぉー」
と棗が歓声をあげた。今度はなんだ。
「『恋愛』…いくよ。『今の相手が最善。迷うな』だってー!」
無邪気に言うと自分より幾分高い俺の肩をバシバシ叩いてくる。女子高生か、おばさんのノリである。
「お前なぁ!」
さすがに語気を荒げると、棗がびくっとした。なに?と見上げてくる。
「俺の鬱屈も知らないくせに、勝手に最善とか言うな!」
「ひーちゃん、鬱屈してるの?なんで?ぼくといるの楽しくない?」
常に周りの連中から『棗といると飽きない』と言われている、俺と正反対の彼はさも心外だ、と言わんばかりに、じとっと睨んできた。いやいや、そうではないのだ。
「俺はなぁ…さっさとお前が」
言いかけて、やめた。神社で話すことじゃないような気がする。神さまに失礼というか煩悩そのものというか。
「棗」
「なに?」
「帰ろう。話がある」

テレビの部屋、と棗が呼ぶ部屋のローテーブルに向き合って座る。棗は背筋を伸ばし、腹が痛いときのような顔をしている。なんでだ。ローテーブルの上には、昨夜俺が眠ってから書いたらしい棗の…なんだこれ?…絵、らしきものが置かれている。
「お前さ、棗」
「…はい。別れ話?」
「なんでそうなる!」
「ひーちゃん、鬱屈してるー…、って言ってたから」
「全然ちがう。お前さ、朝っぱらからなんかあれだけどさ、俺とヤりたいー!とか思わないわけ?一緒に暮らして半年経つのに」
言い終え、気まずくなって棗から目を逸らす。
「うーん、結構思わなくも…ない、けど……」
「…はい!?」
『結構』、プラス、二重否定の…婉曲なんだか直球なんだかわからないノリで返されるとは思っていなかったので、頓狂な返事をしてしまった。
「茶柱がねぇ…、ぼく、決めているんだけど」
茶柱信者。そうだったよ。いったい茶柱がどうなればそういう運びになるんだ。
「お茶を淹れて、茶柱がひとつのお椀に3本あったら、そのときにしようかなー…って」
しようかなー…ってなんだよ。よもや、ふたりのことを勝手に決めているとは。しかも、それ、ハードル高すぎやしないか?茶柱3本。アンビリーバブルな世界である。
「なんでだよ?」
「え、だってさ、そのくらいおめでたい日じゃないと…できないよ、ねぇ…」
棗いわく、『茶柱が結んだ縁なのだから、茶柱に祝福されないとならない』らしい。もうこうなってくると完全に、シューキョーである。茶柱教。なんたる信仰心、というか、克己心。つきあいきれない、と思う俺と、だからこそ棗!と思う俺が心のなかで会話している気分だ。
「でも、ひーちゃんがぼくのせいで我慢してるんだったら、別に」
軽く手を振って棗のことばを遮った。
「それで、いい」

棗は棗らしくあったほうがいい。

「いいよ、棗」
え?と棗が目をあげた。
「待ってるよ。茶柱の日まで、待ってる。その代わり」
とある苦肉の策を思いつき、条件を出す。
「明日から、俺が緑茶係な」
「いいよー。早起き頑張ってくれれば」
早起きでもなんでも頑張ってやる。苦肉の策。つまり、緑茶の茎を多めに茶を淹れる。茶柱パーセンテージ、大幅アップ。棗の茶柱信仰も守れる、俺の煩悩も遂げられる。苦肉どころか最高の策じゃないか。
神社で引いた大吉のおみくじをセロテープでテレビに貼っている棗を見ながら、ちょっとにやにやしてしまった。
「なに笑ってるの?」
「……いや、なんでもない」

秋も深い、とある朝の話。

******

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【2014/10/01 09:51】 | お題SS。
|

萩野ベル恵さんへ
砂凪
こんにちは、萩野さん!
読んでくださり、感想をくださり、ありがとうございます。

ひーちゃん…かわいいですかー。
作戦って練っているときが一番楽しいものですが
(幼少期、保育園児の友人といたずらしていたころの『ごっこ遊び』)
この作戦に限っては、そうとも言い難いですね。
だって作戦うまくいったら…(*´艸`*)

棗はほんとうに書いていて『おもしろかった』子です。
はじめて書いていて「こいつ楽しいなぁ…」と思えました。

いえいえ、こちらこそ、ありがとうございますっ!

拝読しました
荻野ベル恵
こんにちは。拝読いたしました。
茶柱を3本立てる作戦を練るひーちゃん可愛いですね。
ぜひ成功させてほしいです。
私はリアル茶柱を見たことがないので茶柱にハマる棗の気持ちが分かるような気がします。
いいことがあるかもって気分になれますよね。
楽しく読ませていただきありがとうございました、。

あいみさんへ
砂凪
あいみさん、こんにちは!

実はですね、このSSにはあのくだりを読んだ時点で、第九が頭のなかに流れる仕組みが…うそです、すみません。
ものすごくめでたい朝!を想像していただき、ありがとうございます。

教祖・信者ともども棗。
ひーちゃん、責任重大ですね(笑)
がんばれー!と一生懸命に応援したくなっちゃう子です。

ほんと、いつのことやら。
棗は天然でその『焦らし作戦』を活用しているのかも…なんて思いました。
彼ならば、自然体で、地でいける作戦!
そしてそれを、うけいれるひーちゃんも心が広いのかなんなのか(笑)

コミカルで明るい!
別世界の雰囲気で書いてみましたよー。
意外と雰囲気変えても、すーっと書けるものですね。
案の定、暗くて重い話もあったのですが(笑)いずこかへ消えました。棗パワー!

