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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
間抜け面のまま、僕はこれまた間抜けな質問をする。
「心疾患って、ざっくり言うと、心臓の病気のことやんな」
「それ以外になにがあるんだよ。心臓の弁に問題があるとかで、ちいさいころから医者に運動控えるように言われてるから」
「マラソン大会も体育祭もあかんの?」
「……お前、俺がいま言ったこと聞いてた?」
ハリセンボンは冷ややかに言うと靴を履いて昇降口を抜け、イチイの樹のほうに歩いていく。

「イリ」
「なんだよ」
「きょうは、エイプリルフールやないで」
月田が顔をしかめた。
「俺、四月一日にも嘘つけない人間だから」
しゃあしゃあと嘘っぽいことを述べる月田だけれど、悪質な冗談を口にする奴ではない。

「心疾患って……入院せんでええの?っていうか、イリは死にそうなひとには見えへんで」
「医学の飛躍的進歩で、死にそうな人間でもそれなりに見た感じ、大丈夫にはなるらしい」
医学進歩の方向性の決定的なズレにささやかに疑問を感じないでもない。
けれど、月田がわらっているので気の毒だとかかわいそうだとか僕が感傷的になるのはお門違いで、月田への侮辱になると思った。

しばらく考えて、僕は言う。
「だから、イリにはみんながしょうもなーって思えんねんな」
「……は?」
僕は月田に笑いかける。
「本、ようけ読んどるみたいやし、頭ええのんは運動できんぶん、頭ががんばったんやな」
不意に、月田の顔が歪んだ。冷笑でもなく、親愛の情を示す笑顔でもなく、泣き出しそうな歪み方だった。
その表情の変化をすっと消した月田はいつもの淡々とした声でいう。

「籠城してたから」
「籠城?」
「急がなきゃ、急がなきゃ、みんなが死ぬまでにできること、悔しいから急いで全部やってやるって。こどものころ、病院のひとり部屋に籠城してずっと勉強してた」
いまでも、世間では充分に『こども』の域にいる月田は俯いた。
俯いた視線の先を辿った。名前を知らない花。

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【2016/06/01 07:30】 | irreplaceable/Holy you
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儚げに揺れる花を見ていた。月田が、病気。心の中でぐるぐると噛みしめた。ふと、思い当たる。
「せやから、素粒子論とか、わかるんやな。髪も染めとる」
「え?」
僕はわらう。夏の終わりの風が月田の髪を撫ぜる。
「イリが読んどたったんやん。素粒子の本。ここで」

とてもきれいに、月田もわらった。
仏頂面をほどけば、とても柔らかい顔立ちをしているということがわかった。
「心疾患とか籠城とか、暗っ!ってならないわけ?」
「ならんなぁ。そういえば、イリ、『みんなが死ぬまでに』ってあとなんぼ生きられるん?」
「すげえ直球で聞くなよ。まぁ二十五歳までがフィフティーだって言われてるから、わりと頑張ってるほうなんじゃないかと思うけど」
「うそやろ」
僕のことばに月田は顔をしかめた。
「こんなことで嘘ついてどうすんだよ」

僕にとって「死ぬ」というのは、時折思い出しては『あー、いつか僕も』という程度のものだ。
「結婚する」とか「お父さんになる」とか、そういったレベルの。その程度のものなのだ――ヒロミを、殺しておきながら。
月田にとって、死とはどういうものなのだろう。

目の前で黙っている顔を見上げた。月田は視線から逃げるように、イチイの樹に座った。
「……ほな、午後の授業に出えへんのも病院に行くためとかなん?」
「そうだよ。こっちに心臓外科の名医がいるとかで越してきたから」
「イリの生態の謎がだいぶ解けてきたわー…ただのサボりとちがうかってんな。いままで誤解しとったわ。かんにんなぁ」
「堀井」
イチイの樹に座ったまま、月田は僕を見上げた。光をすべて湛えたみたいな、きれいな色をしている眼で。
「お前、変わってるよな」

