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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
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とろけそうな脳みそでなんとか形にしましたー。
よろしくどうぞ。

*******

【回遊魚の還る家。】

開け放った窓から熱風が吹き込んでくる。ぼくと基樹は高3の夏休みの締めくくりにふさわしく、学校から出された宿題の消化に必死に取り組んでいた。
「なぁ、なんでお前の部屋、クーラーないんだよ。」
基樹がぶつくさ言う。
「仕方ないだろ。築三十年のボロ家なんだから。」
諦めと憧れの風を受けて、せめてもの日除けに引いたカーテンが揺れる。
「かき氷食いてぇー。勉強きらいだー。」
シャーペンを投げ出した基樹が床に転がった。期待のこもった視線は完全に無視して、手元の空間ベクトルの最終問題を解き続ける。
「なんで、俺ら受験しなきゃいけないのか、ぜんっぜん、わからんよな。」
「それは…」
ぼくは頑なにベクトル方程式を応用させる作業に取り組む。
「それがフツーだからだろ。」
「『フツー』ねぇ…、なぁ、もし受験しなかったらどうなるかな?」
「担任が激怒して、お前はどっかに就職するだろうな。」
「もし、受験も就職もしなかったら?」
質問攻撃に音をあげて基樹を見やる。意外なことに、わらっていた。
「永遠に路頭に迷う、それだけだ。」
彼の口が歪んだ。
「養ってくれないんだ、奏斗。」
「だーれが。甘ったれんな。」
「いつも『甘えて』くるのがどこのどいつだか。」
肌に肌が触れる感触を思い出して、爪先がざわざわした。五感のすべてで思いだしそうになるのを、封じる。
2年でおなじクラスになった。最初のHRで自己紹介をする彼を見て、心が動いた。欲しい。そう思った。己のためにあれほど自己中心的に動けるとは、自分が自分でないようだった。ぼくがしかけたいくつもの『偶然』。親しくなるために、そばに近づくために。裏庭で抱きしめられたとき、ぼくは彼の前で3カ月身につけていたミサンガを切った。
自分とは対照的な存在は、きらいなはずだった。光のような存在。光があれば、そこに影ができるのが道理というものだから。それなのに、そのはずなのに、なぜ、『フツー』を外れてまで彼に恋するのだろう。

基樹は宿題に戻る気はないらしく、小さな声でハミングをはじめた。聞き覚えのあるメロディ。流浪の民。
「せいぜい永遠に路頭に迷って、夢にラクダをさがせよ。」
「ラクダじゃない、楽土だ。」
「…え、ラクダをさがす歌じゃないんだ?」
「なんだよ、ラクダを歌でさがしてどうすんだよ。」
楽土。悲しみも苦しみもない、しあわせ溢れる桃源郷。ありっこない、そんな世界。

「結局、しあわせなことなんて、夢のなかにしかないのかな。」
ひとりごとのつもりだった。それなのに、聞かれたくないようなことばを口にしたときに限って、それを基樹は聞き逃さない。にょきり起き上がる。どこかキリンを思わせた。
「悲観的だな。」
「だって、そうだろ。しあわせなんかなくって、見つけられなくて、だからひとは流浪の民しちゃうんだろ。そんな歌が、できるくらいに。」
光を遮った部屋。影のような心。光のそばにいられても、なお、未来は見えない。
「お前、悲観主義だったっけ?」
「フツーは、そんなもんだろ。」
乾いた音を立てて、シャーペンの芯が折れた。
「お前みたいに、『受験も就職もしなかったら…』なんて考えている時点で、永遠に流浪しちゃうんだ。」
基樹が黙り込んだ。光なんて消えてしまえ。どうせ、いつか消えてしまうのならば。腕が震える。また、乾いた音。音のない部屋で、シャープペンシルの芯の折れる音だけが響き続ける。ぼくは言う。
「しあわせなんか、ない。なのに、それをどうしてさがしたいと思う?」
筆記用具が転がった。震える手でぼくは机を叩いた。
「しあわせなんかさがしはじめたら、回遊魚みたいになっちまうんだよ。」
「…ラクダとか、魚とか、急にどうしたんだよ、奏斗。」
「ぐるぐる回りつづけて、帰る場所もわかんなくなるんだ。だから、ぼくは…」
膝の上にぼたぼたと雫が落ちた。
「なにもさがさない。風が行くべきところにしか行けないみたいに、なにもさがさないで、みんなとおなじレールの上にいたいんだ。」
なのに、どうして。
どうして。
レールを外れてまで、基樹を好きになったのだろう?