続編、今日で終わりなのですよ~…。
奏ちゃんとバイバイするのが寂しくてたまらない管理人です。

お読みいただき、感想をくださり…ありがとうございました!


とおりあいみ
お題SS、拝読しました。
自分の頭の中にも「第九」が流れてきましたよ♪
その音楽と共に、「うわ~、……」という台詞が!
教祖・信者共に棗。でもひーちゃんはそんな棗にした責任というものを果たしてもらわねばなりませんね(笑)
しかしそれはいつのことやら。
まぁそれも、ひーちゃんが悪いので(*^_^*)
もしかしたら棗、焦らし作戦なのかしら、とか深読みまでしちゃいました。
ちなみに、茶柱がたったことは一度くらいしか自分はないかな?
コミカルで明るい話、楽しまさせて頂きました。
例の続編も楽しみにしてますね!
ありがとうございます。

可賀さんへ
砂凪
こんにちは!
こちらこそ、はじめまして。
当ブログの管理人、砂凪と申します。

棗が精神的に大人…おお、棗『おとなポイント』もらったよ!っていう感じです(笑)
読み手さまによっていろんな解釈があるのがおもしろいなぁ…と思います。
確かに大人ですよね。
そして、ひーちゃんを試しているという…。

おとなっぽい振る舞いができるひとが、必ずしも『おとな』とは限らず。
可賀さんのコメントで、ふっとそんなことを思いました。

棗、かわいいってありがとうございます!
感想をいただけてうれしいです。
ありがとうございました。


可賀
初めまして。楽しく拝読しました。
この二人、ひーちゃんが棗の面倒をみているようで、実は棗のほうが精神的に大人なところからひーちゃんの成長を見守っているようなイメージでした。……全然違うかもしれませんが!
だからこそ「茶柱が三本立たないと!」なんてかわいいこと言っちゃう棗が余計に可愛かったです。

甘楽さんへ
砂凪
こんにちは、甘楽さん。

若丸さん宅でお題を頂戴してから、呪いのように『茶柱』が脳裏から離れず…。
これってまじめ路線でいけないよね…と思い、コミカルにしてみました。
書けたー!と自分でいちばんびっくりしました、たぶん。

一年九ヵ月は長いですよね…。
しかも半年一緒に暮らしているという設定なのに。
神社でどーしようもない願い事…でも切実な気持ち…しても罰は当たらないと思いますが…。
なんだかんだといって攻のひーちゃんは常識人なのです。
棗のほうが「あんたよくそれで今まで生きてこれたね!」みたいな子になっちゃいました。

『茶柱に願いを』(笑)
このタイトルにしてもいいかなぁ…と思っていたのですが、
書いているうちにこのSSには『茶柱信仰』しかない!と勝手に思いこみました。
なにかに願いを込めること、わたし好きです。
さすがに、茶柱は…ですが(笑)

拝読しました。
甘楽
こんにちはー。

こういうコミカルな作品もまたいいですね!

一年九ヶ月はずいぶんと待たされていますね!
そりゃあ、神社で邪で下衆な願いをしてしまいたくなるわけですね。
そのあたりのやけくそな攻が面白かったです(^^)/
でも、じゅげむ~でやめておくのが偉いですが、頭の中で考えてしまったら神様には透けて見えていそうですよね(*´з`)
でも、その本当のお願いが成就する日は近日中なんでしょうね( *´艸`)

砂凪さんのは茶柱に願いを込めて、でしたが。
私のは大豆に願いを込めてになっているので、ちょっと似ています(苦笑)


矢島知果さんへ
砂凪
矢島さん、こんにちは。
読んでいただき、ありがとうございます。

茶柱3本、ひーちゃんの苦労話に発展させようとしたのですが…。
ほんとうにあるんですね、そんなありがたーいお茶が。
ひーちゃん!手抜きしちゃダメだから…!
もっとびっくりしたのが『茶柱のお茶の検証をしているサイトさん』。
いろんなサイトがあるんですねぇ…。
その方も茶柱に並々ならぬ愛と信仰を注いでいるものと思われます。

棗は…書いていて面白かったのですが……振り返ると謎な子です。
フィクションだから存在しうるというか。
常識人のひーちゃんが、ほんとにかわいそうです。

コミカル!とおっしゃっていただけてうれしいです。
軽く読んでいただけるように頑張りました!
いつもズーン…みたいなお話なので。

ご感想、ありがとうございました!


