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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
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母さんの片想いは、まだつづいている。相手とのつながりを断ち切られ、苦しみ悶えながら。
苦しみは、いつ癒えるのだろう。このひとにも、救世主は現れるのだろうか。
「しょうがないでしょう。引き裂いた過去が痛いのは」
「……そうね」
母さんが、笑った。かなしくて、かなしくて、とてもきれいな笑顔だった。

「ぼくは、母さんとはちがう場所で暮らしていこうと思う。いいよね?」
笑顔のまま、母さんは頷いた。次の瞬間、涙を湛える。きっとこの表情を、生涯ぼくは忘れない。
「あれから7年間、傍にいてくれてありがとう」
皮肉でも嫌味でもなく、そう思った。
「母さんも、母さんのための人生を生きてよ。7年はたぶんもう、充分なだけの時間だよ。これから先にも、きっと母さんのしあわせはあるから」
「この先に?ほんとうに…あるかしら?」
「あるに、決まっているでしょう?」

だから、過去に手を振って背中を向けるときは、笑顔で。
ぼくは知っている。痛みは消えても、傷は消えないことを。だけど…だから、大丈夫。

「あすくんがそう言うのなら、わたしも自分の足で行きたいところに行ける気がする」
「母さん、料理がうまくなるといいのだけれど」
「あすくんも、再受験がうまくいくといいね」
笑いあう。7年ぶり。笑顔に互いの笑顔を映し合うのは、7年ぶりだった。

ぼくは壊した。
壊したくなかったもの、壊れることを怖れていたものを。
壊してしまえば、失うと思っていた。記憶を、孤独を、痛みを。
道なりに歩いてきた上に散らばる、幸福の記憶を。
同時に思っていた。
呪縛の沼が干上がってしまえば、記憶のなかで手を振る父さんと姉さんの残像も消えるのだ、と。

約束なんてしなくていい。
記憶なんていらないよ。
サヨナラなんかじゃ切れないよ。
そんなにもろい絆じゃないから。

そう。
壊した右手を、振り上げた拳を、握り締めてくれる存在がいるぼくは。
干上がった沼からことばの欠片を拾ったぼくは。
なにも、失ってはいなかった。
なにひとつ、失くしてはいなかった。

******

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【2015/01/01 09:00】 | かなしい音が聴こえない場所
|

あいみさんへ
砂凪
あいみさん、こんにちは。
充分間に合いますよっ!小正月まで脳内はお正月モードな砂凪です。
こちらこそ、昨年は本当にお世話になりました。
こんなわたしでよろしければ、今年もよろしくお願いいたします。

読んでくださって、ありがとうございましたー。

そうですよね…。
原稿を下読みしてくれた友達(リア友)には、
「砂凪…これは、家族小説だよ」と言われたくらいにして。
テーマ設定をまちがえたのか、なんだか過度に繊細な感触のお話になってしまいました。

あいみさんの喩え、素敵です。
破った殻を再吸収してちがう形で自分のなかに活かして生きていく。
そういう生きかたって、いいなぁ…なんて思いました。

杜人はいつのまにか『ものすごくいいひと』になってしまった人物です…。
最初はこんなはずじゃなかったのになー…おかしいなー…。

連載、いつもご感想をくださり、ありがとうございます。
また、あいみさんのサイトにも遊びに伺わせていただきますねー。


十織愛深
こんにちは。まだ、間に合いますよね?
旧年中はお世話になりました。
ことしもどうぞ、よろしくお願いいたします。

さて、『かなしい音が聴こえない場所』拝読しました。

う~ん。
自分のとは本当に、ベクトルが違う繊細なストーリーなので正直、なんといえばいいのか…。

ともかく、明日都は自分でちゃんと、自分の殻を破った。でも破ることは、それを壊してしまうのではなくて、小さくなった欠片を自分の細胞の中へ溶け込ます、そんな感じなのかな、と思いました。

杜人の懐の深さ、ちゃんと伝わってますよ~。
でも今既に、杜人サイドのストーリーがUPされていて、それも楽しみにしつつ。
飄々とした彼の中に、どんな傷があるのかな。

これからも連載、期待しております。

拙小説サイトへもまた、何かのついでに遊びにいらしてくださいませね!