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【2016/06/02 07:30】 | irreplaceable/Holy you
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ヒロミは、二卵性双生児の妹だった。愛らしい顔立ちをしていた。
とても身体が弱く、やれ風邪をひいた、そら喘息だ、と両親はヒロミにかかりきりだった。

千尋とヒロミは半分こ。なんでも半分に分けた。
でも、お母さんの愛情はほんの少しだけ、ヒロミのほうが多くもらってる。
かわいくて、儚くて、天使みたいなヒロミちゃん。
これが極端な偏りかただったら。僕は、僕だって、あんなことを思わなかったのに。

―……ヒロミなんて、早く死ねばいいのに。

ヒロミが倒れたとき。母親は僕をきっと睨んでこう言った。
―……千尋、あんた、ヒロミちゃんになにかした?

なにか。なにかって、なに?なんにもしてない。
嘘。嘘だ。僕は繰り返し繰り返し、念じたじゃないか。
ヒロミなんていなくなってしまえばいい。そうしたら、お母さんの『ほんの少し』が僕に傾くかもしれない。ぜんぶ、もらえるかもしれない。ヒロミなんていなくなっちゃえ。
嘘だよ、大事な妹だから、早く元気になって。僕なら、なんにもいらないから、だから。
だけど、だけど、やっぱりヒロミなんて大嫌いだ。ほんとの気持ちはどれだろう……―

8歳の脳みそで渦巻く、ヒロミに対する混乱の中。それでもやはり、僕は祈った。
―……ヒロミなんて、早く死ねばいいのに。

昔、東京のおばあちゃんが言った。
ことばにはね、言霊って力があるの。だから、やたらなことを思ったり祈ったりしてはいけないよ。
だから。

だから、ヒロミが死んだのは、ぜんぶ僕のせい。
ヒロミは半分以上、母親の心を持っていってしまった。逝ってしまった。本当に。
――…でもだけどそれでも、どうして。

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【2016/06/03 07:30】 | irreplaceable/Holy you
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確かに、ヒロミの身体は弱かった。
けれど、医者は問題なく成長できると母親に言っていた。日常生活を送る上で、何ら支障はない、と。
「小児突然死症候群」。ヒロミのようなケースはそう呼ばれるらしい。
けれど、その病名も事実も何の救いにもならなかった。病名、事実にすぎなかった。
彼女のいない家のなかで、僕はだれにも後ろ指を指されることのない殺人を……。

はっと、極めて観念的な夢から目が醒めた。
ぶるりと這いのぼるような寒気がして、ぎゅっと布団の中でうずくまった。
先端からじわじわ凍えていくような足。ぐるっと胎児のように丸まる。
……ヒロミと一緒にとつきとおか、一番はじめに触れる水のなかで、こうして過ごしていたのだ。両膝を抱えて考える。

―……俺も、人殺しだから。
月田は《も》、と言ったのだ。
あの台詞が嘘でないのなら。月田は、だれに言霊をかけたのだろう。

小学生だったころ。
もちろん「ぶっ殺してやる」だのなんだの、物騒な台詞を吐きたがる同級生はいた。
でも、それはもちろんテレビや漫画の受け売りで、その心から流れ出したものではなかった。周囲の大人の反応をおもしろがっている節もあったように思う。

でも。僕は、僕の場合はちがっていた。
沸騰する感情が一瞬爆発した「死ねばいいのに」でさえなかった。
どこまでも冷たい水の底に沈む氷の石のような気持ちで延々と、おまじないのように思っていたのだ。『早く死ねばいいのに』と。

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【2016/06/04 07:30】 | irreplaceable/Holy you
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イチイの樹のまわりが秋の花々に彩られはじめた。
「一輪咲いても花は花」
うたうように月田が呟いた。きれいな声だった。

