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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
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教員になって4年。この時期になると、いつも思う。
教師にとっては終着駅である『高校』は生徒たちには通過駅か乗り換え駅だ。
劣等感や鬱屈さえきらきらと輝かせながら、彼ら彼女らは通り過ぎていく。俺は、駅ですれ違いざまに出会い、通り過ぎるだけの標識にすぎない。
けれど、だからこそ、やれるだけのことはやってやりたい。自分の力の及ぶ範疇で通り過ぎる駅を温かく居心地のよいものにしてやりたい。そう思うたび、自分もまだ青いな、と思うのだが。

始業式のあとのLHRを終え、名簿を片手に教壇を降りる。途端に景色が変わるのだから、不思議なものだ。
職員室ではなく、生物準備室になんとなく足が向いた。温室で育てているミラクルフルーツの生育状況が気になったからだ。

準備室にはこの高校のもうひとりの生物教師、尾田がいた。長い髪をひとつに束ね、赤い縁の眼鏡をかけている彼女は確か、昨年度に3学年の生徒を送り出し、今年は担任を持っていない。
ガラス張りのブース、温室の前に屈みこむ俺に声をかけてきた。

「森橋先生、今年のクラスはいかがです?」
「相変わらずですよ。あぁ、でもひとりだけ、TBの生徒がいたな」
「まぁた、先生のTB判別眼はすごいですよね。さすが、人工生命学を専攻してただけあるわ」
笑い返し、温室ブースの60cmほどの植物に目をやる。2輪、白い花を咲かせていた。
「尾田先生、今年はミラクルフルーツが咲きましたよ」
「甘味作用のある物質はミラクリン、でしたよね。すっごく安直な名前で」
「そうそう」

生徒たちのことを考えた。
受け持ちのクラスの生徒に教えてやれば、興味を持つ者はいるだろうか。それ自体は甘くないのに、後から食べたものを甘く感じさせる不思議な実と物質。

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【2015/06/01 09:12】 | そこは命のあるところ
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LHRが終わり、森橋先生が教室を出ていったとたん、教室は花が咲いたように賑やかになる。
おなじクラスになれたことを喜びあう女子たち、放課後の『新年度はじまっちゃったよカラオケ会』を企画している男子たち。

ぼんやりと眺めていると、ひとりの男子が振り返り僕に声をかけてきた。
「辻本も、カラオケいかねぇ?」
彼が僕の苗字を呼んだことに少なからず、驚く。LHRの自己紹介で目立って面白いことを言ったわけでも、さして仲がいいわけでもないのに。
「僕は、いいよ」
短髪の彼は結構あっさりと「そっか」と引いてくれた。安心する。

僕はまわりと自分との間に線引きをしている。海溝のように深く、ぐるりと。
だれにも立ち入らせないし、だれにも立ち入らない。親しくもならなければ、言い争うこともない。僕のDNAをプランニングした両親にも、たいした愛着があるわけでない。
水のようだと思う。だれも傷つけず、だれにも傷つけられず。
TBであることにコンプレックスを抱いているわけじゃないけれど、それでもどこかでほんの少しだけ、他のひとには立ち入れないと感じている部分もあるのは事実だ。

自宅まで、教科書販売で購入したありとあらゆる科目の教材や資料集を抱えて帰る。珍しくリビングにいた母親に声だけかけて自室に入る。
今日は通院日ではなかったのか。なにかしらの病気を抱えているらしい母親は、ここから電車で1時間半の大学病院に定期通院している。
「疲れた……」
空気にことばを乗せてはじめて、自分が疲れていたことに気がついた。

森橋先生が僕に向けた視線が蘇る。
『TBであることなどお見通しだよ』。もともと、隠すつもりもないけれど、やはり知られるのは気分がよくない。
どこからもつながらず、そしておそらくは僕のもうひとつの秘密のせいで、どこへもつながっていかない僕の命。
連綿と紡がれてきた連鎖のうえで、壊れた欠片。

