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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
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神谷くんの背中を必死に追いかける。
とても都会とは呼べない町でも、夜の繁華街はそれなりの人出だ。金曜日だから、尚のこと。
きらきらしたネオン、賑やかな声々。
不意に人混みに背中を見失い、一瞬途方に暮れる。手を掴まれて「こっち」と言われる。
裏通りを歩く。神谷くんが急ぎ足のまま、言う。

「足元、気をつけろよ。ビールケースとか台車とかあるから」
「……うん」

次々に角を曲がりながら掴まれた右手がそのままになっている。なぜだか、すごくどきどきした。
変だ。手のひら越しに、原因不明の動悸が伝わっていたらどうしよう。なんでこんなにどきどきするんだろう。
僕がぐるぐるしている間に、目的地に着いたらしい。「ここが裏口。『ネージュ』っていうジャズクラブだよ」。
神谷くんは月明かりだけが照らす仄暗いなか、指差したドアをそっと開けた。僕を通し、扉を閉める。

「由果姉さん!」
神谷くんが呼んだ。奥から髪のきれいな女のひとが出てきた。
「こいつ、前に話してた、友達」
神谷くんが僕の知らないところで僕の話をしていた。すこし嬉しい。
「こんばんは、ピアノ担当の成田由果です。いらっしゃい」
由果さんはうたうように挨拶すると微笑んだ。
「岸本くん、よね?なにか飲み物はいる?ソフトドリンクの備え、あんまりないのだけど」
お構いなく、という僕を制した神谷くんは「ジンジャーエール、お前飲めるか?」と訊く。

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【2016/04/01 07:30】 | Painkiller
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ジンジャーエールは正直なところあまり好きではないのだけれど、曖昧に頷くと、神谷くんはわらった。
由果さんが「こっちよ、舞台袖」というのでついていくと緞帳が下がった埃のにおいのするスペースに連れて行かれた。

「マスター!岸本にジンジャーエール入れてやってくれ!」
神谷くんが舞台の下に叫んだ。
ややあって、黒ぶちの眼鏡をかけた穏やかそうな男性がやってきて僕に冷たいグラスを渡した。
「南友の友達だな?」
「え、あ、はい、そうです。岸本朋、です」

そうだ、神谷くんは南友という名前だった。新学期の自己紹介以来、ひさしぶりに聞いた響き。
野々宮と名乗った男性は、ゆっくりしていけよと微笑む。
ありがとうございます、と僕が頭を下げると由果さんの笑い声が弾けた。

「南友の親友と思えないほど、礼儀正しいのね」
「由果姉さん、どういう意味?」
神谷くんがわざとふてくされて会話を掻きまわす。
『親友』。神谷くんは否定しなかった。親しい、友達。僕にいままでなかった、もの。

そして。
ここはこんなにも温かい、と思った。
こんなに温かい場所が神谷くんにあったなんて、と。そして。神谷くんにとっては、家族のかわりにここがあるのだ、とも。

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【2016/04/02 07:30】 | Painkiller
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舞台がはねて、帰り道。岸本はいっそ不気味なほど黙っている。
大通りに出たところで、どうした?と尋ねると、微かにわらってことばが返ってきた。
「すごすぎて、なんて言ったらいいのかわからない」
しばらく考え込んでいたあと「無理にことばにするのなら、衝撃的?」と首をかしげる。

「ありがと」

俺が言うと岸本は、はにかむように言った。
「神谷くんのそういうとこ、すごいと思う」
「……え?」
当惑して訊ね返すと「お礼のことばがするっと言えるとこ」と静かな声で言われた。そうだろうか。

ぽつぽつ会話を交わしながらなんとなく俺の自宅の前まで、ふたりできてしまった。
「あがってく?」
ドアを指差して訊ねる。うん、と岸本がわらう。
「親には、友達のとこに泊まって帰るってメール入れておくから」というなり、携帯を取り出した。
割とフリーダムな家庭なのだろう。日頃の行いがいいからだろうか。

冬の風の中、岸本のメール送信を待ち、屋内に入る。足音が止まったので振り返ると、また、あの絵の前に立っていた。
そっと訊ねてくる。掠り傷にそっと触れるような声だった。
「もう、絵は描かないの?」
記憶の底から蘇ってくるのは、立ち返ってくるのは父親の声。