しばらく黙りこんでいた基樹がふわりと肩でわらった。
「じゃあ、俺は流浪の民のための民宿になるよ。」
いつのまにか嗚咽していたぼくは、呆気にとられて基樹を見る。
「……は?」
「回遊魚が還る家になるよ。お前、ほんとはしあわせをさがしてみたいんだろ。」
「……。」
「充分、満足するまで、しあわせをさがしに行ってこいよ。俺は、回遊魚の家になって待ってるから。」
「…プロポーズ?」
「……たとえば、の話だよ。」
基樹はゆったりと立ち上がると、歩み寄ってきてくしゃくしゃとぼくの頭を撫ぜた。
「なに泣いてんだ。」
「…お前が……バカだから。…もうほんっとに、これ以上ないバカだ。」
「そうだなぁ…バカだな、ほんと。」
基樹が、わらった。

光を忌み嫌うくせに光のような存在に惹かれる。ぼくは回遊魚で、深海魚だ。しあわせとは、ひとを温かく包む光なのだろうか、それをさがす者を迷わせる暗闇なのだろうか。そして、基樹はぼくの還る家なのだろうか。
でも、もしも、しあわせを見つけられなくても。おかえり、と迎えてくれる場所があるのなら、そこに基樹がいてくれるのなら。ぼくは、そこに帰りたいと思う。
流浪の民。
楽土をさがす者たちの気持ちが、ほんのすこしわかった気がした。
風の吹く先へ先へと、熱の砂漠を、氷の草原を、歩きつづける…そんな、気持ちが。
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【2014/07/26 13:57】 | お題SS。
|

牛野若丸さんへ
砂凪
こんにちは、若丸さん!

水族館ではアザラシやペンギンばかり見ていた子供でしたが、
最近では癒しを求めてもっぱらクラゲさんを眺めています。
たまたま、ブログ名を『aquarium』に決めちゃった後に、あのお題。
参加しない手はないでしょう!(笑)

わたしは『進学当然!』の高校に通っていたので、悩む隙間のない…恵まれているのかどうかわかりませんが…ありがたい環境下にいました。
ですので、こういう葛藤みたいなのは憧れです。
ふつうでいたい、揃いたい。
だけど、どうしようもなくレールを外れざるを得ないことがある…。
これは、すごくすごくわかるのです。

『民宿』。
時代を感じさせますね。
エアコンではなく、クーラーといっているのも時代っぽい…(笑)

がんばって、BL連載もこちらではじめましたので、よろしくお願いします~。
見守ってください(笑)

拝読しました
牛野若丸
aquariumに行くと爬虫類ばかり見ていることが多い自分ですが(笑)、ブログ名とお題にぴったりの素敵な作品をありがとうございました!
進学も就職もしなかったら……そんなシチュエーションを想像してひやっとした高校時代を思い出しますね。
基樹くんは奏斗くんの涙を、もしかしたら進路の悩みだけと思っているかも知れませんが(汗)、本当はレールを外れた恋の切なさがメインなのでしょうかっ。
「民宿になる」という言い方がステキだけどちょっと微笑ましい言葉ですね。
味わい深いSSをありがとうございました!

沙色みおさまへ
砂凪
こんにちは、沙色みおさん✧
読んでいただいて、ありがとうございます。

等身大の心情。
書けていたのならよかったです~(*´∀`*)
まだ、あの頃のぐるぐるをどこかで引きずって歩いています。

回遊魚って水族館で見ると切なくなっちゃってダメですね。
ほんとに答えのない問いにずっと苦しんでいるみたいで。

…さ、さわやかっていっていただけました…!
ありがとうございます。
人生の方向性が見えないから、悩んじゃって。
でも、自由なんですよね、まだ。
どこにでも行けて、だから、こわくて不安で。

楽しんでいただけてよかったです!
ありがとうございました!

拝読しました!
沙色みお
こんにちは!
遅くなりましたが拝読しました。
進路や恋に悩む男の子の心情が、とっても等身大で微笑ましかったです。
回遊魚や深海魚が光りを求めてさまよう姿が目に浮かんで、部屋の中のシーンなのに美しい広がりを感じましたよ。
夏らしい爽やかさと、きゅんとする切なさが両方入っていて素敵でした。
普通でいたい、普通じゃいやだ。
まだ人生が決まっていないからこその贅沢な悩みですが、これが若さですよね。
ふたりの会話の応酬がちょっと変わっていて、それがまたよかったです。
楽しませていただきました!

