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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
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「腹減ったな」
隣で杜人が言った。
「あたりまえでしょう」
ぼくも軽く笑って言う。時計を手にとって見ると、もうすぐ昼になろうとしていた。
時計を持ったまま、手を掛け布団のうえに落とす。
「なにか作ろうか?」
「明日都の手料理?まじで?うわぁー、頑張った甲斐があった」

昨夜の雪とは一転、冬の日差しがきらきらと窓から差し込んでいる。
きのう着ていたフリースは床のうえですっかり乾いていた。
半分がまだ余韻のなかにある頭で、杜人のアパートのキッチンに立つ。冷蔵庫を開け、適当な野菜と肉を取り出す。ざっくりと刻み、フライパンに放り込み、炒めはじめると背後に杜人の気配を感じた。

「うわー、様になってる。家でも料理、するわけ?」
「……母さんが、料理、絶望的に下手だから」
「仲、いいの?」
「……」
「ふうん、返事できないんだ」

快楽の海は潮が引いてしまえば、しらじらと風が吹き抜ける場所だった。
なにをして、なにをしなかったのかを今更ながら痛感する。無様に逃げた。ずっと呼んでいた声に頼った。
だけど、どうしても自分を愚かしいとは思えなかった。雪山遭難でビバークに失敗し、唯一の頼りにしていた無線が通じた。聞こえないふりをするほうが、ずっと馬鹿げている。

もう、気がついている。自分に強さがないことにも、強さにあこがれる心がないことにも。このままどこへ行っても、ぼくはぼくのままなのだろう。

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【2014/12/01 09:35】 | かなしい音が聴こえない場所
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「できたよ。ありあわせだったから、適当だけど」
「得意料理は?ねぇ?」
先ほどの質問を取り消すように、杜人が身を乗り出す。浅瀬にぬるい風が吹く。
「サーモンと玉葱のオリーブオイルマリネは、おいしいってさ」
だれが、を省いてぼくは答える。フライパンから白い皿に野菜炒めを盛りつける。
「今度俺にも作ってよ。材料は揃えるからさ」
嬉しそうな声が母さんの声になぜか重なった。

「おい、家出少年」
「別に、家出したわけじゃ…」
杜人が笑った。
「じゃあ、なにをしたわけ?」
「……外泊でしょう」
「未成年が親に無断で外泊するのをプチ家出っていうんだよ」
「はいはい、家出少年です」

杜人がなにげない風を装っていった。
「家が苦しいんだったら、ここにしばらく転がりこんどけば?」
腕が伸びてくる。あっさりと抱きしめられた。
「着替え。身の回りのもの。持っておいでよ」

ぼくのなかにある、かなしくてつらい場所。
見れば苦しい。だったら見なければいい。塗り潰してしまえばいい。杜人が与えてくれる思いやりもやさしさも快楽も、『かなしい』や『つらい』の対極にある。
寒色を暖色で塗り潰せば、そこだけでも暖かいような気はするのだろうか。

杜人のアパートは隣室の生活音が聞こえない割に、ドアの開閉や解錠、施錠の音がやたら響く。知らない場所にいる、と強く感じる。ぼくのまわりに浮遊霊がたくさん出てきたような感覚。そわそわ落ち着かない。部屋で所在なく、うろうろと歩きまわるぼくを、杜人はうれしそうに眺めている。
窓のむこうには電線で仕切られた空が見える。おなじ色をしているのに、知らない空。
母さんは唐突にぼくがいなくなった夜をどう乗り越えているのだろう。
何度目覚めてもリセットされない世界が、ほんのすこしだけ、ごく僅かに、姿を変えた気がした。

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【2014/12/02 09:21】 | かなしい音が聴こえない場所
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杜人の携帯から自宅に電話し、母さんがいないことを確かめた。
記憶が冷凍保存されているマンションに戻る。

たった一晩いなかっただけなのに、他人の家に帰ってきてしまったような、よそよそしさを覚えた。「ただいま」いつもの癖で口にし『おかえりなさい』が聞こえなかった瞬間、強く、ここにいなければ、と思った。
壊したくないものが壊れてしまう。ガラス細工のように、いともたやすく壊れる、うつくしいものが。