矢島知果
茶柱3本、ハードル高すぎると思ったのですが、そういうお茶が売られていると?
おもわずネットで検索してみました。
ありました!!売ってるんですね。そういう茶柱のお茶が。びっくりです。
茶柱のお茶の検証をしているサイトさんを拝見したところ、茶柱の片方を焼いている?みたいなことが書いてありました。
今度、茎茶を買ってきて自分でやってみたくなりましたけど(^^;)
棗はあくまで、信仰として茶柱を信じているんですよね(笑
お預けくらって、ちょっとひーちゃんが気の毒ですが(笑
こういうコミカルな作品もいいですね。
面白かったです。

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いつもご訪問ありがとうございます、の方も。
こんにちは、はじめまして!の方も。
今月もお題SSに参加させていただきました、砂凪です。

今月の幹事さまは甘楽さんです。お世話になります。

わたしはお題B、しかも捏造童話で書いてみました!
えーっと、前回の『茶柱信仰』でイメージファイト(笑)を行ったのですが。
変えられるのはイメージだけだ!と痛感しました、本流は変わらない。
というわけで、通常運転にギアチェンジしました。

******

話は逸れますが。
今回のお題SS、課題Bにつきまして。
あの、童話といえば『シンデレラ』だよね!というまっとうで健全な思考のみなさんが、すごくうらやましいなー…、って。
わたし、好きな童話がアンデルセンの『赤い靴』なんですよね。
あれで一本書いたのですが、ホラー小説になったので没です。
仮にタイトルをつけたところ、『足音だけの恋人』でした…(笑)
タイトルだけどこかで使えないかなー…、と思っています。

では、拙作をどうぞ。

☐ ☐ ☐

【more than ever after】

ねぇ あなたは。
ねぇ どうして。
くるくると くるくると
そんなにも休まずに働くの?

わたしは砂時計。
わたしの仕事はときどき
足を頭に 頭を足に
3分の時を告げること。
あなたは置時計。
どれだけの時を告げても
あなたの仕事は終わらない。
いくつもの朝 いくつもの夜
あなたは時を告げつづける。
そのきれいな秒針と長針と短針で。

「ねぇ、疲れない?
そんなにも休まずに働いて」
「ぼくは休めないよ。
ぼくが止まってしまったら、ここの時が止まってしまうもの」

わたしは
くるくると くるくると
回るあなたにめまいを起こしそうで
あなたのことが
心配で 心配で
あなたのとなりで
あなたが刻む時を
しずかに聞いていた。
ときどき
人間の手で
足を頭に 頭を足にされ
3分の時を告げながら。

***

「なにを熱心に読んでいるのかと思ったら」
彼はぼくの手から絵本をさりげなく、取り上げる。
「いいだろ、別に」
「何回目だよ。これ読むの」
「わからないけど、表紙が剥がれそうなんだ。直してきてくれる?」
彼はため息をつく。
これ見よがしにこの童話とも詩ともつかない物語を、幼少期から好きだった本を、読むわけじゃない。読むことで、未来に漂うであろうものを分散させている。それを知っているから、わかっているから、彼もぼくを無理に止めようとしない。ただ、かなしそうな顔をするだけだ。
「続き、読みたい。貸して」
「本を持っているの、疲れただろ」
取り替えたばかりの掛け布団のうえに大判の絵本を置き、彼はゆっくりとページをめくる。
ぼくが頷くと、あたらしい1ページが現れる。

***

あなたは時を告げつづける。
でも わたしは
あなたの限界が 近づきつつあることを知っていた。
だって ほら
その秒針が長針が短針が
あなたのそのきれいな3本の腕が
だんだん ただしい時間とずれてきているもの。

「ねぇ、すこし休んだら?あなたは疲れているわ」
「だいじょうぶ。だってこれがぼくの仕事だもの」

あなたはますます頑張った。
とてもとても頑張った。
けれど
3つの針がただしい時とずれていくことを
どうすることもできなかった。

あなたは自分を責めつづけた。

「ぼくのせいで、ここの時は遅れてしまった」
「ぼくがもっと、ちゃんとしていれば」

わたしはあなたを懸命になだめたけれど
あなたの針の遅れは増すばかり。

そして ある寒い冬の朝。
とうとう あなたが止まってしまった。
かなしかった。
時が止まってしまったからではなく
あなたのやさしい声を
その針が時を刻む音を
もう
二度と聞くことができないと思うと。

だれもわたしをひっくり返してくれないから
わたしは砂の涙さえ流せずに
ただただ
止まってしまったあなたのとなりにたたずんでいた。

***

彼が口をぎゅっと結ぶ。
ぜんぶ、ぼくがわるかったのに。過労気味であったぼくが、異変に気付けなかったこと。誤魔化していたこと。それがすべての原因だったのに。
どうしてこんなに、疲れやすいんだろう。なんでこんなに、だるいんだろう。なぜこんなに、めまいや立ちくらみが起きるんだろう。ぜんぶ、『仕事に追われているから』だと片付けた。気がついたら、ほんとうに『気がついたら』…ぼくの日常は、ドナーだの、移植だの、聞き慣れないことばばかりに囲まれる毎日になってしまっていた。
彼が言う。
「会社側はオーバーワークによる症状の看過を認めないってさ」
「知ってるよ。母親が怒ってた。で、父親がそれを宥めて。いつもと逆だったからびっくりした」
「お前は怒らないの」
「いまさら仕方ないよ」
穏やかで、やさしい時間。ぼくたちが最後に手にしたもの。周囲に関係をカミングアウトし、最後に手に入れたかったもの。だれにも踏みにじられない、ふたりきりで過ごせる、あたたかくて脆い時間。失うために紡ぐ時間。
彼の手がゆっくりと次のページをめくる。物語がつづいてゆく。