―……えらい絵なんて書かなくていいから。南友は南友の絵を書けばいい。

「また、絵、描けるようになるかな」
岸本は屈託のない笑顔で、答えた。もちろん、と。

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【2016/04/03 07:30】 | Painkiller
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神谷くんの部屋でぽつぽつ話していたのだけど、いつもならとうに眠っている時間なので眠くて仕方ない。
がんばれーと瞼に言い聞かせるものの、ついにかくんと頭が前に倒れた。
「ごめん」
ハッとして謝ると神谷くんは、時計を見上げ、あーそっかぁと言った。
「お前、眠いよな。寝ていいよ。俺、夜人間だから。気ぃ使えなくてごめん」
ここで無理に『起きてる』と言いはったら、少しだけ、神谷くんを傷つけてしまう気がした。
「あ、うん、じゃあそうする。ごめん」

横になろうと立ち上がったものの、さてどこで眠ろうか、と考えてしまった。
「どうした?」
「あの、僕はどこで寝たらいいのかな……と」
「あ、ふつうにベッドで寝てて。俺も一緒だけど。どっかに客用の布団はあると思うんだけど」

一瞬途切れた台詞のその先を言わせるのは酷だ。
僕は神谷くんに「お借りしまーす」と言ってベッドに潜る。枕がちがう、とかは気にならない性質なので、すこん、と眠りに落ちた。

神谷くんの「うわっ」という声で眼が醒めるまで、ほとんど一瞬だった。
自分の部屋でないところで眼が醒めたとき特有のぼんやりした感覚。
その感覚が薄れると同時に自分が両手と両足で神谷くんにしがみつくみたいに眠っていたことを知る。
至近距離に動揺しきった顔があり、手足を離すと同時につい口走っていた。

「ごめん!いつも白熊がいるから……」
「え?」
神谷くんが眼に疑問符を浮かべた。

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【2016/04/04 07:30】 | Painkiller
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ぶれこみさんへ
砂凪
こんばんは、ぶれこみさん。

えーっ!?ふつうじゃないですか!?
(砂凪の『ふつう』アベレージはぶっ壊れていますが)
ぬいぐるみっていうか、抱き枕ですね。あれを実は使ってるひとが結構いるみたいです。
わたしもでっかいリラックマの抱きぐるみをだっこして寝ています。29歳女です、岸本くんより痛いです。

あ、あと枕ネタでいくと。
最近枕をお高いものに新調したのですが、それ以来へんな夢ばかり見ます。
きのうはベランダに侵入してくる女を阻止しようと躍起になって、挙句のはてに首を絞められる夢。
起きたら、自分の肘から手首が思いっきり首のうえに載っていました。
なんか呪われてんのかなー(笑)

ではではまたーーー

白くま。
ぶれこみ
 こんにちは、砂凪ちゃん。

 そういえば、昔「勝手に白くま」という動物コミックがあったね。懐かしいなー。
 高校生男子で縫いぐるみ抱いている優等生って、どんなんよ。なんだか、岸本君の歪んだ性格が窺われる一節だな。
 家庭環境は割合正常なのにね、どこでどう間違ったのか……。その歪さが、岸本君の今後落ち行く精神倒錯的世界を予告している様で、なかなかの伏線の張り方だと思います。
 では、また。


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ほんの微かにその顔が笑いを浮かべているのを見て、自分を深く呪った。
3秒前に時間を戻したい。ばかだ。
墓穴を掘ったというか、もうその墓地に永遠に埋もりたい。
暖かい毛布のなか、神谷くんの顔を見ないで言った。たぶん、神谷くんには一番知られたくなかった、のに。

「白熊!僕はいつも白熊の抱き枕を使っています、わるいですか!」
「いや、それ全然聞いてないこと暴露してるよな。どうしたわけ?」

さきほどの動揺しきった顔は完全に笑い顔になっている。僕は寝返りを打って神谷くんに背を向ける。
「馬鹿だー……ひとに言っちゃったよー……」
わらう息が耳朶にかかったかと思うと、にじにじと近づいてきた神谷くんの腕が胴に回ってきた。

「いいな、俺も抱き枕とか使おっかな。俺、眠りが浅いんだよね。確かによく眠れるかもしれない。ちょっと実験していい?」

耳元で喋られて、ぞくっと寒気に似た感覚が背筋を這い上ってくる。
きもちいい、の一歩手前の感覚。
「神谷くん、あの、耳のとこで喋るのやめて」
自分の声が情けなく震えている。
これはまずい。なにがまずいのかわからないけど、まずい。
神谷くんを振り払おうとぐいぐいもがくと、余計にぎゅうぎゅう抱きしめられた。