あぁ、そうか。そうだったんだ。
もう手の届かないものを眺めていたひとりぼっちのぼくのとなりには、もうひとり、ひとりぼっちのひとがいつも、いた。
でも、ガラス細工を眺めていた母さんは、もうちがうものを眺めようとしている。
自分ひとりできれいなものを見つめ続ける、どうしようもない孤独にきっとぼくは耐えられない。もう、吹雪のなかでひとりたたずむだけの気力はどこにもない。その場所へ逃げ出せる、温かさに触れてしまったから。
父さんが使っていたキャリーケースに服を詰め込んだ。去年、母さんが買ってくれたダウンコートの奥に譜面帳が見えた。迷ってそれもケースに放り込む。蓋を留め、引きずって自室のドアを出る。

けれど、これは入り口なのかもしれない。
数々のドアをぼくは通り抜けてきた。でも、そのすべては入り口だったのだ。出口のない入り口。
ドアを次々に開きながら、ぼくは追いつめられた迷子になる。奥へ奥へと迷い込んでいく。それでも、ぼくは扉を開きつづける。後戻りができないことは、知っているから。

冬の日暮れは早い。父さんの遺品のオルガンが深いオレンジ色に染まっているのが視界の隅に映った。ぼくの血流のなかの父さんの血の色。急いていた気持ちが消える。
かなしい、と思った。
キャリーケースから手を離し、オルガンの前に座り込んだ。いろいろな感情が一挙に胸に湧き上がってきた。
でも、ぼくにはそれらを変換できることばを持ちあわせていなかった。けれど、たくさんの気持ちを積み重ねて混ぜ合わせれば、それはとてもかなしい色をしていた。

だから、ただただ『かなしい』という気持ちで、ぼくは泣いた。

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応援ぽち、500をカウントしました。すごくうれしいです。←小学生レベルの感情表現ですみません…。
いつもありがとうございます《*≧ω≦》

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【2014/12/03 10:03】 | かなしい音が聴こえない場所
|
薄いドアを開いた杜人がうわっと言った。
「ずぶ濡れじゃないか。傘は?」
「持ってなかった。急にみぞれが降ってきたでしょう」
「はい、入って。雨宿りさせてあげるから」
玄関にあがる。おかえり、と杜人が笑顔でいう。
……ただいま?言えなかったことばは胃のなかに滑り落ちて冷たく発火した。

『雨宿り』。杜人はいつも的確だ。
ぼくがしているのは都合のいい雨宿り。ずっとそこでぼくを待ち続けていた庇に、甘えて飛び込んだだけのこと。
胸が痛んだ。けれど、ぼくには胸を痛める資格はない。自分の想いは中途半端なまま、杜人の想いにつけこんでいるだけなのだから。どうやったら、このやさしい軒先に充分なだけの恩返しができるだろう。

「明日都、顔が赤い。風邪引いたか?声も風邪っぽいし」
「だいじょ」
大丈夫、と言い終えるまえに盛大に咳き込んでしまった。手のひらで覆う。
杜人がぼくのブーツを脱がせ、フローリングに座らせる。そういえば、なんとなくぐったりしている気がした。頭のなかにどろりと廃油が流し込まれたような鈍痛もする。

「きのうも俺を待ってるときに雪まみれだったし、絶対風邪ひいてる」
「心配いらない。寝てれば治るから」
心配をわざと振り払うような言いかたをした。
なにを確かめたいのだろうか、ぼくは。
繋ぎとめていてくれる想いがそこにあることを?
自分に向けられることばが確かにそこにあることを?
ぼくのそっけない態度を無視して杜人が体温計を持ってきた。だるい。されるがまま、熱を測られる。ほどなく、ちいさな電子音がした。げっ、と杜人が体温計を見て呟いた。

「やばいよ、明日都。39度超えてる。よく歩けたな」
「痛みには強いんでしょう」
「自分の痛みに鈍感で、対処法を知らないだけだろ」
そうなのかもしれないし、その正反対なのかもしれない、と思った。

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高校時代、学校で39.8度の熱を出したことがあります。

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【2014/12/04 09:30】 | かなしい音が聴こえない場所
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痛みを見続けながら、ぼくはどんどん無感覚になっていく。そこに痛みがあることに慣れていく。
7年まえからあった痛みはもはやあって当たり前のものだ。大事に抱えているのに、どれだけ心の熱源に晒しても温もらないもの。
それでも生々しい痛みはまだ、心のなかで生きている。
杜人に思いやられるたびに、過去の痛みが消えていく。
違和感。感謝や安堵より、覚えるのは違和感と喪失感だ。
自分自身の痛みに無関心なぼくのかわりに、杜人がぼくの痛みを感じている気がした。