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【2015/06/02 09:15】 | そこは命のあるところ
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昼休み終了直後の授業では、教師の声は子守唄も真っ青…といった具合に眠気を引き出すようだ。
俺も高校時代に想いを馳せれば、そんなものだったのだろう。教員になってしまうと自分の高校時代はなかなかうまく思い出せなくなった。

とろりと陽光の差し込む午後の教室で、それでも辻本は熱心にノートをとっている。クエン酸回路の説明をしながら、ちらちらと授業の救世主たる辻本の様子をうかがう。

「炭素、脂質、アミノ酸などの炭素骨格は、最終的にこの回路で酸化、分解される、な。生体のエネルギー源になるんだ」

ひと息つき、なんとなく見回した教室の睡眠、あるいは他教科の内職確率は約75パーセント。
虚しくなりつつ、また辻本に目を遣った。こちらをまっすぐに見る眼差しにぶつかった。
―…とてもきれいな目をしている。
なぜか、ほんのすこしうろたえた。
タイミングを見計らったようにチャイムが鳴った。今日は新入生向けの部活動紹介があるとかで、15分短縮授業だ。

「次回の授業のプリント、放課後に生物室までだれか取りにきてくれないか?」
チャイムが鳴った途端、蓋をあけたオルゴールのようにざわめきを取り戻した教室に声をかける。
だれも名乗り出ないので、自分で持ってくるしかないのかと思った矢先、声がした。振り返ると辻本が困ったような笑みを浮かべている。

「僕、取りに行きましょうか?きょうの授業のことで質問もあるので」
「あぁ、じゃあ頼むな」
笑って返したが、胸の内に一瞬ちらり、疑念がよぎる。
質問?知能指数の高いTBの彼が?ありえない。
これは、なんのための嘘だろう。それでなければ……、彼の質問の内容は、本当はなんだろう。

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【2015/06/03 09:11】 | そこは命のあるところ
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新年度が始まって3回目の生物の時間。クエン酸回路についての説明を聞きながら、板書を写していく。
くるりと回り、様々な物質を生みだす円。生きものは本当によくできていると思う。

「生体のエネルギー源になるんだ」

森橋先生の一言にハッとして顔をあげる。
生体。その定義はなんだろう。TBの、『人間もどき』の僕も生体なのだろうか。
あげた視線が教壇の上からの眼差しとぶつかる。さっと目を逸らされた。不自然な目の逸らしかたに、どうして、と思う。
僕もそのまま目を流し、ちらりと教室の壁掛け時計に目を遣る。タイミングよく、チャイムが鳴った。

ぱちんと魔法が解けたようにざわめきを取り戻した教室で、森橋先生がプリント配布を呼び掛ける。
だれも聞いていないか、聞いていても面倒なので無視している。
なんだか、水槽のなかで成す術もなく減っていく酸素に苦しむ金魚を見ているような気分になって、思わず名乗り出ていた。

「僕、取りに行きましょうか?」

授業のことで質問があるというと、相手の目にはあからさまに当惑の色が浮かんだ。
ダウト。
そう言われた気分になって、歯噛みした。
森橋先生は僕がTBであることを知っているのだから、理解力が生まれつき優れている僕の質問がなんなのか、疑問を抱いても不思議はない。

けれど、訊きたいことは山ほどある。僕では、わからないこと。そのままぶつけたら、先生は答えてくれるのだろうか。
僕は、いったいなんですか?
みんなと同じだけの価値がある存在ですか?
僕はだれになにに選ばれて、祝福されて生まれてきた命なのですか?
そして。そして、僕が男性にしか惹かれないのは、異形の命として生まれたこととなんらかの関係があるのですか?

