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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
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草野心平という詩人が残した一篇の詩について、爽立は文学科に在籍していた穂呂に訊ねたのだという。
昔、小学校で習った印象的な詩のタイトルが思い出せないと。

――白い真ん中に、黒い丸が描いてある、詩っていうより絵のような……って。
――あぁ、その詩のことは、憶えてる。確か、『孤独』だっけ?
穂呂が優しくわらった。
――『孤独』じゃなくて、『冬眠』だよ。お前、あのときも言い張ったんだよ。これは『冬眠』じゃなくて『孤独』を表している、って。

恋人は言った。自分も爽立とおなじことを感じていたのだと。そのときに、それ以外のきっかけもなく不意に爽立を好きになったのだ、と。

――お前、他のことは譲るのに、あの黒丸については依怙地で。あぁ、さびしい奴なんだな、って。俺、女でも男でも、そういう眼をした奴に弱くてさ。放っておけないっていうか、心配っていうか、眼を離せないっていうか。傍にいてやりたい、って思っちゃうんだよな。
そう語る穂呂自身の笑顔の裏にある孤独のかたち、に気づける程度には爽立も大人だった。

でも。

穂呂のいないいまはもう、突如として心の中に現れた黒丸を消し飛ばしてくれる片割れはいない。
放っておかず、心配してくれて、眼を離さないでいてくれた温もりは、もうどこにもない。

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【2016/07/01 07:30】 | はちがつのかたち
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ぶれこみさんへ
砂凪
こんにちは、ぶれこみさん。
コメントありがとうございます。

陰性症状ってぶっちゃけウツと厭世感ですよね(よくわかっていません)
わたしも最近は、眠いだるいなにもしたくない、でなんにもできていません。
実はこの後のお話も考える気になれなくて、ただいま絶賛ストックゼロです。どうしよう……。

洗練というか、書けないものは書かない!という方針を定めて書いてみたところこうなった感で。
嫌悪感を覚えないというのは大事ですねー。

草野心平、ご存知ないですか!?
わたしの場合、小学校のころの担任の先生が前衛的な詩が好きな方だったので、学習指導要領はどこへ…という勢いで習いました。
社会の勉強も偏っていたなぁ……。
お陰で地歴公民オンチの女が生まれました。

回想シーンを描くのは得意です。
なにせ、わたしが齢29にして回顧主義ですからね。
もうどうしようもない。。。

どうぞどうぞ、続きをお読みくださいね。
ありがとございました。

こんぱんは。
ぶれこみ
 久しく陰性症状で沈没していました。エビリファイ処方で復活して、はちがつのかたち、ここまで取り敢えず読ませて戴いております。
 さなぎちゃんのBLも大分洗練されてきたようだね、嫌らしさや嫌悪感を殆んど感じさせずに、同性愛を美しく描く筆致は、相当の努力の結果のものと察せられ、ここに敬意を表します。
 草野心平という詩人は初めて知りましたが、「●」だけで冬眠という詩なのですね、前衛的で面白いと思いました。文字に絵画性を持たせるというのは、アンディーウォーフォールもびっくりなのでは無いでしょうか。
 でも、回想の中の二人の想い出は、とても美しく書き出されていました、今までの中でも、屈指の良さだと思います。
 また、続き読みます。

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『お別れの会』の帰り道。
馴染みのオーセンティックスタイルのショットバーの扉を開けると、来店客はゼロだった。
沈黙が静かに淀む店内の床を漠然と見つめ、この店の経営は本当に大丈夫なのだろうか、初老のバーテンダーの腕と知識は確かだけれど、といつもの疑問が脳裏をよぎる。

できれば、この店はできるだけ長く存続してほしい。穂呂が教えてくれた店だから。
想い出の場所。想い出を想い出と認識している時点で、穂呂を過去だととらえていることになってしまうのだろうか。もう、過去なのだろうか。

「神埼さん、お久しぶりですね」
アルバイトの大学生がわらう。
既に腰が曲がった年齢のマスターはなにかを察したようで、彼に「あがっていいよ」と穏やかな声で言った。
店主の手で炭酸水が飲み口まで注がれ、マドラーがくるりと回るグラスを爽立は眺めていた。
お客のいない店内の静寂を破ったのは、カウンターのなかから発せられた台詞だった。