ベッドに寝かされるなり、解熱剤と水を飲まされた。
感冒薬を飲み慣れないぼくは副作用のもたらす眠気にあっさり負け、またも深く暗い眠りに就いた。
どのくらい眠っていただろう。夜闇のなかで、床で眠っていた杜人が動く気配で目が醒めた。

「明日都、熱下がった感じ、する?汗かいてたら、着替えたほうがいい」
「キャリーのなかに替えの服が……」

まともに声が出ない。いったい熱はどれだけあるのだろう。手も足もこわばって、うまく動かない。そして、頭が鉛を詰め込まれたように、重い。
電気がついた。まぶしい。目を閉じると額に乗せられた手が冷たい。

「また上がったかな…保険証、持ってきたか?」
「持ってない」
「病院は、無理だな。とりあえず、着替えて。なんか食えそう?」

首を横に振るとスポーツドリンクのペットボトルを手渡される。半分くらい、一気に飲み干した。
しばらく、身を起こしたまま壁にもたれてぐったりしていると、弧を描いて膝のうえにスウェットが落ちてきた。ナイスコントロール、と全然状況にそぐわないことばが頭をよぎる。つづいて飛んできたバスタオルは杜人のものだろう。

「これ?」
「着替えるまえに身体を拭いて。俺がやってやりたいけど、明日都に触っていると大変なことになっているのにヤりたくなりかねない」
ことばの不穏さのわりに、心配そうに杜人が言う。
着替えるために身を起こしただけで、ひどく消耗した。

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【2014/12/05 08:58】 | かなしい音が聴こえない場所
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Pearswordさんへ
砂凪
こんにちは。

いまだに慣れませんか…(笑)
すみません、趣味につきあわせてしまって。
ビョーキ日記のほうもぼちぼち更新しているので、元来のそちらも覗いてみてくださいね。

明日都が女性だったら、なんか、もっと救いようがない気がします。
オルガン、譜面、これから活きてくるので(少なくとも活かしたつもりですので)
そこを指摘していただきうれしいです。

ぜひ、最後までお付き合い願います。
よろしくお願いします!

鍵コメさんへ
砂凪
こんにちは。

揺れ揺れのほわんほわん状態…まさしく!まさにそんな感じです。
成す術もなく変わっていく(と見える)周囲、変われない自分、失わざるを得ないもの、失いたくないもの。
そういったものに囚われるのは、ほんとうにつらいです。
そうなんです、杜人を描いていていつも思うのが『こんな献身的な善人いないよ…』というものだったりします。
明日都は本心に気づいているのですが、応えられないから素直に好意を受け止められなくて…とここでも、もだもだしています(笑)
お察しの通り、これからまたひと波乱あるのですが、原稿を読みかえして思ったこと。
「これ、家族小説だよね…」って。

自分の感情で大揺れしているのは、砂凪のデフォルトがそうなので書けるのかもしれません。
鍵コメさんのように、三人称で書くと…わたしも全然ダメです。
感情移入ができないんですね、一人称じゃないと。
>機微を描くことが~……
いやいやいや、もったいないおことばです《≧_≦》
わたしももっと精進しなければならないと日々痛感しています…エロ方面に特化して(爆笑)

続き、読んでくださるとうれしいです。

鍵コメさんの日常ブログがなくなってしまうのはさびしいですが、最後のエントリにも書かれていたような事情がありますよね…。
わたしなんかは向上心ゼロ人間なので「楽しくブログで書けてたらいいな~」というノリで執筆(と言うほどのこともないですが)しておりますが、プロを目指されるのであれば、そうせざるを得ないのかな、とも思います。
でも、小説サイトのほうは運営されるとのことなので、またそちらでよろしくお願いいたします。
非公開コメントのことは全く気になさらないでくださいね。

寒い寒いと思っていたら、砂凪地方は50cmくらい降りました。
あぁ…『除雪特攻隊☆砂凪』の出番です。(特攻隊のみなさま、すみません…でも、気分はそんな感じです)
そうなんです!豪雪極寒地方に住んでいるため、雪にロマンを感じられない貧しい心に育ちました…。

コメント、ありがとうございます!では、また!


