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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
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その数日後。
帰ってきた鹿納さんは上機嫌だった。不機嫌なところを見たことはないけれど。片手にケーキの箱を持っている。
「恵志!」
弾んだ声で名を呼ばれた。
おかえりなさいを言ったあとに、辞書を引きながら新聞の隅に載っていたクロスワードパズルを解いていた手を止める。顔をあげ、目線が合うと微笑まれた。

「依頼元から大絶賛だったぞ、きみのあの写真」
「そうなんですね」
「おいおい、他人事みたいに言うなよ。きみの写真だぞ」
お土産、と言ってケーキの箱がテーブルに置かれる。断って、中を覗いた。四角いチョコレートが艶やかに光るケーキ。
「これは、ぼくに買ってきてくださったんですか?」
「ほかにだれがいるんだよ」

鹿納さんが笑う。このひとの笑顔を見るのは好きだ。鯨に似ているから。やさしそうだから。
キッチンから上品な皿とフォークを持ってきて、ケーキを移してくれる。困ったな、と思う。鹿納さんの手を押さえて、言った。
「夕飯前に甘いものを食べちゃいけないって言われました」
驚いたような視線。だれに?と怪訝そうに訊ねられる。
「西原さんです」
「きみと…西原さんはどういう関係なんだい?」
「西原さんは、ぼくの最初の住処になってくれたひとです」
「それだけ、じゃないだろう」
「なにを、話せばいいですか?」
「そんなに複雑なのかい?」

ぼくは夕飯前にこの話題が適切なのか、しばらく言い淀み、それから話した。
「西原さんは、14歳のとき駅のホームから飛び降りようとしていたぼくに、『R/D』でごはんを食べさせてくれました。命の恩人です」
鹿納さんが、動揺した。
あまり感情を表に出さないひとだとわかってきているので、驚く。微かに震える声で訊かれた。
「いったい…どうしてきみは…?」
ぼくは苦く微笑んでみせる。
ぼくがまだ、航空障害灯になる術を知らなかったころの話だ。

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【2015/05/01 09:23】 | しあわせな人生
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「もう、どこにも帰ることができる場所が見つからなくて、“家”と呼べる場所がすべてなくなって……世界中からぼくひとり、透明な膜に阻まれているようでした。そうしたら、西原さんはここにいればいいと。そう言ってくれました」
鹿納さんはわけがわからない、という顔をするけれど、なにも言わない。
わけがわからなくてもなにも訊けないように、ぼくが話しているから。

西原さん。
ぼくに、『きみは俺がむこうから引き戻した命だ。もう勝手にむこうへ帰しちゃいけないよ』と言ってくれたひと。
流浪するような暮らしを続けるぼくだけれど、ちゃんと、西原さんという“母国”があるようなものだ。だから、ぼくは西原さんの手の届く範囲で流浪を続けて生きている。
しばらく考えていた鹿納さんは、言った。

「いつか、俺にもちゃんとわかるように話してくれないか?」

頷いて笑う。
それでも。
たぶん、話すことはない。ぼくの、『まともな神経をした人間なら不幸だと思う』生い立ち。
明かしても大丈夫だと思える範囲で、はじめて自分の生い立ちを他人に話したら、ぼくを不幸だと言ったそのひとの元を、ぼくは翌日去ったから。
まだ、鹿納さんとは一緒にいたい。

ぼくは、自分を不幸だと思いたくない。もしもそう思ってしまったなら、唯一、ぼくのために身を裂かれるような思いをしたひとを、裏切ることになるから。
悲しいとも不幸せだとも、決して思ってはいけない。生まれてきただけで、生きているだけで、しあわせだと。そう思わなくてはいけない。ぼくがぼくに唯一許している感情。

……不運なだけ、不幸じゃない。
たとえそれが、失くしたしあわせの残影に照らされているだけの景色だったとしても。

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【2015/05/02 09:00】 | しあわせな人生
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食器を洗い終え、テレビのバラエティ番組を見るともなしに見ていたら、鹿納さんがシャワールームから出てきた。
振り返って「おあがりなさい」と言う。
彼はぼくの座っているソファに歩み寄ってくると、そのまま隣に座った。