「ひょっとして、きょうは穂呂くんの」
「ええ『お別れ会』で……でも、どうして」
「喪の色の服は、どんな黒より沈んだ色をしているからね」
爽立はひっそりと、静かにわらう。

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【2016/07/02 07:30】 | はちがつのかたち
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「沈むのは服だけにしておきますよ」
震える爽立の手のなかで、きれいな音を立てて氷が溶ける。
「それはまた」
「僕が悲しんだら、穂呂は戻ってこないような気がして。区切りをつけろ、10年も待った。そう言われるたびに10年まえから、一歩も動けていない自分に気づかされました」
「止まっていても動いているものだよ。生きてさえいればね」

ずらりと並ぶウイスキーの瓶に向き直ったマスターは腰を叩きながら爽立に背を向けた。
その背中に穂呂がかけた軽やかな声が蘇る。

――マスター、こいつこの歳になってウイスキー飲んだことがないんだって。はじめて飲む奴にお勧めのをワンショットください。

10年まえから彫刻のように少しもたたずまいの変わらないマスターは、初日に滞在した、たったの数時間で「君らは恋人同士だね」と書類に判を捺すように言った。
絶句する爽立と、微かにわらった穂呂を見て「よかったなぁ、穂呂くん」と相好を崩し、皺を深くした。

ぼんやりと回顧している時点で、次第に穂呂の不在を認めていく気がして、爽立はカウンターを離れて勘定をすませた。

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【2016/07/03 07:30】 | はちがつのかたち
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「雨が降るよ」
マスターに半ば無理やり傘を持たされた。
雨が降る前、必ず、むかし交通事故で痛めた膝が痛むらしい。

予言めいたことばどおりに帰り道、スクランブル交差点で音もたてずに降り出した雨に傘を広げる。
ショットバーの貸し傘はところどころに穴があいていて、爽立は偽物の星空みたいだ、と思った。
流星群を見に、穂呂と自転車で漕ぎだした記憶には、きっと上手に蓋ができた。蓋を開けたら、その底になにが淀んでいようとも。

傘を叩く雨音だけが爽立を包み込む。
だんだん激しくなり、白く煙る雨。傘を伝う。
どうして、と思う。
どうしてこんなにもたくさんのものが遠く手の届かない場所に行ってしまったのだろう。
そして、遠く過ぎ去ったものばかりがどうして、こんなに愛おしいのだろう。
どうして、神さまは、自分の大切なものばかりを奪っていくのだろう。

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【2016/07/04 07:30】 | はちがつのかたち
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これでよかったのだ、と時に妙に腑に落ちる。

穂呂の社交的で裏表のない、難点をあげるとすればオープン過多気味、オールウェルカムな性格のせいか、ふたりして必死に取り繕って隠し、後ろめたさや背徳感に苦しまずにすんだのだ。
穏やかに光を浴びるしあわせな短い時間は、陰に隠すしかない細く頼りない時間より、よほど価値がある、と。
時間の価値を勝手な天秤にかけている自分の都合のよさや、時間を切り貼りして無理に納得しようとしている歪みには、気付かないふりをした。天秤を傾けて観察するたびに、穂呂はもういないのだと、過ごした時間の重さを示す針が告げてくることにも。

時々、それでも喪失感に呻く。
欠落した心の穴に、ひょん、となにもかもが吸い込まれそうになる。
懐かしいともう思ってしまう声や笑顔、髪や肌の感触、穂呂だけが教えてくれた交歓の記憶が蘇るたびに内心で叫ばずにはいられなくなる。

――神さまの大ばかやろう。僕は。僕は、穂呂のことが死ぬほど大好きでした。

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ほんとにエントリの区切りが悪くてすみません。。。短い。。。

【2016/07/05 07:30】 | はちがつのかたち
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ときどき、感情を見失う。
なにが苦しいのかさえ判然としなくなる。
穂呂がいないことがつらい。単にそれだけではなくて、恋人と共に消えたものがあまりにもたくさんありすぎて、爽立は茫然と竦んでしまう。