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【2016/04/05 07:30】 | Painkiller
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小太郎さんへ
砂凪
こんにちはー。

よかったよかった。
最初から最後まで青春ドラマだったらどうしようかと思いました。

あ、ほんとですか?
わぁ、嬉しいです。
はじまりから終わりまで印象がぶれない作品しか書けていなかったので、今回はわざと途中で変化させることにチャレンジしているんですー。
予告編行きますと、神谷くんはこれからドン暗くなります。
これ以上は言えない(笑)

あと、しろくまくんで思い出したんですけど。
ガリガリ君が値あがるそうですね。一個800円。庶民の味方だったのに。

それではでは、またお越しくださいませませー☆彡

シロクマくん^_^v
那須の小太郎
Painkiller は、ずーっと青春ドラマのような
感じでしたがやっとBLっぽくなってきましたね!(^_^;)

初めは神谷くんは常に陽気で、岸本くんは常に真面目な秀才肌
だと思ってましたが徐々に印象が変わってきました(゜_゜)

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きょう、母の誕生日。
いつか、あなたが死んで。
真逆の『命日』っていうものも憶えて。
あなたは、どっちを、より強く憶えていてほしいだろう。

桜が咲くと必ず語る。
「わたしが生まれた日は、桜が満開だった」
そして続けて
「あなたが生まれた日は、空が信じられないくらい青かった」

わたしの命、は
あなたの命、に

庭の伸びた草木や、すこしずつ平均が暑くなる夏、なんかと
一緒に、「一緒」に、大きくなったわたしと。

お母さんへ。
あなたに褒められたかったから、いままで生きてきたんです。

同じ人間が二度死ぬことはできない。
だから、
あなたが生まれた日の桜が
あなたを忘れた世界で何度咲いても
面影は死にもしない、し 鮮やかに蘇りもしない。

いくら大事に抱えても、零してしまうものだから。
ないはずの笑顔は、やっぱり「ない」のです。

だけど。
わたしがこれから生きていくのも、あなたに褒められたいからです。

なんだかしんみりした世界は、
いちめんの花吹雪でした。

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このエントリにこのランクバナーってどうなの…。

【2016/04/05 20:28】 | つぶやきサボり。
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「やーだ、ちょっと実験させて」
岸本のことばを無視してしがみついてみた。
かたい骨のあるひとの身体なのに、なんだか安心する。
深呼吸をすると、実験用抱き枕がちいさく声を発した。「や」と「あ」のあいだみたいな声。やめて、と身を捩る。
想定外の反応にびっくりして、しがみついていた腕を放した。

「あー、驚いた…」
岸本の後ろ頭が言う。なにが?と問うと、しばらくのあいだ沈黙していた黒髪はぼそっと言った。
「いま一瞬、きもちいい、の手前までいった」
ことばを理解して噛み砕いて飲みこんだ。
悪戯心でもういちど耳朶に囁いた。

「手前、じゃなくて踏み込んでみる?」

当然、断固たる拒否が返ってくるものと思っていた。ところが岸本はほとんど囁くように、うん、と言った。
ばかみたいだ。ばかなロボットみたいで、かわいい。
抱き締めたまま、ぐいぐい髪に鼻を埋める。石鹸のにおいがした。耳朶に唇を這わせてみた。そのまま、首筋に移動すると岸本はばさばさと頭を振った。

「や、うそっ、やだ、さっきのうそ、ほんとうそだって、もうやだ、なんで」
上擦った声になんだか意地悪な気持ちになってくる。
「やめてあげない」
「や……、だって、ね、やめて」
「やめてあげなーい」

両腕に力を込めて、逃がさないようにしながら岸本の顔を覗いてみた。涙の膜が張った、とろんとした眼をしている。頬が真っ赤だ。くっつけてみると熱くなっている。
なにこれ。ほろほろと心のどこかでなにかが柔らかく崩れる。
このまま、と俺もばかなことを思った。いろいろしたら、こいつどうなるんだろう。
ほとんど抵抗しない岸本を仰向かせて、額と額をくっつけた。
「キスしていい?」
ぽかん、と半開きになった唇。自分の唇を重ねる。