ではまた~☆



栞さんへ
砂凪
あけましておめでとうございます、栞さん!
コメントありがとうございます。

こちらこそ!
こちらこそよろしくお願いいたします。
今年こそは、なにか目標を見つけることが目標です(笑)
夢ボヘミアンです。
雪は…雪は……、沈黙は金。ということにしておいてください。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
失いたくないもの、失いそうなもの、壊したくないもの、壊したもの。
そういう曖昧なものをテーマに書きました。
そうですね!なんだかんだと言って、明日都はしあわせな子です。
途中、最悪のエンディングを予想させてしまうシーンも多々ありましたが、
もやっとした(笑)ハッピーエンドに持ちこめてホッとしています。

はい!またいつでもいらしてください(*´ω`*)

あけましておめでとうございます。
草木栞
砂凪さん、あけましておめでとうございます。
草木栞です。

今年もよろしくお願い致します。
良い年になるといいですね。
そちらの天気は大丈夫でしょうか?
楽しいお正月をお過ごしください。


最終話、読ませて頂きました。
何かを壊しても、壊れないものもあるのですね。
生きていきたい場所があるということは、幸せですね。
明日都君の未来は明るいのだろうなと思いました。
よかったです。

次のお話も楽しみにしています。
それでは、失礼致します。

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『かなしい音が聴こえない場所』。
この作品に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
お話を振りかえり、すこしひとりごとです。

今回、チャレンジしたことは"一貫したメタファーを使う"、"心理を抉る"でした。

なので、後者のため、明日都の性格、行動をわたしの法則や原理のほうに引き寄せてみたのはいいのですが…。
抉れば抉るほど、精神的にしんどいシーンや心理描写が増えてしまい、途中で大幅改稿しました。
痛感したのは自分に近すぎる人物というのは下手すると"分身"になり、感情移入し過ぎる、ということ。
(deleteキーを押せないチキンな砂凪は削った部分も残しておいてあるのですが…こんな一文が削除したところに。
『目を閉じると自分が地面に沈んでいく気がした。
実際に沈んでしまえればいいのに。消えてなくなればいいのに、しぶといぼくはいまだ現実にしがみついている。
消えてなくなったのは、いまのぼくよりしあわせだった、ちいさなぼくだ。』
こ…この心理描写はいくらなんでも…!/笑)

が、改稿したはいいものの、なんだか表面をさらりと撫ぜるお話になってしまい、再び掘り下げる作業に。
25000字まで減ったものを37000字までことばや表現を変えつつ戻しました。
それでも、削ったり増やしたりしていたので、40000字くらいあるかもです。

わたしのことになりますと。
しんどいシーンを頑張って書くと、どうにも精神的に消耗し、体調を崩し、の繰り返しでした。
泣きながら書いていた文章もありました(オルガン破壊の際の明日都の台詞とか…自分みたいで…)。
でも、そのぶん大事な作品となったので、利害はトントンかなぁ。

さて、メタファー。
"水"(あるいはそれが形を変えたもの…雨とか雪とか)を比喩に使えたらいいな、と思っていたので雪や雨のシーンがとても多い作品になりました。
寒いのに、寒いシーンが多くてすみませんでした……。
個人的には、杜人の職場の前で明日都が彼を待っているシーンで降る雪が好きです。

明日都に寄り添う"杜人"をうまく描けませんでした。
心残りになりそうなので、あしたからは杜人側から見たこのお話の裏側を描こうと思います。
本編では書かなかった杜人の真実。
杜人を気に入ってくれていた方がいらっしゃいましたら、お楽しみいただけるかと思います…思わせてください。

それでは、長い長いあとがき、もとい反省におつきあいいただきありがとうございました。
本当に、心から、最後まで読んでいただき、うれしいです。作品も、この文章も。

感謝の気持ちを込めて。

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【2015/01/02 10:13】 | かなしい音が聴こえない場所
|