Pearsword
 いまだにBLに慣れませんが、明日都が女性だったら普通の話なのでしょうが、それでも、なかなか面白いです。オルガンに象徴された過去の美しい思い出が、とても美しいイメージに映ります。
 ケースにダウンとともに仕舞った譜面が、今後のストーリーにどう関わってくるのか、気掛かりです。

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言われるがまま、身体を拭いて、着替えた。よれよれと布団に潜り込む。
脱いだ服を杜人が洗面所に持っていく。洗濯してくれるのだ、と思った瞬間、この部屋でひとりきりのときに杜人が熱を出したら、体調を崩したら、面倒はだれが見るのだろう、と思って切なくなった。
布団に顔を埋める。

「ねぇ」
「なんだよ」
「ひとりで具合わるくなったときって、どうしているの」
「どうもしないよ。寝てるだけ」

不意に涙が頬を伝った。しゃくりあげると、一気に嗚咽が漏れた。
洗濯機の唸る音が聞こえ、戻ってきた足音が早足で歩み寄ってきた。

「どうした、明日都?風邪、そんなにつらいか?インフルかな」
首を振り、熱が出たせいか弱気になった口から本音が零れる。
「どれだけ心配されても、どれだけ想われても、ぼくには杜人になにも返せないでしょう。なのに、それなのに……」
杜人がベッドに腰掛ける気配がした。そのまま布団ごと抱きしめられる。
「明日都がここにいてくれるだけでいい。俺は、それだけでいいんだ」
顔をあげ、でも、と言う。
喋ると咳き込みそうになったので、軽く肩を押す。毛布より軽く、身体が離れる。
また、額に手のひらが押しつけられた。横になっておけ、と声がした。
「かなしいことを考えていないで、ゆっくり寝てろ」

ぎりぎりと軋むように、関節が痛む。目を閉じた。このままもう、目を開きたくないと思う。
これからのことも、ぼくのことも、もうなにも、考えたくなかった。
こわい夢を見るような予感がした。

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【2014/12/06 08:52】 | かなしい音が聴こえない場所
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救いようのない夢を見た。
古い映画のような、ざらついたモノクロの映像。音のない悲劇。

小さな家に、幼い少年と母親が暮らしている。毎日、その家には手紙が届けられる。母親に宛てられた、ふたりを心配する文面、思いやりに溢れた文章。
郵便配達人から手紙を受け取る少年。しばしためらったのち、少年は手紙を破り、家の裏手の井戸に捨てる。
日々のおなじ繰り返し。
手紙が来なくなったことを母親はいぶかしむが、少年さえ傍にいれば、と微笑みかける。
微笑み返す少年。後ろ暗いものを、やましい事実を抱えたまま。
ある日、少年が家の裏手で遊んでいると、声が聞こえる。振り返った少年は井戸から延びる文字の渦に取り巻かれる。悲鳴もなく、井戸のなかに落下する彼。
母さん、と叫ぶ。

そこで目が醒めた。
起き上がる。震える両手を握り締め、胸の前で組んだ。前かがみになり、両手を抱え込むようにする。

「どうした?」
杜人の声。カーテンが開けられる。朝の光がさあっと部屋を撫ぜた。凍りついていた心が瞬時にして溶解した。
ぼくは笑いはじめる。緊張がほぐれたとき、ひとはどうして笑うのだろう。

「どうしたんだよ?すごいうなされてた」
額にあてられた手。
触れ合った部分から、ぼくの抱えるすべてが杜人に通じればいいと思った。喪失の痛みも、逃避している苦しみも、瓶のなかで逃げそこなった醜い姿も。

漠然と追ってくるもの。漠然とした不安。漠然とした逃亡。そんなことをつづけているぼくも、きっと漠然としている存在なのだろう。

******

管理人が雪かきに追われるため、更新時間がまちまちになります。
それでも、毎日更新を目指しますので、どうぞよろしくお願いします。
……っていうか、『雪かき』でなく『雪狩り』って感じです、もうやだ…!

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【2014/12/07 09:43】 | かなしい音が聴こえない場所
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栞さんへ
砂凪
こんにちは、栞さん。

雪かき3日目で音を上げていたきのう。
背中痛い、二の腕痛い、それよりなにより『疲れた…』。
本当に大変です。
雪かきで済んでいるうちはしあわせで、
そのうち『屋根が…雪下ろしが…』と言いだします。
その折には、また励ましてやってくださいませ。

たのしみにしてくださり、ありがとうございます。
はい、いつもありがとうございます。

こんにちは。
草木栞
草木栞です。
雪かき、頑張ってください。
私はやったことはありませんが、とても大変なのだと母から聞いたことがあります。
私のいる地域は、雪からはまだ遠いようです。
どうか御気を付けて。

更新、楽しみにしています。
それでは失礼いたします。

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そんなことを考えているうちに、体温計の音がした。何度目だろう。
電池が切れてしまうのではないかと思うほど、昨夜、杜人は何度もぼくの熱を測ってくれた。
感冒薬を飲ませてくれて、眠らせてくれて、そのあといつも額に乗せられた手。たくさんのものが伝わってきた。