***

人間がわたしたちの部屋に入ってきた。
あなたが命がけで時を守ろうとした部屋に。
あなたを見ると
チッ
と舌打ちをして
「なんだ、壊れてら」

ガシャン


あなたを
わたしの目の届かないところへ捨ててしまった。

暗くてさびしい冷たい場所に
あなたは行ってしまった。
逝って しまった。

あぁ
でもこれで あなたは自由になったのだ
やっとやっと 安息を手に入れたのだ
そう
思おうとしたけれど
あなたの刻む音が
せわしくも愛しい音が
恋しかった。

ねぇ
わたしは砂時計。
自分で泣くこともできないの。
人間がわたしをひっくり返したから
わたしは3分だけ
砂の涙を流した。

涙の砂が
永遠を刻んだのならば。
わたしは永遠に泣きつづけることができるのに。

わたしに与えられた時間は 3分。
愛しさに泣き崩れるための。
恋しさに胸を痛めるための。

3分。

たったの。
たったの。

***

「いつも思うのだけれど」
背もたれのクッションに半分埋もれたぼくは言う。随分と薄っぺらになってしまった身体。
「この話、どうしてここで終わりなのかな」
「え?」
ぼくは最後の段落を指差す。自分の腕が重い。
「童話は、happily ever after で終わるべきだよ」
「めでたしめでたし、ふたりは末永く幸せに、か」
彼が言う。ぼくはすこし笑って答えようとする。笑ったせいか、発声のタイミングを逃した。最近、声を出すこともだんだんできなくなってきた。
それでも、絶望の波を何度も乗り越えたぼくたちは、軽口を叩くことも、笑うことさえできるようになっている。ほんとうの絶望の姿は、涙ではなく…それすら乗り越えた笑顔なんじゃないかと最近、思う。数回息を吸って吐いて、ぼくは答える。
「『ふたりは』じゃなくてもいいけどさ、どうして、この砂時計はあたらしい置時計がやってくることに期待できないのかな。そういう展開がないのかな」
「……それは」
「別に、置時計は世界にひとつしかないわけじゃないのに」
解放してあげたい、と思う。別に面会時間に無理してまで、毎日ここに来なくてもいいのに。あたらしい、しあわせを見つければいいのに。だからぼくは言う。もうすぐ、痛みもなにもなくなるのだから、いなくなる前に彼の痛みだけでも払ってあげたい。たとえ、いま、自分の心が捩れて歪み、壊れそうなほど不安で痛くてかなしくても。
「置時計はもういないんだ。いつまでも想っていても仕方ない」
「虚しい考え方だな」
「過去に囚われたままでも、未来は見えるのかな」
彼が黙った。ちこちこ、と秒針の音が響く部屋。いつになったら時計は止まる?

「想う権利はあるだろ」
ぼそりと、彼が言った。痛かった。ぼくが解放してあげようと思えば思うほど、重ねたことばに彼は囚われていく。置時計はどう思っていたのだろう。永遠に続く3分を、望んでいたのだろうか。
「想いを断ち切ってもらう権利はないのかな」
飄々として気まぐれなイラストレーターの彼と、真面目に日々をこなしていくしか知らなかった会社員のぼく。刻む時間の本質がちがっていたのに、どうして惹かれあって恋をしたのだろう。
ぼくたちはもう、お互いの疼痛が相似形をしていることを確認する行為でしか繋がることができない。幸福の形を確かめたり、身体を重ねたりして、愛を繰り返していたころが嘘のように。こんなかなしい毎日でも、朝は裏切りのようにやってくる。
「それは権利じゃなくて、願いだろ。すべての願いがかなうのなら、この世はとっくに楽園みたいな世界になっている」
その言いかたが彼らしく、ぼくは笑う。ほら、笑うことができる。痛みを感じながらも。

ぼくの病気が発覚したのは、もう治療の余地がほとんどなくなった状態になってからだった。彼は言う。どうして俺が気付けなかったのか、傍にいたのは自分だったのに、と。彼のせいじゃない。すべて、ぼくの責任なのに。
ほんとうは、時間を刻むことをやめたくなかった。彼の傍にいるためにも、太陽光で動ける時計でありたかった。それでも、叶わなかったぼくの願い。放射線治療センターに流れていた時の音に疲れたぼくは、一切の治療を拒む道を選んだ。

「止まってしまうことを、置時計は知っていたよ、きっと。砂時計に申し訳ないと思っていたんだ」
ぼくが、緩和ケアのなかで自分が終わっていくことを知っているみたいに。声には出さなかった言葉を、彼は聴いた。
「知っているから、痛むんだろ。わかっているから、つらいんだろ」
いつもの、相手の痛みを感じ、自分の痛みを棚上げしあう会話。棚に積み上げた感情は積もり積もって、崩れ落ちそうになっている。ぼくの口からするっとことばが漏れた。
「more than ever after」
「…え?」
「終わりがないよ、置時計の想いには。だから、砂時計が愛しい音を忘れても大丈夫なんだ」

面会時間の終了を告げるメロディが流れる。場違いに能天気な旋律。ぼくは急いで伝えたいことを口にする。もしかしたら、「また明日」はないのかもしれないのだから。
「砂時計はあたらしい音をさがしてよ。オルゴールでも、からくり時計でも」
「永遠に砂の涙を流していたくても?」
「砂時計は忘れても憶えているはずだから。砂が流れるたびに、思い出すはずだから、それだけでいいよ」
絵本をベッドの傍のラックに戻しながら、彼の涙の気配を感じる。この本を彼に直してもらうのは、やはりやめにしておこう、と思う。