Pearswordさんへ
砂凪
こんにちは、Pearswordさん。

なにはともあれ、最後までこのお話を書けてホッとしております。
読んでくださって、ありがとうございます。

暗喩表現、見つけてくださってありがとうございました。
一貫させることに徹底しすぎ……、思い当たる節々が痛みます(笑)
メタファーの上にさらに縁語、そうそうまさにそんな感じですね。
実際になにを示しているのかわかりにくい、ですかぁ…。今後の課題ですねφ(..)
ツボの…罅(←これ、ヒビって読むんですね/笑)…、『壊す、崩す』がテーマのお話だったのでいたしかたなく。
あげてくださったところ、『壊れた破片=過去』『最後のドア=自分が閉じ込められた記憶』といったものです。

メタファーが装飾的ですかー。。。
比喩表現が好きなので…つい、ね…比喩全開すると、やり過ぎ感漂う作品になってしまいます。

心理を抉るという点は、大改稿の際にかなり『抉った』部分を削りました。
残酷な表現は苦手なんです。
というか、主人公が自分のことで手いっぱいなので、残酷になりようがないといいますか。
名表現!いつか書いてみたいです。

駄作に関して、感想ありがとうございましたー。

感想に代えて。
Pearsword
 なにはともはれ、超大作完成おめでとうございます。
遅ればせながら読了しました。
 砂凪さん自身いっているように、暗喩表現が前後で繋がっている表現の目立った作品でした。しかし、一貫させることに徹底しすぎの嫌いがあり、メタファーのうえにさらに縁語として飾られる言葉が、じっさいになにを示しているのかが判りにくい箇所もありました。ツボの罅が入るくらいはいいのですが、たとえば「入り口を次々通り抜けながら追い詰められていると思っていたけれど、壊れた破片で打ち砕いた最後のドアは、最初に迷い込んだ扉だった。」などでは、壊れた破片がなにを示しているのか、それでドアを打ち砕いたとはどういうことなのか、などが、少しわかりにくい表現だと思います。
 その点、これらのメタファーはかなり装飾的で、歌手で言うなら鬼束ちひろばりの、行き過ぎた比喩表現になっているような気がしないでもなく、その点、少し物語全体を読みにくくしているように思われました。
 それともう一点、心理をえぐるということついてですが、それほどえぐられてはいないので、残酷な表現もないですし、唸らせられるような深い心理的洞察もありませんでした。しかし、そういう名表現は、おいそれとは書けるものでもないので、この作品に関して言えば、違和感もなく上手く書けているのではないかと思います。
 今後に期待します。
 では、相変わらず口幅ったい感想でしたが、この辺で。

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覚えている。
父親が漕ぐ自転車のこども用のシートに座って歌ったときのこと。
アイロンをかけている母親の前で口ずさんだ歌を褒められたときのこと。
「杜人は歌がうまいから、将来は歌手になればいいな」
「言いかたが古いわねぇ、お父さん。今はアーティストっていうのよ」
覚えている、ちゃんと。
半ば本気で馬鹿みたいな両親のことばも、温かいまなざしも、注がれていた愛情も。
だから、突然それが途絶えたとき。
俺は両親が俺に見ていた夢を歩こうと思った。

隣で眠っていた明日都が身動きしたので目が覚めた。
再受験を終え緊張が解けたのか、最近は眠りが浅い、ということもないようだ。
「明日都」
名を呼ぶと、壁にへたりと寄り添うようにして夢と現の境をさまよっているのか、ぼんやりと漂うような返事が聞こえる。
いつもこうして壁に張り付いて眠っている。身体のどこかしらが壁についているのが落ち着くのだ、という。俺に言わせれば、小動物のようでさびしい癖だ。

掛け布団の上のパジャマの袖から覗く細い手首。薄い手の甲、ほっそりした指。運命と業とが彼に与えた、音を奏でるための指。
実技試験のための練習になんどかつきあったが、彼が奏でる音楽に触れるたび、ほんものの感動は恐怖に似ているのではないかと思った。