「よかったー。平熱まで落ちた。おととい40度まで上がったんだ。憶えてる?」
記憶にない。おととい?時間の感覚がおかしい。40度、さすがスペクタクルだ。高熱にうなされて意識がないなんて。
どれだけの心配をかけてしまったのだろう。

「そのまま、壊れてしまえばよかったのに」
「……え?」
「壊したくないものが壊れていくのを見ているしかないなら、壊れてしまいたい」

自己嫌悪で吐き気がした。こんなことをひと晩中、看病してくれた気遣いのひとに言うなんて。
にぎりしめた拳で、何度も自分の膝を叩いた。涙が零れる。苦すぎる現実からの、折り重なった矛盾だらけの心からの逃避をはじめてから、ぼくは泣いてばかりいる。
あの夢の少年は泣いていなかった。大事なものを守り通した。自分と引き換えに。
よじれる心の醜い悲鳴はどこに届くのだろう。

「なにがあったのかは知らないし、明日都が話してくれるまで、訊かないけど」
杜人はベッドに腰掛けると、笑いながらぼくの背中を撫ぜた。
「人間そう簡単に壊れられないよ。望んで壊れるひとなんていない。明日都が壊れていくものを見ているしかないのなら、俺が一緒に見ていてあげるよ。たとえ、それが俺には見えないものでも」

杜人のやさしさの深さ。どれだけ甘えていいんだろう。

「ありがとう」
言い終えた唇を杜人の首筋に押し当てた。
ややあって、杜人がシャツをたくしあげたぼくの身体を弄りはじめたとき、虫の羽音にも似たちいさな音が聞こえた。

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【2014/12/08 09:28】 | かなしい音が聴こえない場所
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これまで、お世話になったひとの数はどのくらいでしょう。
愛してくれたひとは何人いて、
叱ってくれたひとは何人いて、
心配してくれたひとは何人いて、
見守ってくれたひとは何人いるのでしょう。

そして、わたしに「生きている」ことを望んでくれたひとは。

たくさんの想いに支えられ、苦節四半世紀とちょっとの砂凪、きょう28歳の誕生日を迎えられました。

昨年までは、誕生日前後、ものすんごく苦しかったことを記憶しています。
進みたいのに進めない自分、どんどん崖っぷちになっていく状況、ちっともよくならないビョーキ。
しあわせな日のはずなのに、その日の前後、涙があふれて止まらないこと多々…でした。
人生の険しさや困難さ、そこを思うように歩けない自分の不甲斐なさ。
「どうしたらいいのかわからない」度合いがどんどん積み重なり、情けなくてかなしくて。
自分で自分の人生が手に負えない感じで、そんな自分が嫌できらいで。

でもね、今年はなんだかうれしいんです。
ちいさなこどもに戻ったみたいに、一点の曇りもなく『特別な日』と思えています。
たくさん届くバースデーメール、贈りもの、電話。
その『もの』が嬉しいのはもちろんですが……←おいっ!
なんていったらいいのかな、その相手に、そのひとの心のなかに"わたし"がいることが、とてもうれしいのです。
気にかけてくれていて、誕生日を憶えていてくれるほど大事に思って、想って、いてくれて。
ひとりだけど、ひとりじゃない。
ひとり(+『ひとり』)くらいの距離を保ちながら、傍にいてくれるひとがいます。たくさん。

母が、誕生日に毎年、わたしに言ってくれることばがあります。
『やっぱり、あなたを産んでよかったわ』
だから、わたしは生まれてきたことを、誇りに思っていいのです。
育んでくれたひとがそういうのだから…どんなにしょーもない生きかたしかできずとも(笑)

選んで生まれてきたわけじゃないけど。
望んで与えられた命、っていうわけでもないけど。
でも、やっぱり『うまれてきた』ことはしあわせなことで。
そうは到底思えないときがあっても、とても、しあわせなこと。

歩け、わたし。
進め、28周回目のふりだしへ。

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【2014/12/08 09:44】 | つぶやきサボり。
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あいみさんへ
砂凪
こんにちは、あいみさん。
お祝いのことばをありがとうございます。

あいみさんがメッセージを残してくれたのとおなじくらいの時間。
リアルでも携帯に『ギリッギリですまん…!』と友達からメールが届きました(笑)
いつも一週間くらい沈黙を保っている携帯なのに、きのうは着信やら新着メールやらにぎやかでした。
……さてはツンデレだろう!と。

