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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
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記憶ばかりを積み重ねて、ぼくたちはなにを築こうとしていたのだろう。
サヨナラが言えない毎日を、ぼくたちはどこへ続けようとしていたのだろう。

あすくんまで手の届かない、わけのわからないところに行ってしまわないでね。
母さんがそう言った。
だから、ぼくの時間は12歳の冬のまま、止まってしまった。
かわらないで、ここにいて、どこにもいかないで。
母さんがそう望んだから。
そして、ぼくも喪失のなかで母さんにそれを望んだから。
変わらないということは、変われないということは、とてもかなしいことなのに。

ありがとうございました、またお越しくださいませ。
そう言ったぼくの声より、自動ドアがしゅうっと閉まる音のほうが雄弁に『またお越しくださってもくださらなくてもどっちでもいいけど』とコートを着た背中を押しだしたように思えて、ため息が零れた。
あと15分。10時になればバイトをあがれる。もうひとつふうっとため息をついた途端、閉じたばかりの自動ドアが開いた。
大学入学とともにコンビニでバイトをはじめてから身につけた笑みを貼りつけなおして、いらっしゃいませ、と言って顔をあげると見知った顔が歩み寄ってくる。

「あっすとくーん」

明日都、というぼくの名をこのイントネーションで呼ぶのはこのストーカーさんだけだ。
癖のない黒髪。濃紺のジャケットに黒い細身のジーンズ。
夜がそのまま店内に乱入してきたみたいだ。瀬尾杜人(もりひと)を睨む。

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追記、新連載に当たってのひとりごと。
ぼんやりと、いままで書いたものを読みかえしていて気がついたのですが。
わたし、『設定』だけで読んでいただいているような…風変わりな世界、特異な能力、そういったものばかり書いているような。
いや、まぁ…ストックがそうだったので、しょーがないっちゃしょーがないんですが(←開き直り)

ここで一回、日常ものに挑戦してみようかと、そう思いまして。
これは10月の上旬に一度完成した作品です。
『一度』と言いますのは、完成してしばらくたって大幅改稿を行ったからです。
50000字程度あったものを半分に削りました。
主に、心理描写を。
deleteキーを押すたびに、泣きたくなりながらですね……、
「この子(明日都くん)、くどいし、しつこいわ―…」
と、書いたときには好きだった部分を随分、消しました。
ですが、残った部分だけでも充分、くどくしつこく(笑)思い悩んでいます。

どうぞ、明日都の物語にお付き合いいただければ、と。
よろしくお願いいたします。

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【2014/11/06 09:33】 | かなしい音が聴こえない場所
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栞さんへ
砂凪
こんにちは、栞さん。
日常もの、たのしみにしていただけて光栄です!

俊くん、ほんとにキュンとしてしまいますね。
あんまり笑わないのに、笑ったところが素敵、とか。
曖昧で掴み切れないところ、とか。

お礼、わたしが言わないとダメなくらいですー。

はい、いつでもまた、いらしてください。

こんばんは。
草木栞
草木栞です。
砂凪さんの日常もの、楽しみにしています。

私のほうのキャラクターを気に入っていただいて、ありがとうございます。
お礼をさせていただきたくて、コメントしてしまいました。

また拝見しに参ります。
それでは失礼いたします。

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「おいおい、神さまをそんな目で睨んでどうするんだよ」
「杜人のどこが神さまなの」
「お客さまだろ、神さまじゃないか」

肩をすくめ、仕方なく、杜人が持ってきたスナック菓子のバーコードを読み取る。
「あと15分でバイト終わるんだろ」
「だから、なに?」
「待ってるし、外で」
「ぜんっぜん、待っててもらう必要性、ないけど。むしろ迷惑」

杜人は、はあっと大仰にため息をついた。
「こんなに誘ってるのに、なんでつれないかなー」
「つれるわけ、ないでしょう」
できるだけ冷ややかに言い放つと、杜人はぐい、とこちらに顔を近づけてきた。抑えた声で言う。

「明日都がゲイだっていうの、やっぱ噂だけなの?」
「火のないところにたった煙でしょう。一点の曇りもなく、噂だけ」
ちいさく笑われる。投げかけられたのは、嘘が下手だね、と言いたげな視線。
「残念だなー。あっすとくん、俺の好み、ど真ん中なんだけどなー」
「それは残念だ。わかったらさっさと店を出ましょう」
杜人が来たところにどうしようもない悪運が重なる。
「おお、瀬尾くん!懲りないねぇ!」と杜人に声をかけて軽く手をあげた店長の「峰岸くん、あがっていいよ」という声が背中にぶつかった。

「じゃあ、待ってるからー」
杜人の弾んだ声にぼくの心は沈んでいく。

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【2014/11/07 09:39】 | かなしい音が聴こえない場所
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すこし先の暗がりに薄明るい光を纏って自販機が立っていた。
群がっている羽虫と群がってくる杜人とともにその前に向かう。缶コーヒーを買おうと小銭入れを探っていると、じゃらじゃらとコインのぶつかる音がして、がらがらと機械が騒いだ。
杜人がミルクセーキをこちらに差し出してくる。