「……ひとを起こしておいて、ひとりだけ寝てるな」
頬をつまんで引っ張ると、ようやく眠りから覚めたような顔で俺を見る。
「ごめん。いま、ちゃんと朝食作るから」
そのまま眠たげに起き上がろうとする動作を、腕のなかに閉じ込める。
もう一度、明日都、と名をなぞる。いい名前だと思う。この前まで、明日も未来も見ようとしなかったのは、彼も抜け出せなかったころの俺とおなじだったけれど。なに?と、細い身体が言う。

「きのうの夜、俺を振ってシラバスと格闘してただろ。あれは終わった?」
「まだ迷ってる。受けたい授業とコマがなかなか合わないんだ」

奥園さんにも相談しているのだけど、と続ける。
行く先を切り替えたレールのうえ、彼は音楽で食べていくことを望みはじめているようだ。
それができるだけの才能。叶えるための努力。努力を厭わないほどに音楽にのめり込める力。備えているのだ、と思う。そう感じるたびに願うことは、それが彼を苦しめないことだ。

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【2015/01/03 07:50】 | 記憶の歌を
|

栞さんへ
砂凪
こんにちは、栞さん!いつもコメント、ありがとうございます^^
なのに…なのに、お返事が遅れてしまいすみません。
お正月は女子会やらなんやらと普段よりバタバタと時間が過ぎました。

杜人視点で見る明日都は本人の自覚とちがっている部分が多いんです。
(というより、わたしが明日都を描きながら『この子、こんな子だっけ…?』と思ったという…)

いたわりの言葉をありがとうございます。
きょうからまた、バイトがはじまるのですが、やわやわ行こうと思います。
今年の目標が『"暮らす"をちゃんと』であるわたしです…。

おはようございます。
草木栞
おはようございます。砂凪さん。
雪かきお疲れ様です。
お正月も特にやることのなかった草木栞です。


杜人視点、楽しみです。
明日都は音楽の道に進むのですね。
本当に楽しみです。

お身体を大切になさってください。
それでは失礼いたします。

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幾日か前の会話が蘇る。
肌を合わせたあとの穏やかで気だるい余韻が残っていた。春の嵐か、外では風が空を吹きわたる音がしていた。

明日都の爪先はいつもひんやりしている。
肌が赤みを差し、熱を帯び、膜を張るように汗ばんでも、そこだけはずっと低い温度のままだ。俺が爪先を動かし包むようにしてやると、『気持ちいい』と笑う。
すぐに足を離してしまうのは、その声が、しているあいだに彼がうわごとのように繰り返すおなじ響きより、真実味を帯びて聞こえ、不安になるから。

その日もぽつぽつと漂うように話していたけれど、なんの話の流れだったか、不意に明日都が訊いてきた。
「杜人には夢とかないの?」
「……ないよ」
「なんにも?」
「なんにも」

先ほどまで腕のなかで声をあげていたのに、どうしても壁際に離れていってしまう恋人。へたりと背中を淡いベージュの壁につけてこちらを向き、珍しく不満げな声をあげた。

「つまんないねぇー。ぼくだけ夢を語っているみたいで、なんだか恥ずかしいし」
「なんで」
細くなった目は笑うだけでなにも答えなかった。俺は言う。
「夢があったら、こんなにくさくさしてないよ」
夢は、あるよ。あったよ。一度、叶えたことがある。そう告げるかわり、俺はそう言った。

「くさくさは、していないでしょう?」
俺の好きな口調とともに腕が伸びてきて、ぎゅっと抱き締められる。
「杜人はいつも、自己評価が低すぎるんだ。ぼくよりよっぽどちゃんとしているのに」

ちゃんとなんて、していない。表面上は滑らかな水の下にある、どろどろした淀みのようなもの。あのことばを誓った日から、俺のすべてが、俺はきらいだ。

歌いたいけど、歌わない。
歌いたいから、歌えない。

耳を塞ぎたくなった街中。視界の隅に映るだけで吐き気がしたCD屋。
歌わない理由も、歌えないわけも、山ほどあったからすべてから逃げ出した。
抗えず、逃げ出すくらいなら…真実を暴露してやればよかった、あのときに。どうせ、叶えた瞬間に夢が壊れていたのなら。