「イリ、むっちゃきれいなことば知っとるな」
すこし笑って、ごろっとイチイの樹の根元に寝そべった月田は、空に手を振って「おうい雲よ」と言った。
どうやら、まんざらでもないようだ。
「いくらなんでも、それは僕かて知っとるで。山村暮鳥の『空』やろ」
せえの、と僕が合図すると意外にも月田は乗ってきた。

「ゆうゆうと
馬鹿にのんきそうじゃないか
どこまでゆくんだ
ずっと岩城平のほうまでゆくんか」

僕の関西訛りと月田の標準語が溶け合って不思議な響きになった。高く響く声で月田がわらった。
「教科書、むっちゃ怖いな。忘れられへんで。プチ洗脳やん」
僕もわらいながら言う。

「雲、かぁ……」
月田の横顔が言った。「亜由美さんの赤ちゃんも、雲になったのかな」
一瞬、脳がフリーズした。ややあって、理解と共に解凍されたことばが飛び出す。
「は!?イリ、隠し子がおるん?知らんかったで、教えてくれな」

くしゃっと、月田の顔が歪んだ。
苦いものを思いきり飲み込んだみたいな顔。身を起こして、月田が信じられないことを言った。
「逆。生みだしたんじゃなくて、滅ぼしたの。隠し子じゃなくて、俺が殺した赤ん坊」
「……え?」
「言っただろ。俺、人殺しだから」

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【2016/06/05 07:30】 | irreplaceable/Holy you
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ぶれこみさんへ
砂凪
こんにちは、ぶれこみさん。

……そうですか。
うちの小学校の中庭には、サボテン(巨大)が植わっていました。
雪国大豪雪にもめげずに育っていたので、時代さえあっていればみんなから「ど根性」と呼ばれたかと(笑)
まぁ、サボテンじゃなかっただけ常識的だと思ってください。

言霊はほんとにあります。
っていうか、言霊がなければわたし、いろいろ困ったことになっていました。
例えば。
難易度高い試験前に大学のお手洗いで『わたしならできる…単位もらえる……』と呟いていたら、学科内一位の成績で試験パスしたり←変人。
例えば。
『やぎさんゆうびん』の歌をうたっていた日の夕方に、待っていた手紙がようやく届いたり。
偶然、で済まされちゃうかもしれませんが、わたしにとっては「言霊が引きよせたもの」で、わたしの言霊信仰は終わりません。

あと、罪悪感を覚える人って、多少なりとも心が欠けていることが多いです。
そういう意味でホリィはかわいそうな子です…。

イリのケースも似たり寄ったりですので、あまり共感していただけないかもしれません。
ごめんなさい。

コメントありがとうございました。


ぶれこみ
 一位ってどんな葉っぱだっけ、と林産学科卒の癖しておそろしい疑問を抱きつつ読んでます。とりあえずぐぐって画像を見て雰囲気をつかむ。そうか、こういう葉っぱだったか、こんな木校庭に生えている学校、珍しいぞ……(笑)。
 言霊で人を殺したという妄想を抱くのは、統合失調症的ですね。言葉がテレパシーのように伝わると思うから、殺したなどと思うのです。精神分析学の第一原則、思っていることは相手には伝わらない。そういう意味で、千尋は精神疾患を持っているのかもしれないですね。強迫観念症のひとつ、祈念恐怖に似ていますね。
 対する、月田の殺人とはどんなものなのか、少々興味がわきます。この謎のかけ方がストーリーをぐっと引き立てていますね、面白いです。
 引き続き読ませていただきます。


 



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月田は静かに語った。
亜由美さんというのは、月田の義理のお母さん。月田が5歳のときの、父親の再婚相手。
義母に赤ん坊ができたと判明したのは、月田が7歳のとき。
普段の話し声とはかけ離れた、弱々しい声で語る、月田の横顔を黙って見ていた。7歳の、途方に暮れている月田が、まだ月田のなかで生きている。