「なにか、見たい番組がありますか?」
訊ねると、黙って鹿納さんは首を横に振った。彼の手がそっと伸びてきて軽くぼくの肩に触れた。そのまま、抱き寄せられる。
「ごめんな、恵志。あのとき、『R/D』でたまたま会ったふりをしたけれど、あれは嘘だ」
「嘘?」
「あのバーに3年通っているというのは本当。だけど、あのとききみの隣に座っていたのは、偶然じゃない」
「どうして?どういうことですか?」
「西原さんがカウンターの隅に、きみの写真を置いているのは知っているかい?」
「いいえ」
首を振って、胸のうちだけで西原さん、と呟いた。

「写真を見て、前々から気になっていたんだ。透明感のある子だって。で、今回のオファーがあって、きみに会いたくなった。さがしていたイメージにぴったりだったから。どういう子なのか、西原さんに聞いた。そうしたら、一両日中にはあのバーに来るだろうって言われてね」

「それで…あの日、郭ではなく『R/D』のカウンターでぼくを待っていたんですか?」
「そう」
この上なくやさしい声で、鹿納さんは言った。
「きみがどんな子でも、どんな人生を送ってきたとしても、きみはきれいだよ」
「…西原さんに、ある程度、ぼくの昔のことを聞いたんですね」
申し訳ないという概念に声をつけるとしたら、こんな響きなのだろう、と思わせる返事が聞こえる。
その響きは柔らかにぼくを包む。

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【2015/05/03 08:03】 | しあわせな人生
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「探るような真似をしてごめん。でも、どうしても知りたくて。でも、西原さんも出会う前のきみのことはなにも知らなかった」
「話すほどのことじゃありませんから」
話すわけにもいかないのだ。
どうしても。

ゆっくりと手が髪を撫ぜる。鹿納さんが話題を変えた。
「きみの誕生日はいつなんだい?ケーキ、気に入ったみたいだから、誕生日はあの店のホールケーキを買いに行こう」
「…ふつう、自分の誕生日ってしあわせなんですよね」
「…え?」
「ぼくには、祝うような誕生日がありません」
ことばは、返事は返ってこない。返しようもないのだろう。

鹿納さんの手をさりげなく振り払った。立ち上がって、軽く触れるだけのキスをする。
「だから、お祝いのしようがないんです。おやすみなさい」
胸の内だけで、ごめんなさい、を言った。
ぼくが生まれて、祝福され、消えることのないさようならを背負った日。ぼくの『誕生日』に込められた重みを、鹿納さんは多分、知らない。

鹿納さんの問いたげな眼差しを避けるのは、大変だった。
どうしてだろう、と思う。こういう目でぼくを見るひとの元は、深入りするひとのところは、去ればいいだけだ。
だけど、ぼくは鹿納さんの元を、どうしても去ることができない。

見えない糸がぼくを繋いでいる。その糸は、いつのまにか、ぼくが紡いだものだ。そして、それは。それはおそらく『想い』と呼ばれるものだ。
それに気づいたとき、心のなかに冷たい風が吹いた気がした。
死なない程度に生きて、多くを望まず、ひとり死んでいく。そう思っていたくせに。
悟りきった眼をしたぼくが、なにをいまさら…、とぼくを嗤う。
なにをいまさら、だれかを想うのだろう。

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【2015/05/04 09:15】 | しあわせな人生
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そのころ、ぼくが被写体になったデジタルカメラのCMが流れるようになった。
赤いバラを詰め込んだ金の鳥かごを持ち、黒鳥の羽根を紡いで作ったシャツを着、窓辺でどこともつかない遠くを見ている少年。女性の声の囁くような謳い文句。

そのCMが流れるようになって3週間がたったころ。
仕事から帰ってきた鹿納さんが、恵志!とうれしそうにぼくの名を呼んだ。
「きみ名指しのオファーが来たぞ」
「…え?」
「カメラマンはまた、藍子ちゃんにお願いしておいた」
「撮影所に、また行くんですか?」
そうだよ、と言った鹿納さんはこの上なく喜んでいるようだった。
……ぼくのことで。
「あのCMがものすごく話題になってな。あの子はだれだ、ってちょっとした騒ぎだ」
「だれって…ぼくですよね?」
「そうだよ」
鹿納さんはまた言うと、ぼくの頭をくしゃくしゃと撫ぜた。撮影が成功したあのときのように。
「ありがとうございます」
右手に持った見えない台本からではないことばが零れた。え?と思う。
いま、ぼくは頭のなかのどこから、台詞を見つけたのだろう。