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【2015/01/04 08:34】 | 記憶の歌を
|
仕事のない日曜日。
細かい文字の並ぶシラバスと自分で作ったらしき時間割とを見比べている明日都にコーヒーを淹れた。
一年強に及ぶ彼との暮らしのなかで、俺の淹れるコーヒーはだんだんと濃くなった。明日都の好みにあわせた結果だ。

明日都がコマ割り表をひらひらと振ってみせる。
「とりあえず、これかな」
「おぉ、決まったか」
「理想としてはこうなんだけど、コマがぎちぎちだから、試験のときとかはかなり苦しいかも」
「あんまり詰め込みすぎるなって」

口にしながら思い出す。ボイストレーニングや音楽教室に熱心に通っていたころの自分。夢をかなえるんだと、馬鹿みたいに必死だった自分。その結果、なにを手にしたかを。

「明日都はいつも極端すぎるんだよ。夢にのめり込みすぎると、折れやすくなる」
明日都が壁にもたれてコーヒーを飲んでいる俺を見上げた。頬杖をつき、微かに微笑む。
「……夢、ほんとはあったのでしょう?」
「え?」
「夢。叶えたかったのが、あった。そうじゃないと、そういう気持ちってわからないものでしょう?」

怜悧だな、と思う。ほやほやと生きているようで、ときどき、妙なところで鋭く核心を突いてくる。……それが他者の隠したいことでも、守りたいものでも。

「いつも思っていたんだ。ぼくが迷っているとき、杜人が言うのはなにかを諦めたひとが言うことだって」
鋭さに苛立つ。明日都の鋭さは本人が無自覚なだけに、鈍感さと紙一重だ。
「……諦めた、とか簡単に言うなよ。なにも知らないくせに、踏みこんでくるなよ」
口にしたあとで、自分のことばが必要以上に冷たかったことに気がついた。そして、その台詞が肯定であることにも。

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【2015/01/05 09:33】 | 記憶の歌を
|

OKECHIYOへ
砂凪
こんにちは、リターンズ。

あの、わたしはきみの集中力に感服するよ。
作者のわたしでも、一気に読みなおしは無理なんだよね、これ。
だから一貫性がところどころなかったりする……。

きのうは、ツイッターで長々遊んでくれてありがとう☆


OKECHIYO
「かなしい音が聴こえない場所」からここまで一気読みしたおけちよであります!
詳しい感想はついったでw

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「ごめん。でも、ぼくは杜人のおかげで乗り越えられたから。それなのに、なにも知らないから、だから、踏みこみたいから…」
明日都が鋭さを引っ込め、一歩後ずさる。とたんに口調がもだもだとする。
喋りが基本的に上手ではない。うまく口にできないことばを自分のなかに溜めこんで、いきなり感情を露わにする。
一緒に暮らし始めてからわかったことだ。

"あのとき"、俺がいたから大丈夫だった、俺がいちばんに助けてくれた。明日都は言う。繰り返し、繰り返し、笑いながら。
けれど、なにから俺が彼を救ったのか、厳密には知らない。俺の持ちあわせているなにが、彼の助けになったのかも。
わかっていることは7年前に失われた絆の残影に明日都がずっと囚われていたこと、母親となんらかの確執があったこと、夭逝した父親が世界的に高名なオルガン奏者であること。それだけだ。
明日都が話すことばのかけらをもっと注意深く寄せ集めていれば、すべてを知ることができたのかもしれないけれど。それでも、もう、なにもなかったように傍にいる彼に理由を問いただす必要性は感じない。