「それで、俺、思ったんだよ。父さんが亜由美さんと結婚したのは、心臓弱い俺のかわりのこどもが欲しかったからなんじゃないかって」
「それは」
ちゃうで、という否定は月田の静かな声に阻まれた。
「堀井」
「なに?」
「大好きだったひとを大嫌いになるって、すげえ苦しいな」
「……うん」
頷いた僕に、月田は丁寧にことばを探しながら語った。

「俺、亜由美さんのこと、大好きだった。生まれてくる赤ん坊のことも、きっと大好きになれた。けど、父さんが俺のかわりのこどもがほしかったんだ…って思った瞬間、亜由美さんのことも赤ん坊のことも……憎くて、そう……憎くて」
「うん」
「赤ん坊さえいなければ、亜由美さんも父さんもまた、俺を見てくれるんじゃないかって、思って……生まれてこなければいいのに、って思って、そしたら、赤ちゃん、ダメになってさ」
7歳のとき。月田はまだ生まれていない命に言霊をかけた。

「堀井が妹をどうして殺したのかは知らないけど、俺よりよっぽどましだよ」
「そんなこと……」
ない、とだれが言えるだろうか。なにをどう言ったら、月田は楽になれるのだろうか。
「イリ」
「なんだよ」
「僕ら、あとなんぼ生きたら、生きるのに充分なことを知るんやろな。許すことと許されることができるようになるんやろな」

月田はしばらく黙った。
イリ、と僕は呼んだ。
こちらを向いた眼差しが、すこし疲れて見えた。
「そうだなぁ……、俺、きっとほかのやつより、なんにも知らないで死ぬんだろな」
「病気、治ったら、イリもきっと大丈夫やで」
「堀井は優しいな」
「僕、優しないで」
なにも言わずに月田はわらった。それから、また空を見て「おうい、雲よ」と手を振った。

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【2016/06/06 07:30】 | irreplaceable/Holy you
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日常ウツ日記に中傷コメントを立てつづけに5件頂戴し、「なんだよもー…」とそちらを閉鎖し三か月。
いろいろ「もう大丈夫かな」というのもあったので閉鎖を選んだわけですが。
(しっかし、拍手鍵コメで嫌がらせってどうなんですかねーまったく…/笑)
ちょっと早めに対応したほうがよくね?という事象が発生、以下愚痴です。

◇ ◇ ◇

自信はないくせに歪んだ矜持だけはある、という自分の性格はわかっています。
それゆえに、周囲には「大丈夫だよー」とわらってしまう傾向も理解しているつもりです。
ちょっとまえ、「ここで働いててもこの先不安」な職場をやめ、現在大絶惨、無職で職安通いの我が身を省みるに。
この性質ゆえの、孤立無援、四面楚歌、with no help、ということばが心に浮かんではあてもなく消え。
不安だよーーーーー!と泣き叫びたくなります(笑)←いや笑いごとじゃないんですよ。
だって自信ないし。だって当てもないし。だって三十路片足状態だし。
まるで、手のひらの上に毎日、実態を伴った『不安』がある感覚。

でも、許さない。たぶん、どう頑張ったって無理。
不安だということの片鱗をみせることを、わたしがわたしに許さないし、そもそもできない。
弱音を吐いたり、自分の弱みをさらしたり、ましてや声の届くだれかに助けを求めるなんて、プライド高くてできません。
いや……、歪んでるんですよ、わかってるんですよ、でももうこの歳だと性格変えろとか無茶なんですよ。
それこそ、お仕事見つけることのほうが簡単なんじゃないかと。

毎日、「こんなはずじゃなかった」自分と面つきあわせて考え込んでいると、限りなくブラックに近いブルーになってきます。
こんなはずじゃなかった。
そう、《いまのわたし》は存在しなかったんです。
高校生のときの『人生設計図』(家庭科でやった)にも、大学生のころの『将来設計』にも。
《いまのわたし》の存在自体が想定外のハプニングで。
ビョーキのことも、入院のことも、その他もろもろも。