鍵コメさまへ
砂凪
いえいえ。
基本的ルールを知らなかったので、ご指摘いただいて助かりました~(^∀^)

鍵コメさまへ
砂凪
こんにちは~。

良い作品!
ありがとうございます…!感激に打ち震えております…!
想像していただけただけではなく、『良い作品』…!←キーワードは繰り返し口にして覚えましょう…(笑)

わたしは案外とベンキョーと相性がよく、やればやっただけ効果が出るものに
「おもしろい~」とすっかり、ハマってしまいました。
いま思えば、好きだったのはベンキョーでなく『効果』だったのだと…。

なんの選択肢もなく進学した身にとっては、
就職or進学、という悩みは青春そのもののような気がして。
なんだか書いていて「うらやましいぞー!」ってなりました(笑)


ものすごく気になる、というの…わかります。
本を読んでいて、好きな作品でも「なんでここに"、"がついているのー?」ともやもやすることがあります。
(ここは読点でなく区点で区切るべきだろう!というのにも出くわします…/涙。)

そして、「知らなかった!」というのが情けなくも答えであります…。
よしもとばななさんが会話文の最後にも句点を用いられるかたで。
到底及びませんが(←当然。)「よっしゃ、ここだけマネしよう」とSSを書きはじめるころに思ったんですね。
それで会話文さいごに「~…。」としてしまっていましたー(>_<)
ワードでも特にはじかれなかったので、これでいいのだと…、てっきり。
ご指摘ありがとうございますー。
今後気をつけますね。

とおりあいみさまへ
砂凪
こんにちは、あいみさま。

…す、鋭いですよ…!(震)
いちばん最初に『ものを書いた』きっかけが詩だったんです。
なぜいきなりポエムに走ったかというと、それは若気の至りで…。
そういえば、書きものをはじめたの、高校生の頃でした(笑)
ぜんぶ、自分のためだったのですが。自己満足ここに至れり。

『ふつう』も『しあわせ』も、どこにあるのかわからない。
そういうとき、だれだってあるよ…といっても本人にはなかなか届かなくて。
だから基樹には『家になる』と言わせてみました。

>たがいに必要不可欠!
なるほど、書いていてぜんっぜん、気がつきませんでした…(笑)
なんでしょうね、読んでいただいてはじめて気がつくことってあります。

勉強に飽きて会話…。
わたしは「時間をこなせばベンキョーしたことになる!」信者だったので、
しきりに親友に「いま何時?」と聞いて嫌がられました。
懐かしいです…。
あの頃のわたしにドロップキックをかましてやりたい!
勉強は時間で測るものじゃない!

自分が自分でどうにもならないとき。
そんなときにホッとすることばをポーンと投げてくれる存在。
それが、大事なひとなんじゃないかな、と思います。

懐かしく読んでいただけたのなら、幸いです。
ありがとうございました。

日高千湖さまへ
砂凪
こんにちは、日高さま。

手紙の投函に出たところ…
「あつはなつーーーい!」と絶叫しながら
高校野球部男子がドップラー効果全開で通りすがっていきまして。
「絶っ対、男子ってなんも考えてないわ!」という気持ちと
「そうだね、きみたちにとってはあつはなついね。」という大人な気持ちが半々になりました。

高校卒業したら大学に進学して、そこから『脱線線路は続くよどこまでも…』なわたしです。
たぶん、いちばん『ふつう』がわからなくて、『ふつう』になりたいのがご本人なのでは…と。
あと、まわりと比べて『ふつう』を判断して、というタイプもいるかもしれませんね。

回遊魚をしつつ納得できているってすごーく、つよいことだと思います。
日高さまの息子さん…。

引っ掛かりコロリしましたか?よかったです~(笑)
あと、ご期待のエロエロに添えずに申し訳ありません…←日高さま宅でいただいたお返事より。
いつか『しっかりベッドで汗をかいて』のあとに『?』のつかないSSを書きます!

『赤い靴』…ぜんぜん知らない曲だったのですが、
たまたま、先日ラジオで耳にしてからたまに脳内無制限ループでスイッチオンになります。
なんでしょうね、あの暗ーいメロディ…。
サカナクションの『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』という歌があり、
それもなかなか……一回思い出すと、脳裏にこびりついて離れてくれないんですー。
あ…『サカナクション』…魚…。はい、どうでもいいですね。

いえいえ、こちらこそ読んでいただいてありがとうございました。

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