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なんだか、眞琴が自分のことでいっぱいいっぱいすぎるために。
ぶっちゃけ、『愛はどこにあるの…?』みたいな語りが続いていてすみません。。。

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【2015/06/04 09:24】 | そこは命のあるところ
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「あれ?鍵かかってるのかな…?」
戸惑ったような辻本の声が聞こえたのは、放課後すぐのことだった。あれ?と生物準備室のドアをしきりにガタガタやっている。
旧校舎の第3校舎にあるこの部屋の建てつけは怖ろしくわるく、コツを掴まないとドアは寸分たりとも動かない。

声を放る。
「辻本、ドアの下を思いっきり蹴ってから開けてみろ」
え?と扉越しに戸惑った声が聞こえ、つぎの瞬間、なにもそこまでしなくてもと思うほど強くドアが蹴られた。
響く音に思わず胃を押さえる。
軋む音を立てて引き戸が開き、辻本の驚いたような声がする。
「先生、いつも思うんですけど、すごくぼろいですね、第3校舎って。まだ、引き戸なんですね」
「頼むから、言ってくれるな。俺の聖域だ」

言うと、目の前の生徒は笑う。整った顔立ちがふわりと崩れて浮かぶ、子供っぽい笑顔。
可愛いな、と思った自分を即座に戒めた。

「プリント、ください。教室に持って行きます」
差し出された手。
ああ、と答えプリント束を手渡した。受け取って、踵を返した彼の背中に思い出す。質問がある、と言っていた。
「おい、辻本。なんか質問があるって言ってなかったか?」

線の細い背中が振り返る。その途端、西日が射しこんで彼の表情がうかがえなくなった。
しばしの沈黙ののち、先生、と呼んだ声は幽かに震えていた。

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【2015/06/05 09:08】 | そこは命のあるところ
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先生、ともう一度声がする。ちいさく疑問符が耳を打った。
「クエン酸回路の説明のなかにあった『生体』の定義はなんですか?」
そもそも深く考えたことがあまりない質問に、内心で首を傾げた。
「簡単だろ。生きている生物、っていうことだ」

しばらく、また沈黙があった。
さらに重ねられた声は細く、聞きとるのが難しいほどだった。

「僕は……僕も、『生体』の定義に当てはまりますか?」
「え?」
「先生は、僕が遺伝子組立で作られた…、自然命でない、人間が作ったTBだと、ご存知ですよね?」

否定できなかったことが肯定だった。
一言ずつ発するのが精一杯、という感じの声に辻本の脆さが滲んでいる。

「TBには、命の定義さえ揺るがしかねない危険性がある、と……ちいさなころ、科学雑誌で、読んだことがあるんです。そして、僕は……あまり、生きているような気がしないんです」

辻本、お前……、言いかけた俺のことばを封じるように、辻本は微かに笑みを浮かべた。先ほどの子供じみた笑顔ではない、疲れを隠すための大人びた笑み。
それだけです、失礼しました。そういって準備室を出ていく、小柄な後ろ姿。
ドアは慌てたような後ろ手に大きく音を立てた。
完全に閉まっていない古いドアを見つめたまま、なにも言ってやれなかったな…と、それだけ、思った。

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【2015/06/06 09:10】 | そこは命のあるところ
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生物準備室のドアが開かないので、森橋先生はいないのかと思ったけれど、ドアのむこうにはひとの気配がある。
しばらくガタガタやっていると、ドアの下を蹴るように言われた。思いきり蹴ると、さびついたドアは岩の戸もかくやといった体で開く。
感じたままの感想を言うと、先生は笑って窘めた。第3校舎はそれでも、ありえないほど古い。

プリントを受け取り、準備室を出ようとすると、背中に声が投げられた。
「なんか質問があるって言ってなかったか?」

先生に、教えてほしいこと。僕が生きものとして赦されていい存在なのかどうか。
振り返ると、西日がまぶしいのか、先生はわずかに顔をしかめてこちらをじっと見ていた。

質問をした声は、自分のものではないようだった。
「……僕も、『生体』の定義に当てはまりますか?」
どこかから湧いてきた水のように、自然に流れ出す。溢れ出して止まらない。
先生の表情に当惑が浮かび、ようやくことばを止めた。こんなことを言われたところで、先生だって困るだろう。