そして。
自信はないくせに歪んだ矜持だけはあるわたしは、『あれにならなきゃ!』と届かない『理想のわたし』の虚像を茫然と見ています。
届かないとわかっているなら、眼を覚ましてここから歩きださなきゃいけないこと。
叶わないとわかっているなら、理想じゃなくて現実を生きなきゃいけないこと。
いま、が現実であること。
ぜんぶ、理解はしています。
でも、頭が理解していることの全部を、心で納得できるわけでもないんです。

自分でいうのもなんですが、「たられば」ですが。
ビョーキにさえならなければ人並みにはうまくやれていた、んです。
そこに未練を残している自分も嫌ですし、10年まえの挫折からいまだに立ち直っていない弱さにもうんざりします。
でも。
「しっかり」したかったんだよ、「ちゃんと」なりたかったんだよ、人並みのしあわせを望めるくらいには。
ビョーキにも、そこから派生する社会的に不安定すぎる立場にも、なりたくてなったわけじゃないんです。

自分で描いた虚像のなかで、自分ひとりで苦しんでいる。
まるで、出来損ないのひとり芝居の舞台のうえみたいに。
しんどいな、つらいな、だれか助けにこないかな。

だれも、きっと本当の意味ではわたしを助けられない。
わたしのために頑張れるのは、わたししかいないんだから。
頑張れ、なけなしのしっかりで『しっかり』するんだ、わたし。

ひとりでも向かい風に耐えうる力とぐらつかない地面がほしいなぁ……とつくづく思うきょうこの頃です。

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日常更新もちゃんとしておりますゆえー。

【2016/06/06 16:57】 | つぶやきサボり。
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僕が月田にヒロミのことを話したのは、イチイの樹に秋の名残りの光が踊る放課後だった。
「それでも、ヒロミのことがある程度、しゃーない思えるようになってんな。それから……それでも『ヒロミちゃんが生きとったらなぁ』って、かーちゃんはそればっかりや」
「堀井」
「んー?」
「ひどいこと、言われたな」

月田のほうをぽかん、と見る。
僕が、ひどいことを言われた?
ヒロミにひどいことを思い続け、その結果としてかけがえのない妹を失った僕。
なにを言われても、それを『ひどい』と糾弾する権利はない。

「それに、妹が死んだのは、お前のせいじゃないだろ」
「それを言うたら、イリかてそうやんか」
月田は、そうだなぁ…と木漏れ日を見上げた。
「俺ら、いくら他人に否定してもらっても、ダメだよな。外部がなんつったって自分で自分にかける罪状は軽くはならないよな」
「僕ら、そしたら共犯者みたいやな」
「あぁ」
月田の後悔。僕の懺悔。同じ形をしている。直接手を下さなかったぶん、自分で自分を責めるしかない、罪の色。

「困ったなぁ」
月田が心底困り果てた声で言うので「なにが?」と返す。
「堀井のこと、すっげえかけがえのない奴、みたいに思えてきた」
「困らんやん。僕かて、イリがようおらんかったら、こんな話してへんで」

罪のむこうに互いに透かし見る。おなじような痛みと罪を抱えた、かけがえのない共犯者。

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【2016/06/07 07:30】 | irreplaceable/Holy you
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小太郎さんへ
砂凪
こんにちは、小太郎さん。

その通りですねー。
でも、ことばを使わないと意志伝達できない生きものですからね…人間。
すくなくとも、他者を傷つけるためのことばを故意に口にすることがないように祈ります。

生きているって悲しいね、となにかの曲の歌詞にあった気がして。
そして、それに激しく共感したわたしがいたと記憶しています(暗い)
イリにもホリィにも感情移入してくださってありがとうございます。
心の呪縛が解かれるのかな……。
いまワードに入ってるあれはそういう終わりかたなのかな…(思わせぶり)