「面会時間、終わりだな」
「そうだね」
「じゃあ、また明日な」
「うん、“また明日”」
この約束はいつ果たせなくなるのだろう。ぼくの電池はあとどのくらい残っているのだろう。もう、考えるのも疲れた。だから、忘れてくれればいい、と思う。忘れてほしい、と。
同時に、ぼくを忘れないであろう彼の心を知っている自分に気がついている。
「more than ever after」
また、呟く。永遠より、ずっとずっと。永久の、その先へ。廊下にたたずんでいたであろう、彼の気配が消えたから、思いきり、泣いた。

******

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【2014/11/05 09:50】 | お題SS。
|

真雪さんへ
砂凪
こんにちは、真雪さん。
はじめまして、拙ブログの管理人、砂凪と申します。

芸術…芸術ですって…(うわごと)
ありがとうございます!
ことば運びを褒めていただいたのは初めてです。
小説の枠を…飛び越えていて…
なんだか激賞の限りを尽くしていただき、申し訳なくなってきました…。
でも、素直にうれしいです。

引き込まれる、というのが書き手としては一番、よっしゃ!というポイントです。

いえいえ、こちらこそ、読んでいただき、コメントをくださり、ありがとうございました!
ではでは(*^∀^*)

こんばんわ☆
真雪
こちらには初めてコメントをさせていただきます。
もうまさに芸術、という感じの言葉運びでした。
小説の枠を飛び越えていて、私の中にはないものを刺激されたな……と思います。
砂時計と置き時計、ぼくと彼なんですね。
切なくて読んでいくうちに引き込まれてしまう感じでした。
こういうお話しは初めて読みましたが、読めて良かったな~と思いました。
ありがとうございます^^

可賀さんへ
砂凪
こんにちは、可賀さん。
『脳内シンデレラ』…名フレーズです!

『ぼく』がかなしいお話を好きだったのは、わたしが救いようのない物語をよく読んでいたからです。
本文にも書きましたが…子供心に『赤い靴』とか『人魚姫』が好きだったんです(笑)
どんだけ暗いこどもだったのでしょうか。

〉「ぼく」もやっぱり、「彼」と一緒にいるために~…
話が逸れますね、自立とは精神的にも金銭的にも程遠い砂凪ですが、可賀さんのことばでハッとしました。
自由になりたきゃ、あんたの足で歩けよ、っていうことですね。
さて、話を戻して(笑)。
「ぼく」にいろいろ背負わせすぎちゃったなぁ、と反省中です。
職業について、フリーな感じのものを砂時計(彼)に、忙しないものを置時計(ぼく)に、と思っただけでした。
でも『後ろ盾』。全然考えていませんでした。

終わりの見えないところにしあわせはなかった。
この表現がグッサリきました。
そうなんですよね、そうですよね。凹みますね、ホント。

可賀さんのナイスアイディアに脱帽です。
〉なぜなら、この絵本を~…
あぁ、そうか。メッセージとして残しておく。切なくて、やりきれないけれど、まだ救いようがありますね。

いえいえ、この企画は色々な切り口から作品を見ていただけるのが楽しいです。
通常運転はいつもこんな感じなんです。前回、かっとばしすぎました。

いえいえ、こちらこそ、お読みいただき(作者より)考え深いコメント、ありがとうございました。


可賀
こんにちは!脳内シンデレラの可賀です。笑

「ぼく」はなぜこんな悲しみの童話を、幼少の頃から好きだったのかなと思いました。
置時計は「時」を守るため、つまり砂時計と一緒にいられる「時間」を守るために働き続けたんだろうなと思うけれど、「ぼく」もやっぱり、「彼」と一緒にいるために頑張りすぎてしまったのでしょうか。
自由が許されるには自立が必要だから。
とくに、同性同士の恋愛で、彼は自由業でとなると、自分が頑張って色んな後ろ盾を整えなければならない。と無意識のうちでも頑張り過ぎたのかな。
二人にとって、終わりの見えないところに幸せはなかったわけなので、悲しいお話だなと思います。
「砂時計はあたらしい音をさがしてよ」からの「ぼく」の台詞が、彼への願いとしてではなくて「絵本の続き」として語られる。最後の力を振り絞って、書き残して置いておく。とかね。
そうしたら、少し救いのあるラストになるんだろうななんて思いました。勝手な希望ですが。
なぜなら、この絵本をこれからめくり続けていくのは彼なんだろうから。

というわけで、自分勝手に解釈してしまい、すみませんでした。
砂凪さんの通常運転はこちらだったのですね!色々考えさせられるお話、読ませて頂いてありがとうございました。

鍵コメさんへ
砂凪
こんにちは。
お読みいただき、ありがとうございました!
『素敵』と仰っていただけてうれしいです。

その歌は存じ上げないので(すみません!)、『ひまわりの詩』、さがしてみますね。
わたし個人的にこのお話のテーマソングになっているのが…
柴田淳さんの『きみが思えば…』という、ファンの間で解釈がすごく分かれる歌なんです。
わたしの見解では、この歌の『ぼく』は病床にあって…、というもので。
そう考えると、もう歌詞が切なくてですね、どうしようもありません。

童話のほうが書けたら、メインはあまり迷わずに書けました。
というか、迷いようがないですよね(笑)
〉切なくて苦しくて泣きたくなるような…
はい、わたしもそういうお話がすごく好きです。

独特、だと!
うわぁー…、ありがとうございます、うれしいです。

暖かいコメント、ありがとうございました。
これからもがんばりますので、よろしくお願いいたします。

*コメントお返事が遅くなってしまい、すみません。きのうは野暮用で外出していたため…(≧へ≦)

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矢島知果さんへ
砂凪
こんにちは、矢島さん!