ダメだ、と思う。鹿納さんをこれ以上、想ってはいけない。この家を出なければ、いつのまにか居心地の良さを覚えていた、ここを出なければ。
鹿納さんがいないときに、何度も部屋のドアノブに手をかけた。
それなのに、どうしても、開けることができなかった。
ドアのむこうに奈落があって、一歩踏み出したら落ちてしまいそうだった。奈落を作り上げたのは、ぼくだ。打ち消して、打ち消して、誤魔化してきた温かい気持ちは、それに相反する深い空洞を生み出していた。
空洞に対する恐怖がぼくを縛り付け、封じ込め、鍵をかける。ドアにも、振り払おうとする意志にも。

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【2015/05/07 09:27】 | しあわせな人生
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二度目に会った藍子さんは、ぼくを見るなり駆け寄ってきて、いきなりぼくを抱き締めた。
「恵志くん!やっぱり、鹿納さんが見つけてきただけあって才能あるわ!」
柔らかな身体に抱き締められ、竦んでいるぼくを『救出』してくれたのは鹿納さんだった。
「藍子ちゃん、申し訳ないけど、恵志は先天的に女性免疫がないんだ」
「なんですかそれ、鹿納さん」
「純粋、という概念に姿かたちを与えて命を吹き込めば、恵志になるということだ」
「あら、素敵。じゃー、お姉さんが誘惑しちゃおうかな」
ショートカットの髪を揺らして藍子さんが笑う。こういう、あっけらかんと明るすぎるひとは苦手なはずなのに、藍子さんには好感が持てる。
「お姉さんの誘惑に乗っちゃいかんぞ、恵志」
鹿納さんも笑いながら、言う。
「鹿納さん、保護者面しちゃって」

こんな笑顔に包まれるのははじめてだ。戸惑ってしまう。
いつもぼくのそばにあったものは、表面上と互いが知っている愛や上辺や本能だけの行為だったから。
揺らぐ。それは、もしかしたら。もしかしたら、とてもかなしいことなのかもしれない。
そして。鹿納さんのそばにいることは…。
二度目の撮影はすこしむずかしく、オッケーを藍子さんが出すのに、二日間かかった。それでも、藍子さんも鹿納さんも嫌な顔ひとつしなかった。

「恵志」
撮影所から帰る道中、ハンドルを握った鹿納さんが助手席のぼくに声をかけた。その声は疑問の形をとる。
「きみはなにが好きなんだい?」
「……なにが、って?」
唐突な質問の意図がわからずに、訊ね返す。
「なにが楽しくて、なにが嬉しくて、なにがあると喜ぶのか。きみの人生の彩りはなんなのか」
考えた。楽しいも嬉しいも、ぼくのこれまでには見当たらない。拾えない。
「たぶん、なにもないです」

鹿納さんが、黙った。気詰まりになったので、急いで補った。
「ぼくは生きているだけで、しあわせだと…きっと、そう思わなくちゃいけないから。だから、なくてもいいんです」
「……キアロスクーロ、みたいな日々、か」
車内を漂った呟きの意味がわからず、鹿納さんを見上げる。
「色の明暗だけで絵を描く技法のことだよ」
「そう…ですか」

なんとなく、どちらもことばを発せられなかった。たくさんの彩り。憧れないといったら嘘になる。
けれど、死なない程度に生きるぼくには、その鮮やかさは重すぎる。
「孤独を、つらいと思ったことはないのかい?」
むしろ穏やかに、鹿納さんは問う。ぼくはその問いかけには答えず、膝に手のひらをぎゅっと押しつけた。
窓のむこうを、ネオンに満ちた風景が流れていく。彩り。光。きっと、こんなふうに眩い世界では、消えてしまうにちがいないのに。

******

《お詫び》
予告もなくお休みして申し訳ありませんでした…。
絶望的に心の調子を崩し、手の届く範囲の家事をこなすことでいっぱいいっぱいになってしまい。
書くことも読むこともできず、しばらくぼんやり泣いていました。
でも、もう元気ですので!どうぞご心配なく~♬


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【2015/05/11 09:32】 | しあわせな人生
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好きなこと。ひとつだけあった。歌をうたうことだ。
今までお世話になったひとたちのところで、いろいろな歌を聞き覚えた。もともと音感がいいらしく、ときどき褒められる程度にはうたえた。
それを思い出しキッチンで口ずさんでいると、バスルームから出てきた鹿納さんが仰天したように言う。

「きみは、英語を話せるのか?」
「英語?」
「その歌は、英詩だろ。カーペンターズの“I won’t last a day without you”」
鹿納さんの発音はきれいだった。満足に学校に通えなかったぼくにも、それが流暢であることが分かるほど。
「そのタイトルの意味がわからないくらい、わかりませんよ」
「……『あなたなしには一日だって生きられない』かな」