「失礼しました」

軽く頭を下げて、慌てて準備室から飛び出した。ドアが完全に閉まっていなかったけれど、気にしないことにする。
プリントを抱えたまま廊下を歩く。ほんの少しだけ浮かんだ涙でぼやけた校舎は、西日を反射してきらきらと輝いて見えた。生きている僕より、無生物の校舎のほうが、ずっと命のある存在に思える。

僕はたしかにここにいるはずなのに、いつもいつもその実感が薄いのはなぜだろう。
みんなが寒い寒いと震えているなかで、自分ひとりが寒さを感じられないような。
足が止まる。脳裏に浮かんだ冷たい喩えに竦んで、しばらく廊下に立ちつくしていた。

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【お礼】
総拍手数が2000を超えました。
いつもありがとうございますっ☆⌒゜
そして相変わらず『愛はどこに…?』ですみません。

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【2015/06/07 08:39】 | そこは命のあるところ
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小太郎さんへ
砂凪
こんにちは、小太郎さん☆

1999!惜しかったですね(≧_≦)
拍手、つぎのキリ番は2222なのでがむばってください(笑)

視点の入れ替わりがある回と前回からの引き続きの回があります…。
一応『***』を目安にしてやってくださいませ。

出し惜しみしているわけじゃないんですが…なかなか辿り着きません……。
でもでも、今日のはほんのり『これから先』の予感がしませんか!?
しませんよね……(´・c_・`)


那須の小太郎
拍手2000を狙ってたら#7で1999だった( ゚∀゚)

奇数番目が先生で偶数が眞琴と覚えてたら
今回から奇数が眞琴視点だね!

LOVEは出し惜しみ位がいいのかもです(^.^)/~~~!

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ひとり暮らしのアパートに帰宅しても、辻本の質問の欠片が脳のどこかに引っかかってしまって取れやしない。
自分の命が、TBとしての生命が、『生体』の定義に当てはまるのかどうかと訊ねてきた。
理屈で言えば簡単に肯定できる。生まれてきて、命を続けている時点でTBであれ、クローンであれ『生体』だ。
でも、それでも。
理屈ではない、辻本が抱えている違和感。生きているような感覚がしない、と苦いものを吐き出すように口にしていた。

当人の自覚はないかもしれないが、相当に不安定な状態なのだろう。
無責任に下手なことを言わなくてよかった、と思う。同時に、どうしてやればいいのだろう、と考える。
彼に、自分が単なるアミノ酸の塊ではないのだと、どうやったら示してやれるのだろう。

TBでなくとも、ひとはときに求める。生きている証を、命の実感を。
答えは自分だけではどこにもない……、というのが俺の答えだ。
たとえば。
たとえば、だれにも自分を認識されず、自分もだれのことも認識できない世界で、それでもひとは自分の存在を強く信じられるだろうか。他者を鏡に、はじめてひとは自らを実感する。

整った顔を一瞬よぎった暗い影。助けて、なにも見えない、と訴えかけてくるような声。使い分けられる笑顔。
物事の道理がわかりすぎる、というのは、なにもわからなくなってしまうことと同義なのかもしれない。
ぼんやりとした色の天井を見上げる。心にそっと呼びかける。
―…辻本、どうやったら、俺はお前を救えるんだ?

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【2015/06/08 09:09】 | そこは命のあるところ
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Pearswordさんへ
砂凪
こんにちは、Pearswordさん!

まぁ、どうぞどうぞ。遠目なんてさびしいことをおっしゃらずに(笑)
でしゃばりだなんて思いませんよ。

根源的テーマ。
まだ《若ちゃびん》なわたしの答えは荒唐無稽で軽佻浮薄かもしれないんですが…。
一応、解答のようなものはこれから先の物語のなかにあります。
で、先生はちゃんと言います。
気になっちゃいますですか!?うひょーう、気にしておいてくださいっ☆