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【2016/04/06 07:30】 | Painkiller
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神谷くんは触れるだけのキスを何度か繰り返した。僕の眼を覗きこんで言う。
「どう?」
「どう、って……キスしたんだなーって思う」
「小学生レベルの感想だなー」
「こういうの、偏差値はかったことないけど」
たぶん低いよ、と言おうと思ったけれど、また唇に塞がれた。

あ、ちがう感じになる、と思った。さっきとちがう温度と濃度のキス。
舌先が器用に口腔に入ってきて、歯列をなぞったかと思うと、上あごの内側をくすぐるように撫ぜた。
きもちいい。おなじことを神谷くんにもしてあげたくて、そろっと頭を動かす。途端に舌先をすくわれる。
顔の横で僕の手を握っている神谷くんの手に力がこもり、なぜかそれで彼もきもちいいのだ、と知った。

酸欠になりそうなくらいにキスをして、頭がぼうっとしてきたころ、唇が離れ、名を呼ばれた。
「なに?」
「お前、意外とエロいな。さっきから、腰揺れてて、自分の、俺の腹のへんで擦ってるのって無意識?」

ぼんやりと考えて、問いかけの意味に気がついて慌てて身体を離そうとしたけれど。
……神谷くんが覆いかぶさっている形なのでうまくいかない。
どうしよう、と思っていると不意にジーンズ越しにしなっているものを撫ぜられて、勝手に声が零れた。

「お前、このままじゃ苦しいだろ?責任取るから、触っていい?」
「責任?」
神谷くんになにかしら責任があっただろうか、と考え、『キスしていい?』と言ってきたのは彼だった、と思う。
返答に窮していると、ほら、ともう一度触れられた。
「どうしてもいやだったら、やめるけど」
「……いいよ」

どっちみち、ぜんぶ知れている。
『このまま』は無理だと判断した僕の返事に嬉しそうに笑うと、彼はすぐにジーンズの前をくつろげた。
それだけで結構な刺激で、蕩けるような疼くような感覚に、鼻にかかった声が漏れた。
やらしい、と呟いた神谷くんの声があからさまに興奮していた。
なんで、どうして僕になんか。途切れそうな疑問はすぐに神谷くんの手がくれる快感に消えた。

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【2016/04/07 07:30】 | Painkiller
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ぶれこみさんへ
砂凪
こんにちは、ぶれこみさん。

いま、「あ、これってラブシーンね」と思ったダメなひとです。
全然自分のなかでそういうふうに消化していなかったので、改めて指摘いただくと新鮮です!

妄想力の産物だと笑ってくださいな(笑)←自分で笑ってるし。

詳細を描くのはいつも抵抗があったりするのですが、今回は結構細かく書いちゃった感が(笑)←また笑ってるし。

あと、これクライマックスじゃなくってまだ二転三転あります。
長くなったなー…。
最後までは書いてあるので、連載中断、ということはないですよー。

コメント、ありがとうございました☆彡

ラブシーン、クライマックスに水を差すようだが点……。
ぶれこみ
 お疲れ様ですー。

 なかなかラブシーンが違和感なく語られていて、砂凪ちゃんのBL小説も堂に入って来たようですね。
 いろいろな自分では出来ないことを小説で表現するのは、自分のレベルアップにつながっていいことだと思うのだけど、よく考えてみたら同性愛もその範疇に入りますね。僕には、ついぞ書けそうにないけどね。
 このラブシーンはどこまで行くのか知らないけど、あまり詳細に書きすぎると、官能小説になりかねないので、そこは注意が必要かと思います。
 でも、結構うまく書けていると思います。ぼくも相変わらず、偉そうなことを書いていますけど……。
 
 では、頑張って最後まで書き上げてください。


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緩急をつけて全体を擦りあげたり、親指だけで出口を弄ったりしていると、すぐに濡れた音がしはじめた。
「ん……っ、ぁ、あっ」
ぎゅっと俺の肩を掴んでいる岸本の手が細かく震えている。
「きもちいい?」
答えのわかっている質問。でも、岸本がなんと答えるのか知りたかった。
「……じぶん、で……するの、とちがう、こわい」
「そりゃ、俺がやってるから」
「ん…でも、いい」
真っ赤な顔をあげてぼんやりと言う。
岸本の腰が揺れるタイミングと俺の指の動きが『合う』ときがあるらしく、高い声をあげて喘ぐ。