あなたなしには。
ぼくは、ちいさく笑った。
「それは、さびしい人生ですね」
「……え?」
「だれかに頼っていなければ歩けないなんて。守りたい毎日があるのなら、自分だけで立てなければいけないのに。行きたい場所があるのなら、自分の足で歩けと…ぼくは、ずっとそう思っています」

沈黙が落ちた。静かな声が耳を打つ。
「恵志」
「なんですか?」
「きみは、ことばを挿げ替えて、自分を誤魔化しているだろ。不幸と不運、悲しいと…」
「ちがいます」
鹿納さんの心地よい声を遮ったのは、はじめてだった。
「ぼくがなにかを取り違えているとしたら、履き違えているとするのなら、それは多分、現象と心象です」
難しい表現を引き合いに出した自分の音声に、ぼくはただ、静かに傷ついていた。

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【2015/05/12 09:20】 | しあわせな人生
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ぼくが被写体になった二本目のCMも話題になった…らしい。新しい清涼飲料水のイメージ。煉瓦の塀にもたれ、狭い路地裏で青空を見上げる、真っ白なシャツを着た痩せた少年。
静止画像を飲料のコマーシャルで使うのはとても珍しい…らしい。
鹿納さん直々にぼくのマネージャーについた…らしい。
『らしい』というのは、すべてぼくが鹿納さんから聞いたことだからだ。

そのCMをはじめて見たのは、鹿納さんと一緒に動物番組を眺めていたときだ。
「この曲、聴いたことがあります」
BGMに使われている楽曲に、聴き覚えがあった。
ぼくは鹿納さんの膝のあいだにすっぽり収まっている。後ろからぼくをゆるりと抱き締めている彼が穏やかに笑った。温かい。
鹿納さんが望めば、こうして穏やかに触れ合うこともときどきあるくらいには、鹿納さんを必要とし同時に遠ざけている。
ぼくは否定する。これは、光じゃない。温もりじゃない。温かいけれど、温もりではない。ぼくをぼくたらしめる孤独を、埋めていくものではない。

「ずっとむかしの曲だよ。俺も生まれる前の曲だけど…知らないかな…清瀬陸の『トモシビの樹』」
楽曲と歌手・タイトルが結びつかずに傾げたぼくの首筋に鹿納さんがキスをした。油断しきっていた口から、声が漏れる。後ろからぼくの身体に回された腕の力が強くなる。

そっと振り返ると、鹿納さんがじっとぼくを見つめていた。
注がれているのは、欲情している、というよりずっと、清潔な視線。
さらさらとした眼差しに身体の芯が熱くなり、疼く。もっとちゃんと、と言いかけたぼくの口はキスに塞がれる。遠慮がちだったそれは、やがてタガが外れたように深くなる。
一度、舌が絡まってしまうと、もつれた毛糸のように解けなくなる。
目の前の快楽を追うことしか考えられなくなり、ぼくは微かに息をついた。

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【2015/05/13 09:29】 | しあわせな人生
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鹿納さんの指がぼくのなかの感度の高い場所を探り当てる。高い声をあげて身を捩ると、鹿納さんが静かに笑った。
身体が望むままに強請ると、中で動く指が増やされる。鹿納さんの肩に縋り、ぼくはちいさく悲鳴をあげつづける。
いつもの穏やかな声とちがう声音で呼ばれた。
「…恵志」
「あ、名前……、それじゃ…なくて」
浅く速い呼吸の合間に告げようとした。教えようとした。本当の名を。
『移し名』ではなく、本当の名前を。鹿納さんだけには、呼んでほしかった。
来し方を、行く末を考えれば考えるほど、まちがっていると、わかっていても。

一瞬の躊躇。鹿納さんの声がした。
「じゃあ、築(きずき)」
一瞬、深い快楽が引いて純粋に驚きだけが脳を支配する。
「どうして?」
「『移し名』じゃないきみの名前だよ」
「どうして、それを?」
だれも知らないはずなのに。西原さんでさえ。
「いまは、教えない。教えられない」