10作以上かれこれ書いてきているのですよね。
ささ、境目!?…これが境目のお話になるんですか……。

わたしはネットでのんびり書ければそれでいいんですよー。
投稿するぞ!デビュー目指すぞ!とか思うとしんどくなっちゃいます。
事実、童話路線はそのせいで書けなくなりましたし。

Pearswordさんこそ、どこかで受賞できるといいですね♬
応援しておりますよ!
ではではっ☆

水差しコメント。
Pearsword
 水を差してしまいそうなので、遠間で見守っていようかと思ったのですが、出しゃばりな私はどうしてもコメントしてしまいます。
 この根源的テーマに対して、砂凪ちゃんは、どのような解答をあたえるのか、そして、先生にどのように言わしめるのか、とても先が気になる場面ですね。こういうのを面白いというのでしょう。
 砂凪ちゃんも、もう10作以上書いているのだから、創作の腕も上達しているに違いありません。僕が通った小説講座では、10作が境目だとか言われてました。
 ネット小説だけに留まるのは勿体ないので、次なる飛躍が望まれるところです。
 

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ため息をひとつ落とし、あしたのLHRの時間に昨年度末の全国統一模試の結果票を配るべく、職員室で受け取った紙袋を開く。
自分の鞄に移す前に、ふと気になって辻本の結果シートをめくった。
目を疑う。全教科、全科目で満点をスコアしている。
TBの知能が優れているのは当然のことなのだが……。

頭のなかを、まだ短い教員生活のなかですれ違ったTBの生徒の顔がよぎっていく。
県内で片手の順位。それだけでも職員の間で話題になった。
人工生命といえども、努力なしに全国1位にはなれない。

TBに与えられるのは、取り込まれた《1》を《100》にしてしまう能力だ。
関数的に、かけられる数…つまりはx軸の努力数値が高ければ高いほど、y軸に結果数値が出るのは道理だ。

とんでもない数値を叩きだした辻本がしているのは、並々ならぬ努力。それがどこに向かうものなのかがなんとなく気になって、きのうとったばかりの進路希望アンケートを手に取った。
50音順に並んだA4サイズの用紙。ぱらぱらと捲っていく。

辻本眞琴、ときれいな文字で記された紙には備考欄にただ一言、『特になにも望みません』と記入されていた。
うすら寒さに襲われる。救おうにも助けようにも、辻本の見ている世界を俺は想像できなかった。
辻本、ともう一度疲れたような笑顔を思い浮かべる。

―…お前はどこにいて、なにを見ているんだ?

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【2015/06/09 08:46】 | そこは命のあるところ
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政経と英語の予習復習を終えると日付が変わっていた。さすがにもう眠ったほうがいい、と判断し布団にもぐりこんだ。
気候はまだ不安定で、急に初夏の陽気になったり、きょうのように冷え込んだりする。

目を閉じると、森橋先生の当惑した顔が浮かんできた。
僕がTBであることを知っていることは否定されなかった。
それでも、意思とは無関係に零れ落ちたTBであるが故の黒を纏ったことばに、なにも返されなかった。
なにも返しようがないだろう。

どうして。
どうして、あんなことを言ってしまったのだろう。
―……「あまり、生きているような感じがしないんです」

まるで幼いこどもが、自分のほうを向いてほしくて言うような台詞。心配してほしくて、気にかけて構ってほしくて口にするような音の羅列。
……たとえそれが本心でも、あまりにも幼稚で稚拙だ。

だれともかかわらず、だれにも立ち入らせず、そうして生きていく。厄介事も面倒も、そうすれば降りかかってこないから。

それとも、と思う。
それとも。
幼稚で稚拙な僕は、森橋先生に心配してほしいのだろうか。気にかけてもらいたいのだろうか。
笑った。一瞬でもそう思った自分が馬鹿らしく思えて、惨めで、寝返りを打った。

だれも僕を心配しない。
だれも僕を振り向かない。
どこからも繋がらず、どこへも繋がっていかない……僕が、TBで同性愛者だから。
それでいい、仕方ない。惨めだけれど、それでいい。

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【2015/06/10 08:58】 | そこは命のあるところ
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