好みのツボでしたか~(*´ε`*)ありがとうございます。
本を読んでいる設定をしばらく隠しておいた方が面白いかな…と思ったのですよ。
擬人化!あぁ、そうか、それがありましたね。
じゃあ、巷の絵本やなんかは擬人化に溢れていると…うふふー…。

そうなんです、本編のベースなんですよー。

『どうしようもなく未来のない』お話。
すごく好きなんです。←このジャンル書きとしてダメっぽい……。
毎日、だれにも立ち入れない時間を持って…というの、たしかにこのお話の唯一の救いですね。

「、」の間。
こういう句読点の使いかた、難しいですよね…。
わたしは日々、改行と段落わけに頭をかきむしりつつ(笑)連載しています。

読めてよかった!なによりの褒め言葉としてありがたく頂いておきます。
読んでくださり、感想をくださり、ありがとうございました!

Pearswordさんへ
砂凪
こんにちは、Pearswordさん。

"more than ever after"。
"ever after"が『ずっと』という意味です。
それにmore than(『~より』)で、『ずっとより』、意訳して『永遠の先へ』。
こんな文法で成立しているはずです。
あー…でも、"forever and more"のほうがわかりやすかったかな。

童話に割いた時間のほうが長かったです、正直。
…っていうか、お題が『童話や戯曲、名言をモチーフに…』というものだったので。
本文にもありますように、『赤い靴』で書きはじめたのですが、どんどん逸れてホラーになりました。

いや、これBLとして成立しておりません!
ジャンルのデフォルトとして『HAPPY』が最終的に求められるのです。
でも、しあわせの意味がわからないわたしにそれを書けというのは…無理がある…。
あと、『ホモ』は侮蔑と差別の含みがあるので使わないほうがいいですよ。

頑張れないです、これがわたしの限界です。
今回はむずかしかったなぁ…。

では。


矢島知果
このお話、どっぷりと、私好みでした。
冒頭で時計のお話部分があって、
(腐の高等技術?)擬人化状態で、これが延々と続くのかしら?と思ったのですが、
きちんとBLに繋がっていて、本編のベースになっていて面白かったです。
どうしようもなく未来のない二人なんだけれど、
カムアウトして、二人だけの時間を持てたというのが救いですね。
ラストなんて、「おもいきり、泣いた」なんて、もう悲しい。
「、」の間がね……。最後の最後まで、私のツボを押してくれました。
なんとも切ないお話なんですけど、
こういうお話、大好きなので読めてよかったです。

more than ever after
Pearsword
 この成句の意味が、わかりませぬ。「後よりいよいよ多く……?」英語力、Lowソクの灯火です。くだらない洒落でした。

 童話になぞらえてBLの二人の仲を書くあたり、技ありでしょうか。その童話世界が上手くかけていたので、面白かったです。
 また、二人が、いかにもホモっぽくなよなよしていて、いかにもBLというような(というほどこのジャンルの小説を知りませんが)感想を持ちました。
 
 僕よりは、上手いと思うので、僕が言う事ではありませんが、がんばりましょう。
 では、また。

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デパートに併設されたスターバックスの隅の方の席で、丘本は心底うんざりしていた。いったいどうして、こいつは恋人に振られるたびに俺を呼びだして、延々と涙ながらの愚痴を言うのだ…、と。
面倒くさいこと甚だしい目の前の男に、訊ねる。
「今回はどうしてダメになったんだよ」
残酷な訊きかたをするのは、自分が傷つきつづけていることを丘本が自覚しているからだ。
「…だから、訊いただけなんだって」
「なにを?」
さっきから相手の話は全く要領を得ない。いらいらする。

「未来も一番、好きでいてくれるかどうか」

絶句する。
そういえば、以前、彼とつきあっていたころ、おなじことを俺もこいつに訊かれたな、と思いだす。
けれど、自分がどういう返答をしたのかが思い出せない。
ただ、その質問設定が怖ろしい、と感じ…ぞっとしたことだけは覚えている。

「おまえ、いいかげんその質問に懲りたらどうなんだよ」
「…え?」
ブラックのコーヒーを飲めない相手は、それはもうカフェオレだ、と指摘したくなるような飲料をひたすら撹拌していた手を止めた。
「質問設定のやりかたがものすごくこわいから、やめろ」
「なんでさ」
「相手にあるはずの希望も可能性も、みんなシャットアウトしてくれ!って言ってるようなもんだろ」

そうだ、そう思って俺がなにも答えなかったら、こいつは風に吹かれるようになにも言わずにいなくなってしまったのだ。
そしてその後、1年半ぶりに携帯に連絡があったと思ったら、「振られたから話を聞いてくれ」ということだった。
それからというもの、恋が折れるたびに俺はこいつに呼び出されている。そして、そのたびに、自分はどこかでちいさく傷ついている。