静かに言う鹿納さんがぼくのなかから動かしていた指をそっと引き抜いた。
より深い快楽の予感に、ぼくはなす術もなく流され、それ以上なにも考えられなくなる。
鹿納さんと完全に繋がった瞬間、ぼくはあっけなく絶頂を迎えてしまった。それでも、快感に震える身体は乱れたまま、繰り返し鹿納さんを求める。
築、と何度も呼ばれ、穿たれる。喘ぎ声をあげながら幾度も熱を吐き出し、最後にはカウントできなくなった。

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【2015/05/14 09:31】 | しあわせな人生
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「築…恵志、こら、起きろ」
鹿納さんの声が聞こえる。瞼に感じる窓の外はもう明るい。
ぼくは、やっとのことで目を開けて鹿納さんを見あげた。柔らかそうな生成りのシャツとジーンズ姿に、ぼうっとしたまま、あぁそうか、日曜日なのだと思った。
回り出した思考が昨夜のことを思い出す。泣きたくなった。彼とはもっと大事に、もっとゆっくり、重ねていきたかった。消えない、消せない後悔に囚われる。
それでも、もうひとりのぼくが、ぼくをせせら笑う。『もっと大事に』?睡眠と食事のかわりなら、いくらでも身体を差し出してきたじゃないか。鹿納さんにとっても、ほかのひとたちとおなじ感覚なのだろう。
いまさら、他人になにを思って、想っているのだろう。

「鹿納さん」
空回る思考を振り払い、昨夜の行為のせいで掠れた声でぼくは言う。後悔するより先に、訊かなければならない。
「どうして、『移し名』ではないぼくの名前をご存知なのですか?」
「きみのマネージャーになったからだよ」

返事になっていない返事に苛立つ。勝手に他人が必死に隠している過去を探って、その理由を話さないなんて。
「返事になっていません。どこからどこまで知っているんですか?」
振り返った鹿納さんは、いたずらめいた声で言った。
「きみのことなら、ゆうべ、なんでも」
「そうじゃなくて!」
声が荒くなる。静かな話しかた、丁寧語。いつも心がけて、いたのに。
「ぼくの本名が露呈すると、面倒なことになるんだ!実の親がせっかく命がけで隠して…」
しまった、喋りすぎだ、と思うと同時に鹿納さんに抱きしめられた。

「俺ひとりで、きみの過去を探った。そのことは本当に申し訳ないと思っているよ。でも、いまのきみにスキャンダルは無用だ。きみのいままでの暮らしや、生い立ちはきみのイメージを損ねかねない。マネージャーとして、揉み消さなければならないことがたくさんありすぎるんだ」

恵志、と呼ばれる。偽物の名前。心地よい声は滑らかに続く。

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【2015/05/15 09:55】 | しあわせな人生
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Pearswordさんへ
砂凪
こんにちは、Pearswordさん。

とりあえずでもなんでも、コメント大歓迎ですー(●^o^●)
ありがとうございます!

おもしろい、と感じてくださっているとのこと、嬉しいです。

>R18性が濃すぎるような気もします。
あのですね、これでも超薄味スープみたいなものなのです(compered to ほかのかたの小説とか商業本とか)
他作品と比較すれば、無味無臭のようなものです。
そして、サラッと走り書きすると、ちょっとジャンルの特性上からポイントずれまして。
たかが××、で済ませられないんですよね…このジャンル。
なんといっても、わりとニーズがあるので。
あと、たぶん××はこれであってます。
わたしも(当然ながら)本やネット小説で読んで知っただけですが、大抵こんな感じです。

I won't last a day without you。
全然伏線じゃないです…と言いますか、この話、あまり伏線ひいていません。
期待させてしまってすみませんー(T_T)

謎めいていますかっ(〃人〃)ありがとうございます!
築の過去くらいしか謎のない小説です。
もうほんと、読んでいただけるだけでも感謝なのにコメントまでくださってありがとうございます~。

ではでは☆

こんばんは。
Pearsword
 こんばんは。
とりあえず、ここでひとつコメントを入れておきます。
 なかなか面白く読ませていただいていますが、ちょっとR18性が濃すぎるような気もします。同性の××はどんなものか知りませねども、ちょっとずれているような気もするし、たかが××ならあまり重きを置かずにサラッと走り書きするのもテクニックではないかと……。まあ、作者の意向ですから、どうとも言えませんが。(笑)
 また、I won’t last a day without youの歌を出した伏線は、ラストシーンを予感させて読者を引っ張る力があるかもしれません。私はこの歌はよく知らないですが、実際に歌詞を出して歌うシーンがあると、面白いかも知れないです。
 築の過去、謎めいていて、いい感じですね。
 また、続き読みます。


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