「はい!バイトお疲れー」
「……コーヒーの気分だったんだけど」
「疲れたときには甘いもののほうがいいって」

無理やりあたたかい缶をぼくの手に押し付け、にこにこと笑っている。この灯りの前で、望まずしてミルクセーキを手にするのは七度目だ。
そういえば、『あたたか~い』という赤地に白抜きの文字を見るのは今年初めてだな、と思った。

「カシオペア座が見えない」
杜人が空を見上げる。
「あの星座は北に昇るでしょう?いま、杜人が見ているのは南の空」
そっかぁ、と杜人は言う。
「星が夜空にあっても見ている方角がちがえば、見えないものなんだな」

なにげない杜人のことばにひやりと胸が冷えた。隠し、なにげない風を装う。
「あたりまえでしょう。そんなこと」

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【2014/11/08 09:30】 | かなしい音が聴こえない場所
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杜人は空を見上げたまま、言う。
「なんか、笑えてくるよな」
「なにが?」
「自分のいる場所が、宇宙のなかの塵みたいなところだと思うと、不安で笑えてくる」
「そうかな」
「うん。なにもかも大丈夫で、ぜんぶがこわくなってくる」

自販機の横の石垣に身をあずけてミルクセーキの缶を開け、甘ったるい香りにむせそうになる。半分飲み干し、残りを杜人に差し出した。
「もう甘さ的に限界。あとは買ったひとの責任ということで」
缶を受け取った杜人は笑みを深くした。カシオペア座は彼の網膜に映しだされたのだろうか。

「杜人、お前さ、なんでぼくにしつこく絡んでくるわけ?他のひと、いくらでもいるでしょう?」
「へこむわー…。俺は、お前が好きなの。何回言ったらわかってもらえるかなぁー」
「何回言われてもわからない。好かれる理由がない」
「明日都、普段はしれっとしてるくせに、ツボにハマるところでやさしいから」
「それは恐ろしい思い込みでしょう」
「あと、その喋りかたがすごく好き」
まっすぐなことばに動揺し、黙りこんだぼくの顔を杜人が覗き込んでくる。

「どうしてこんなに言っているのに、その気にならないかなぁー…。明日都はなにもしなくていいし、こわくないし、大丈夫、俺に任せておけば痛くしないし、わるいようにはしないから」
「その発言自体、相当痛いけれども」

ぼくは北の空を見上げる。離れた星たちが勝手に繋ぎあわされたW型の星座がぼくを見下ろしていた。
どれだけ時間が流れても、あのころと同じ空を見上げることができる。夜空を見上げると、そのことに、いつもホッとする。おなじ星が見える、だから大丈夫だと思える。
星の配置でさえも永遠に変わらないわけでないことを、知らないわけではないけれど。

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【2014/11/09 09:45】 | かなしい音が聴こえない場所
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「その気になったらいつでも電話してー!」
という杜人の大声が思いっきり背中に重い。子泣きじじいみたいだ。
諦める、ということを知らない彼にもはや尊敬の念を覚えかねない。断り続ければ続けるほど逆に、杜人はひとり燃えているようだ。難攻不落の城をどうやって攻め落とすかを考える、戦国時代の参謀みたいに。

帰路を辿る。テンキーを押した手をかざし、要塞のようなマンションに潜り込む。ぼくたちの記憶への侵入を阻む、ふたつ目の扉。エレベーターのボタンを押すと、箱が音も立てずに落下してくる気配がした。
暗証番号を入力して玄関ドアのロックを外し、家に入る。いつもの、なにかが足りない空気がぼくを包んだ。

「ただいま」
「おかえりなさい、あすくん」
冷たいものが、またぼくのなかに降る。あの夜の雪。家族の半分を無慈悲に奪われた夜の白い欠片。

「きょう、バイト先にまた杜人が来たよ」
母さんの背中を動揺させたい。それだけの思いで、ことばを投げかけた。

父さんの遺品のオルガンに向けたまなざしの気配も細い後ろ姿も微動だにしない。
この要塞のような部屋。愛情がないわけじゃないと思う。胸の前で両手を広げ受け止めれば、空気よりすこし重たいものが確かにそこにはあるから。
でも、それはどこか歪んでいる。母さんが見ているのは、ぼくじゃないから。帰りを待っているのは、ぼくではないのだから。

杜人からの誘いを断り続けている理由のひとつ。
だれかを愛するためだけの愛を、ぼくは12歳のときから受け取っていない。
幼少期に時間を止められたぼくの心は、他者の受け止め方を知らない。だから。

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【2014/11/10 09:50】 | かなしい音が聴こえない場所
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鍵コメさんへ
砂凪
こんにちは。

もっと上手な滑り出しがあるのではないかー!と頭を捻ったのです。
でも、これしか書けなかった…、というのが正直なところなのです。

あ、そうですそれそれ。
覚えておいてくださいね。
今回は「水」をモチーフに心情描写をしてみました。
ええ、まぁ…延々と。

そこはあまり、深く考えないでください。
感情移入できない作品ってどうしてもありますから…。

男女は苦手なんですよ。なんでかわからないけれど。
あと、この作品は今後の展開上、どちらかが女性だと救いようのなさに拍車がかかります。
もうちょっと、主人公の年齢がブレても救いようがないのです。

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