わたしには、本当にいろんな誕生日がありました。
ハタチのひとりぼっちの誕生日(これは本当にかなしかった…)。
入院していた誕生日。
だからこうして、シャバ(…爆)で誕生日を迎えられるだけでもしあわせだったのだなぁ…と、いま思いました。

もう、あいみさんの作品は自分には到底書けないユーモアにあふれていて、連載が始まると毎日にこにこ…ニヤニヤではないですよっ!(笑)…しながら日参させていただいております。
そんなあいみさんに、わたしの更新を『楽しみ』と仰っていただけて、うれしく思います。
ユーモアあふれる、コメディタッチの作品も書いてみたいのですが、ウィットも奇知もないため…でもいつか!

はい、無理せず頑張ります。
きょうは晴れていますよ~!
心があたたかくなるコメント、ありがとうございます。

では、また!

栞さんへ
砂凪
こんにちは、栞さん。
お祝い、ありがとうございます。
同い年だったんですか!?うわぁ、奇遇ですね。

祝ってくれるひとがいる、本当にうれしいし、しあわせなことと思います。
『すてき』と仰っていただけると、この先も書いていこう!という気持ちになれます。
わたしも、栞さんのお話、好きです。
静かななかに、流れるもの。
いつも心を揺さぶられています。
明日都はこれからまた、ひと波乱ありますが……
最終話を楽しみにしていただけると幸いです。

栞さんも、どうぞ体調に気をつけて。
では、またいらしてくださいね。


十織愛深
こんばんは。
ぎっ、ぎりぎり間に合った…!!!
お誕生日、おめでとうございます。
月並みですが、砂凪さんにとって実り多い一年となりますよう、お祈りしております。

色んな誕生日があってもいいのだと思います。
ひとりでしんみりと「あ、誕生日」と思う年、みんなにお祝いしてもらう年、日々に忙殺されて忘れていた年。

どんな年でも、その日は自分にとって大切な日、なのですよね。

いつも拙作へコメントをありがとうございます。
あんな駄作なのに「面白かった」と砂凪さんから頂ける一言が、本当に励みになります。
砂凪さんの連載が、自分の毎日…ではなくて申し訳ないのですが、楽しみになっております。

雪かき特攻隊、無理しないで下さいね。
寒波、早く緩めばいいのになぁ。
では、暖かくしてお過ごしくださいませ。

こんばんは。
草木栞
草木栞です。
お誕生日おめでとうございます。
私のほうが数ヶ月年下でした。

祝ってくれる人がいるというのは嬉しいものですよね。
私もお祝いさせていただきたくてコメント致しました。
いつも素敵なお話をありがとうございます。
砂凪さんのお話を読むことができて、本当に嬉しいです。
私のブログにコメントを頂けるのも。
明日都君の未来が明るいものであれば良いなと思っています。

寒いので(雪かきでも)、体調を崩されませぬ様、お祈りしています。
それでは失礼致します。

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「明日都の携帯だよ。出なくていいの。きっと、両親なんじゃない?心配してるよ」
離れた唇が、現実的に言う。言われなくてもわかる。

これは、母さんからのコール。社交的とは程遠く、電話嫌いのぼくの番号を知るひとは、母さんと杜人くらいのものだ。
けれど、着信に応えたところで、電波越しにつながった母さんとどう言葉を交わしていいのか、まったくわからない。
そう判断し、そのまま、杜人を受け容れるように身体を動かそうとしたけれど、ダメだった。意識がすべて携帯に持っていかれる。

杜人の肩を押す。身を起こし、ローテーブルのうえに置かれた電子機器に手を伸ばしかけたとき、ふと振動が止んだ。

ちこちこちこ。静まりかえって耳鳴りがしそうな部屋に秒針の音が響く。
沈黙の音に聞こえた。積み上がっていく音。

耐えきれない静寂のなか、杜人にかけることばを思い浮かべることができず、なんのプランもないままで口を開いた。

「ごめ」
しまった、と思った次の瞬間、ことばを封じ、軽く頭を撫ぜた手が離れる。
「一瞬忘れてた。明日都は病みあがりなんだった。無理させちゃいけないよな」

ベッドから立ち上がる際の杜人のことばは、ひとりごとに似せた、許しの言葉だった。重いな、と声には出さずに呟く。
ひとつ、許されるごとに、ひとつ、この部屋の空気は重くなる。

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【2014/12/09 09:26】 | かなしい音が聴こえない場所
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