「何気なく訊いただけなんだ」
「ますますこわいだろ」
「だけど、永遠に好きでいてくれるかどうか、訊かないとわからないじゃないか」
丘本は眼前の相手をまじまじと見遣った。
「おまえ、『永遠』とか本気で信じているわけ?」
「だったら、なんだよ」
「呆れる。あのな、永遠の愛なんてこんなもんだよ。いいか、いま感じている愛情を、切り売りして分割払いしていったら、なんとかかんとか未来っぽいところまでもちそうだなー…っていう、それだけのもの」
「夢がない!」
憤然と、相手は言う。現実に夢を求めてどうする、といいたいのをぐっと堪えた。
「これからのお前の未来のために言うけど、この世に永遠は…」

言いかけたところで、丘本を呼ぶ声がした。
幾万の声のなかにあっても、この声だけは聞きたがえないと信じられる声。
「パパー!」
丘本の娘がまっすぐに走ってくる。飛びつき膝によじ登るなり、まくしたてる。

「ねぇ、パパからママになんとか言って。あのね、みかがほしいランドセルがほかのよりたかいの。でも、ほかのランドセルよりかわいいの。ねぇねぇ、だいじにつかうから、あのランドセルをかってやっていいじゃないかって、パパからママに言って!」

拙い根回し。頬が緩むのを感じた。
そういえば、出がけにランドセルを見に行くから…という妻子を、おなじデパートに連れてきた。
ふと、先ほどのことばが頭を巡る。永遠は。

「永遠は、あるかもしれないな」

しがみついている娘の肩越しに、以前愛した男に告げる。
『永遠』をひとが生きている残りのすべての時間、と定義するならば。丘本にとって、娘は永遠の愛の対象だ。分割どころか重なる日々に貯蓄されていく、愛。
「なんだよ。どっちだよ」
コーヒーもどきを口に運びながら、男は笑う。傷は痛むはずなのに。まだ、失意の水底にいるはずなのに。丘本の娘に手を伸ばし、髪を撫ぜてやっている。首だけで彼を振りかえり、娘は笑った。
「こんにちはー、おじちゃん!」
「おじちゃん!?」

目の前の存在を救うのは容易い。しかし、すべてを裏切り、彼の望むものを与え、口先だけでも永遠を誓えば、共に水底に沈むことになるのだろう。永遠のない、水底。
しかし、と。丘本は思う。触れられなければこそ、永遠をまったくの他者に与えることができるのかもしれない。
失意の暗い水底から見あげたときに、きらきらと輝く光。彼にとって丘本がそういう存在であるからこそ、沈み込んだときに彼が手を伸ばすのが自分なのかもしれない。それならば、俺はこいつの永遠の光であろうと思う。

「俺、こいつのランドセルを見に行かなきゃならんから、行くが」
娘を抱きあげ、丘本は立ち上がる。
「そうか、ごめんな、わざわざ呼び出して」
「謝るのが遅いだろ。永遠があってもなくても、話くらい聞くから」
あぁ、そうだ、と付け加える。
「お前、”未来も一番好きでいてくれるか”って俺にも訊いたよな。そのとき、俺、なんつったっけ?」
「お前だけだよ、真面目に考えてくれたのは」
思いがけない返答に、光は揺らぐ。
「真剣に考えてくれたのが重くて、なにもできずに逃げたんだ」
「……そうか」

重い光。それでも輝く。
どうしようもないとしか形容できない目の前の男が、救いを求めて手を伸ばすのが自分である限り、”永遠”に光でありつづけるだろう自分を、丘本は知っていた。

******

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【2015/01/31 19:50】 | お題SS。
|

可賀さんへ
砂凪
こんにちは、可賀さん。

>そうきたか!
その反応をお待ちしておりました~、ありがとうございます。
丘本は妻子持ちじゃないと、どん詰まり不幸っぽいひとですね、そういえば…(笑)

『永遠の愛』を信じられない、っていうのはひとつの誠実さの表れだ!というのが信条です。
お互いに移ろうことを許し、それでも愛をするのなら、それがいちばんいいな、と。
反して、こどもに対しては「未来も一番好きでいてくれる?」の質問に「当然!」と即答できなきゃ親じゃないと思うんです。
(…いや、理想として…わたしまだ、親をやったことがないので……)

…あ、奥さんでてきませんでしたね。あちゃー…って、遅まきながら気がつきました。
奥さんは丘本のすべてを理解した上で、彼を愛している設定です。
丘本も、奥さんのことを最上級で愛しています。
でも、どこかでその感情が儚いことに気がついて、一歩引いている…彼にしていたように、という設定です。
(あ、だから丘本はバイセクシュアルということになるんですね。)

よく読んでみると、一番切なくて誠実なのはフラフラしているみたいに見える丘本だ!という。

お話、読んでくださり、ありがとうございましたヽ(´ー`)/


可賀
片思いの相手からの容赦ない恋愛相談に悩む主人公、かと思いきや、妻子持ちの設定でそうきたか!と。
彼に対しては「永遠の愛」を安易に信じられなかった主人公が、娘に対しては当然のように感じられる、というのは、なるほどなあと頷きました。
その一方、主人公にとって妻はどういう存在なのかな!?と気になってもしまいます。彼のことを愛したように愛しているのか?それともまったく違う情なのか?
性指向による部分もあるかもしれません。語られなかった部分にふと興味を持ってしまいました。