俺のなかにあるどろどろとした淀み。俯いた明日都の髪を撫ぜ、言う。
「ずっと、話さないわけじゃない。話せるときがきたら、ちゃんと話すよ。自分から見てもちょっと深めの酷い傷だから、見せるのに戸惑ってしまうだけ」
「そうなの?」
頷いて、笑ってみせる。自分の痛みを感じるのは、俺ひとりだけで充分だ。
きっと、共振してくれる明日都を、俺のせいで、俺のことで、かなしませたくはなかった。

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【2015/01/06 09:34】 | 記憶の歌を
|
明日都が知っている、俺のこと。
ふつうではないけれど、自分ではとりたてて不幸だったとは思っていないし、それなりに幸福だったとさえ思っている、生い立ち。
小学生のときに可愛がってくれていた両親が他界し、それからは母方の親戚の家で過不足のない愛情と思いやりを注がれ、育ったこと。

それを話しただけで、明日都は自分を責めた。
俺のいる世界と、彼のいる世界を較べ、自分はまだそれでも甘い嘆きのなかにいたのだと。
だから、それから起こったことの話は…忘れたいと思うほど、投げ出したいと思うほど、ぴったりと影のようについてくる過去の話は…できなかった。

俺はいまでもまだ、歌が好きなのだろうか。混沌とした渦のなか、答えは見えない。

シラバスとコマ割り表を片付けている明日都に、声に出さずに告げる。音の聞こえる世界で、ぐるぐるぐるぐる、出口のない問いかけのなかにいるのは、俺もそうだよ。

“夢”。
とうに気づいてはいる。もう、そこから覚めていること。もう、幻影のようなものだということ。
けれど、明日都のもがく姿で思い出した。
夢を希望を憧れを、夢をかなえようとしたのとおなじくらいの努力で忘れようともがいていた自分を。
そして察した。生涯、これはついて回るのだと。

いつだったか、明日都が言った。
「痛みは癒えても、傷は残るでしょう?だから、大丈夫だと思えるんだ」
傷は残る。己の傷跡を見て自分を支えていたのだとしたら、明日都のいる世界の景色はどれほど荒涼としていたのだろう。
俺は、傷から目を逸らすことでしか、痛みを忘れられない。いや、忘れてはいない。思い出さず、幾重にも及ぶ時間の織目のなかに沈めているだけだ。

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【2015/01/07 09:32】 | 記憶の歌を
|
俺の部屋にテレビはない。見る必要もないし、見たいとも思わない。
だから、あの歌が流れてきたのは、夏の香りのする風が開け放った窓から流れ込むころ、FMでつけっぱなしにしていたラジオからだった。

「栃木県のラジオネーム、エイさんからのリクエスト。清瀬陸で『トモシビの樹』」
心にまとわりついて離れないイントロが流れ出す。
知らない景色が目のまえに現出した。いや、知っている。……この景色は、あのころ見ていた絶望。

「どうかした?」
テーブル越しにパソコンに向かい、課題を淡々と進めていた明日都が、手を止めた。
知らない間に両手で覆った顔からため息が零れていた。
清瀬陸が歌い出す。俺の、声で。

身震いし、手を伸ばすとテーブルのラジオの電源を落とそうとして、やめた。
明日都に言う。落ち着いた声が滑らかに出たことに驚く。

「これ、この曲、この歌、声、俺だから」
「は?」
「このころの、清瀬陸は、俺なんだ」
「え…っと、でも、いろいろちがうよね?そもそも清瀬陸は俳優だし、杜人は杜人だし…見かけもちがう」
「いまはね。歌をどこかに置き忘れたみたいにしているあいつは、俺じゃない」

明日都の唇が引き結ばれる。真剣に考えるときの癖。

「どういうこと?確かにいま、シンガーソングライターは辞めたみたいだけど」
「俺さ、昔、結構なヒット曲作って歌っちゃってたんだよねー。ドラマの主題歌だよー。オリコン一位だよー。すごいよな」
自嘲的に笑う。この楽曲を作り、歌っていたのは俺のはずなのに、俺にでさえ、いまやそれがあやふやだ。

「えーっと、それは、冗談だよね?」
「冗談みたいだけど、嘘っぽいけど、ホント。清瀬陸の実態は、実力派俳優に擬態している元超絶不良少年」
「どうしてそんなこと知ってるの?」
「俺、あいつとおなじ事務所だったから」
「事務所?」