「あっ……あ、だめ、……いっちゃう、から、だめ」
「いまさらダメじゃないって。往生際悪いこと言ってないで、最後までいって」
熱を持った身体が突っ張ったかと思うと弛緩し、俺の手がとろりと濡れた。

岸本は、しばらくはぁはぁと息を弾ませながら、とろんとした眼で俺を見ていた。
口を開けばなにを言うかと思うと「神谷くん、すごくじょうずだね」と言う。
「……他のひとにもこういうの、するの?」
「するわけないだろ」
岸本は「よかったー」とわらう。
「はじめて?……すごい、最初から平均点以上、みたいな」
「褒められても、喜んでいいのかどうか正直わからないんだけど」
「だって、嘘みたいにきもちよかった」

ばかだ、とまた思った。ばかみたいで、かわいい。考えていることぜんぶ、口にせずにはいられないのか。
自分の手と岸本の身体を拭いてやる。身を起こすと岸本は「やばいー」と脚をじたじたさせた。
「なにが?」
「なんか、忘れられなかったらどうしよう。癖になりそう」
脳内回路だだ漏れの発言に返すことばがない。やっとのことで「忘れろよ」と切り捨てると、手が伸びてきて俺の髪に触れた。

「忘れない。それに何事もじょうずなのはいいことだよ」
どこまでもポジティブに、決然とわらいながら、岸本は言った。
「頑張って、学校では思い出さないようにするけど」

「アホか」と返したその瞬間に気がついた。時に圧倒的、時ににじわじわ侵食されるように、仕向けられていた。
ささやかな波が、それでも常識とか理屈でできた岸壁を削るように、すこしずつ。
認めるのは、怖くて甘美な感情。岸本のことが、俺は好きだ。ばかみたいに。
こんなのダメだ、と思うのに。ちゃんと痛いくらいにわかるのに。理屈も常識も、なんの役にも立たない。

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エントリが長くなってしまい、ごめんなさい。
区切りがつけられませんでした……。

【2016/04/08 07:30】 | Painkiller
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じゃあなー、と手を振る神谷くんに見送られて朝と昼のあいだの道を歩く。きのうの夜の冷え込みが嘘のように暖かい。
冬遠足の日もこんな天気だといいなぁと思い、極寒シゴキ行軍、とみんなに評される冬の遠足が来週に迫っていることを思い出した。
……なにか考えていないと、どうにかなりそうだった。

たったひと駅の道のりを電車に揺られながら、それでも僕は神谷くんのことを考える。
どうして、僕にキスしたり、触ったりしたのだろう。
さらに思い出す。きのうの夜、ぽつぽつ話していた途中に、神谷くんがぼそっとこう言った。

『この世にはさ。魔法も呪いもないから、せめて神様にはいてほしい』

僕はただ、頷くしかできなかった。神谷くんの孤独に素手で触れたようで怖かった。
ぼうっとしながら家に戻ると、リビングでなずなが勉強していた。歴史のノートから顔をあげ、にやにやわらった。
「おかえりー。生まれてはじめての朝帰りのご感想は?」
「……ただいま」
「いきなり帰ってこないから、お母さんなんか『ついに朋に彼女が…』って震えてたよ」
「怒りに?」
「ううん、わらいながら」

ため息をついて、冷蔵庫から牛乳を取り出してグラスに注いだ。
グラスを持ったまま自室にあがり、ベッドに座っている白熊を見た瞬間、今更のように動揺がこみあげてきた。
なにか別のことを、と考えている時点で意識している。
神谷くんがいくら上手だったとはいえ、同性に触れられてきもちいいなんて、どうかしている。
でも、なんの躊躇いもなく触れられたことが嬉しかった。……嬉しかった?なぜ?

立ち尽くしている鞄の中で携帯が震えた。神谷くんからのメールだった。
『家、着いた?』
『着いたよ。いろいろごめん。ありがとう』と自分でもよくわからない文面を返信する。
なにもなかったようにしばらくメールをやり取りし、なにもなかったのかもしれない、という結論に辿り着く。
その結論が錯覚であることには、気付いていたけれど。
心配で、気がかりで、気になって放っておけなくて、頼ってもらえて嬉しくて、傍にいられるのがしあわせで、それが『好き』という気持ちであることには、とうに気付いていたけれど。

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【2016/04/09 07:30】 | Painkiller
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