コメントありがとうございました☆彡
梅雨時、お身体ご自愛くださいねー。


那須の小太郎
言葉って、お守りにもなるし防具にもなるし
凶器にもなるね!なんか怖いね言葉って(゜-゜)

死んでしまった子よりも生きている人のほうが哀れだし悲しい(;_;
お話とはいえ、月田くんと堀井くんの
心の呪縛が解かれることを願って読んでます(。・_・。)

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「なぁなぁなぁ、ホリィ!」
イチイの樹の下に向かおうとしたところ、またしても昇降口で中尾につかまった。
僕の逃亡阻止のためにシャツの背中をぎゅうぎゅう握っている同級生は、好奇心で眼がきらきらしている。
いやだ。嫌な予感しかしないし、面倒くさいことこの上ない。
うんざりした僕は《うんざり》を隠そうともせず「用件は30字以内で簡潔に述べよ」と言った。僕の態度にめげる様子もなく、中尾はいう。

「月田とホリィがただならぬ仲やいうんは、ほんまか?」
「ただならぬ仲、ってなんや。イリは」

言いかけて口ごもった。月田は……僕にとって、とても不思議な場所にいる。
クラスメイト、と呼んでしまうには軽すぎて、親友と呼ぶのもしっくりこない。共犯者で似たような秘密の保有者。
それを説明するのは気が引けた。

中尾が得意げに言う。
「ほーら、月田のこと、名前で呼ぶやろ。ホリィ、だれのこともあだ名で呼ばへんくせに」
「だーかーら、それがなんや」
「ホリィと月田が付きおうとる、って噂やで。体育館裏でいちゃいちゃしとるって」
ため息をついた。
「最悪やな、その噂」
「当たっとるから?」
「見当はずれも甚だしいからやてー」
せいぜい仲良うせえよー、という中尾の声を背に受けて、イチイの樹を見た。

僕だけが知る、月田の秘密。月田だけが掴んでいる、僕の秘密。イチイの樹だけが知っている真実の花の色。

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【2016/06/08 07:30】 | irreplaceable/Holy you
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「うっわぁ……」
報告の義務責任を感じて、噂のことを話すと、月田は露骨に顔をしかめた。
「責任はぜんぶイリにあんねんで?あれだけ言うたのにみんなと仲良うせえへんから」
僕が言うと月田はくらりと表情を変え、至極淡々と「堀井のいう『みんな』がどうしようとどう思おうと、俺は別にかまわない」と言った。信じられない。

「嫌や思わへんの?最悪やん、誤解といとこうや。これからの人生が台無しになる」
「めんどくせー、それに俺って人生使い切りかけてるわけだしさ」
「面倒くさいとか、もう信じられへんわ。それに、全然冗談じゃないジョーク言うの、やめてくれへん?」
「馬鹿には馬鹿言わせておけばいいだろ。つうか、ここで変に否定したら逆に怪しいとか思われるのがオチ」

月田は『みんな』のことになるといまだに毒ありハリセンボンになる。

「もう、イリの考えてること、ようわからんわ」
「人間、他人の考えていることなんて大概わからんもんだな」
月田のしゃあしゃあとした台詞に嘆いて放り出した足。その足元にコスモスが揺れていた。
「一輪咲いても花は花。イリが言うたん、よう覚えとるわ」
薄紅の花を指差すと、月田はそっとわらった。
「お前、日本語のセンスはあるよな」
「せやな。イリの声で聞くことばは、好きやで。むっちゃきれいや。ミミセンの授業より覚えられるわ」

穏やかな笑みを消し、月田は僕をじっと見た。
その色を、逸らしたり笑ったりしてはいけない気がして、僕はひさしぶりに他人の視線を真正面から受け止めた。

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【2016/06/09 07:30】 | irreplaceable/Holy you
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