疑問符だらけなのだろう、傾げられた明日都の頭。両手で頬を挟み、まっすぐにする。
「芸能事務所ですよ」

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【2015/01/08 09:13】 | 記憶の歌を
|
ぽかん、と明日都の口が開く。

「むかーしむかし、あるところに」
「なんの話?」
「俺の話」

濁った水はどこで濾過されたのか、清冽な泉水のように淀みのない声が流れだす。
澄んだ泉の底にゆらゆらと沈んでいるのは、泥のなかに幾重にもしまっておいた昔の自分。
向かい合って座っていたテーブルに置かれたパソコンを横に押しやって、真面目な顔がこちらを見る。

「あるところに、両親を亡くした少年がいました。で、その少年の両親ってやつがキューキョクの親バカでさ、少年に夢を残したままだったんだ。で、健気な彼は両親に託された夢を実現しようと馬鹿みたいに努力した。まっすぐに頑張った。泣けるねぇ」

明日都は口を挟まない。

「そして。その残された夢というのが歌だったわけよ。引き取った先の親戚の保護者も理解ある人たちでね。少年が言うたったひとつのわがままを叶えてあげました。彼はボイトレに幼少期から通い、中学生のときにはもう、自分で曲作っちゃったりもして。オーディションを中学時代から何回も受けて、中3のとき、7回目でとある事務所にシンガーソングライターとして合格したさ。そりゃあもう、必死だったから。有頂天になった彼は、事務所所属後には合格前より頑張っちゃったりした。早くデビューするんだ、夢を本物にするんだ、ってね。歌で食べていくんだ、夢を掴んでみせるんだ、って。すべてが順風満帆に見えました」

滑らかに、過去が流れ出す。自分で話しているのにナレーションを聞いているようだった。

******

ここから、ひたすら杜人の語りになるので大層読みづらいと思います……。
これでもいろいろ、ちょっとでも読みやすいように工夫したんですー。
なんとか最後までお付き合い願えれば幸いです。


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【2015/01/09 09:21】 | 記憶の歌を
|
「そこに現れたのが清瀬陸。最初見たとき、こんな奴どうすんだろって思ったね。ヤンキー色が全然抜けてなくて。しかも、事務所に拾われたきっかけが笑えた。上野でオヤジ狩りしてやろうと目論んだ相手が、俺がいた事務所の社長だったんだ」

明日都の肩が少し揺れた。
「少年とは、ものすごい落差だね」

「そっ。ところが、一ヶ月後、清瀬陸を見かけた少年は呆気に取られました。こいつだれ!?ってくらいに激変してたから。そこからいろんな噂が耳に入ってきて。そのなかに、その年の事務所イチオシアイドルがあいつだ、っていうのがあったわけ。社長の目のかけ方が半端じゃない、とかね」

「それで、そのころと時を同じく少年のマネージャーと名乗る人物が現れ、一曲書いて歌ってほしいとオファーが来ました。天にも昇る心地で少年は書きました。夢に手が届いた、ってね。それが『トモシビの樹』。曲をマネージャーに提出するとべた褒めされて。レコーディングは夢そのもののようでした。でも、それっきり。デビューの話もなにもなくてほったらかし。おかしいな、と思いはじめたころ、テレビのなかでうたってたんだ。清瀬陸が、少年の歌を、少年の声で」

明日都がそっとこちらをうかがう。自分の唇が歪んでいるのがわかった。
俺を纏う空気が熱を帯び、湿っぽくなる。軽く押さえ、話し続ける。

「よくある売りだし方さ。ちょっと注目されはじめたとこで、歌。当然のことながら、少年はマネージャーに掴みかかって問いただしましたよ。どういうことなんだ、ちゃんと説明してくれ、ってね。だけど、言われてしまったわけ。今我慢すればわるいようにはしないから、言うことを聞けって」

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【2015/01/10 08:46】 | 記憶の歌を
|
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