若丸さんへ
砂凪
こんにちは、若丸さん。
幹事役、いつもいつも、ありがとうございます。

これ…なにエンドなのか自分でもわからないまま、終わってしまいました←ダメじゃん…。
もっと、どうしようもなく苦しい話にしようと思ったのですが、『なんとなくいい話風』なエンディングに。
丘本が中途半端に相手を思いやっているせいであり、相手がいつまでもいつまでも、丘本を頼っているせいであり…。描いていて、「…いいかげんにせんかい、あんたら!」と自分ツッコミを入れておりました。

ひよりさん。名前がかわいい!←そこなの!?(笑)
あ、わたしもありますね…『恋愛感情<<<<友情』みたいな不等式。
10年来の親友はいても、10年続いた恋、というためしがないもので。
この不等式を持った人(ex.わたし)がどうやったらまともに恋ができるのか、是非ともその本で学習したいです。

切ない、と…しあわせ、は必ずしも相反するものではないと思うんです。
というのが伝わったようでうれしく思いますよ!
丘本が真剣に考えてくれた『重さ』のありがたみに気がついた相手、なんですよね。
最後にそこに落としたつもりだったのですが、錘がちょっと足りなかったかな?とも思いました。

ハッピーエンドに捉えてくださって、ありがとうございます。
BLマジック(笑)現実になかなかないですよね。

お読みいただき、ありがとうございました~。

Pearswordさんへ
砂凪
こんにちは、Pearswordさん。

あのですね、恋人に『未来もずっと一番好きでいてくれる?』と訊ねられて『うん、あたりまえじゃないか』とすらっと応えられる輩は女にしろ男にしろなーんにも考えていないアホウなので要注意ですよ。考え込んだり、未来かぁ…と言ったり、そういう反応が真実味があって真摯だと思います。
…zoeとは?とは聞きません。むぢゅかちい話になるのが目に見えております故…。

恋愛をしているときに、永久の愛を誓ったりはしてないわたしです。なんとなく傍にいて、なんとなく好きだなー…と思って一事が万事『なんとなく』です。
あと、これはわたしの個人的見解ですが、結婚は相手を縛る枷でしかないと思います。きらいになったり、やさしかったはずのひとが実はとんでもないDVだったり…した場合に逃げ場を四方で塞ぐための。
熱愛ねぇ…ウザいですね(苦笑)ただでさえ『好き』は暑苦しくてややこしい感情なのに、わざわざそこに『熱』をつけんでもいいがな!とわたしにはおもちゃいます。
『自分より大事』というのは、相手の意見を尊重すること…、にすぎません、わたしには。命をわざわざ捨てずとも…。

あぁ、だからわたし、恋愛が長続きしないんですね。
というか、いままででたったひとり、心底好きになってこちらからなんとなく永遠を望んだ相手に去られるんですね。
すっごく納得しました!

あと、親友は『エンゲージリング?もらってないし、欲しくないもん』とのたまいました。
る…類友規則って怖ろしいですね(大爆笑)

拝読しました
牛野若丸
おおおすれ違ったままのバッドエンド!? と切なくなりながらも、なんだかさわやかな読後感でした。
丘本くんの決意(?)は、一つの深い愛の形だと思いますし、相談ばかりする一見鈍感な相手くんも、一番長く続く関係に丘本くんを選んでいる気がします。
深山ひよりさんに『終わりのない片想い』というBL小説があるのですが、その攻めは家庭の境遇のせいで、「恋愛関係は永遠じゃないけど友情は永遠」という思い込みがあるんです。
もちろん読者からは攻めが受けにベタボレなことがバレバレで(笑)、ちゃんもハッピーエンドに行くんですけどね。
「トワノヒカリ」を読むと、全てを壊してしまうより、永遠に光でい続けようとする丘本くんが、切なくても幸せに見えます。
それは気持ちの上でも、丘本くんの今の家族に対する裏切りにはならないと思うんですよ。
丘本くんに爆弾質問をして逃げて舞い戻った相手くんも、ただのこだわりや気まぐれじゃなくて、丘本くんと精神的繋がりがあるんでしょうね。
苦く切ないバッドエンドにも見えるけど、僕は一つのハッピーエンドの形として解釈しました♪
別れたカップルが一生パートナーとして付き合うってイイ話、物語でもよく見かけますね。
もちろんBLマジックでくっついてくれるのもうれしいけど(笑)。
素敵なSSをありがとうございます!

ダイヤモンドは永遠の輝き……
Pearsword
 永遠の愛か……、一見、なんだがえらい荒んだ見方をしてらっしゃいますね。
 僕は、永遠の愛は、zoeに宿るものだと思う。個々の生命たるbiosが、個体間に継承されて、生物総体の命のzoeになる、そのzoeに永遠の愛が宿るのだと思います。
 だから、恋人の二人の間の愛は、zoeの愛に透徹してはじめて、永遠の愛になるのでしょうね。この小説をよく読むと、そのような趣旨も読み取れるようです。
 でも、恋愛をしている時って、みさかいなくふたりの間の永久の愛を、誓ったりするものですね。そうしないと、結婚できませんね。切り売りではなくて、お互い与え合って燃え上がる、そんな熱愛を誓うものです。 また、純粋な若い時って、そういうふうに相手をだれよりも大切に思えるのですよ。その人のためになら、命を捨ててもいいと。純粋に、そう感じられるんです。
 それで、婚約指輪は永遠の輝きであるダイヤモンドなのだろうと思います。ダイヤモンドが高価なのも、そういう意味があるわけです。
 
 

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