たとえば。
穂呂がいたころ、なにげなく発していたことばたち。「おいしいね」「面白いね」「そう思うよね」。
聞き手がいることを前提としている文末表現の『ね』。
それを言えない孤独が、きれいなものを見ても何を食べてもひとりだという事実が、「お前はひとりぼっちでかわいそうだから」と不意に気を抜いた瞬間、爽立を抱き寄せようとする。悲しんでしまえ、泣いてしまえ、と言う。

確かに、すこしずつ心に埃が積もっていくみたいに、口にできなかった『ね』が自分のなかに溜まっていくのは、さびしくて苦しくてどうしようもない。
「そうだなぁ」と返される明るい声を探している自分も。

僕はもうだれかとなにかを共有することがないのだろう。そんなとき、爽立は漠然と思うのだ。
僕は『ね』とわらいかけることがないのだろう、もう二度と、だれにも。
けれど、二度と会えなくとも永遠に失ったとしてももう返事がなくとも二度と触れあえずとも、『ね』とわらいかけていた相手が穂呂でよかった、と思う。

穂呂が失踪したことを、いなくなったことを、『裏切られた』と思わなかった自分が、爽立はいちばん嬉しかった。

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【2016/07/06 07:30】 | はちがつのかたち
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『お別れの会』の翌日。
目を覚ますと、部屋はかすかに明るかった。いつのまに、こんなに長く眠れるようになったのだろう。
穂呂がいなくなって数カ月、病院に行って適切な処方薬をもらったほうがいいのだろうか、と真剣に検討する不眠に悩まされたのが嘘のように。

変わっていくこと、変わりたくないと願うこと、それでも変わってしまうこと。
止まっていても動いているものだよ、ということばが蘇り、感情や心、愛や時間というものに静かに失望した。
忘れないこと、忘れられないこと、忘れようとしないこと。
……どれが一番歪んでいて、どれが一番悲しいのだろう。

爽立は淡い空色のTシャツとジーンズに着替えると、歪んでいて悲しい自分のための《儀式》に出かける準備をする。
10年まえのこの日も、穂呂が理由もなく失踪していなくなった翌朝も、こんなふうによく晴れた日だった。

電車を乗り継ぎ30分。シネマコンプレックスの中心、銀色のオブジェの前に立つ。
ざわざわとした雑踏の音をBGMに、待ち合わせをしているらしき人々が、きょうも朝が来たことそのものを愛でるような顔で相手を探している。
穂呂、と小さな声で呼ぶ。
いないひとを呼ぶのにふさわしい、雑踏にまぎれて掻き消されるような音量。

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【2016/07/07 07:30】 | はちがつのかたち
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置き書きがあったら、亡骸が発見されていたら、悲報を耳にしていたら。
爽立はときどき考える。自分はこうしてここに来ることはあっただろうか。
巻き戻せるなら、会いたくて。やり直せるなら、会いたくて。答えはいつも「来ないだろうな」だけれど。

毎年、恋人がいなくなった日の翌日に、最後の待ち合わせ場所を訪れるようにしている理由が自分でもわからない。
未練なのか一途なのかもわからない。ひょっとしたら両者が同義なのかもしれない、とは思うけれど。

オブジェの前を離れる。10年まえにはあった書店は閉店し、いまはアパレルショップがいくつか入っている。
さらに歩を進めると、穂呂が最後に観た反戦映画を上映していた映画館。しばし、その前でぼうっと佇む。
穂呂、と呼ぶ。今年も会いにきたよ。

背後から思いきり背中をどつかれたのは、上映中映画のポスターにぼんやりと目をやっていたときだ。
「爽立!」
空耳だ、とまず思った。記憶だ、と次に思った。振り返るという選択肢はなかった。背中を叩いた手の感覚を、どれだけさがしていたとしても。
もういちど名を読んだ声は、おいおい、と言うと肩に手をかけたままくるっと回り、正面に立つ。
「……どうした?顔色わるいぞー」
ことばを、声を、完全に失っている爽立を見て。眼を見開いている表情を見て。
穂呂がわらった。あのころ、爽立が見ていた、光そのものみたいなわらいかただった。

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【2016/07/08 07:30】 | はちがつのかたち
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笑顔は心配そうな顔になって尋ねる。自分はどんな顔をしているのだろう。
「爽立、疲れたか?どした?幽霊でも見たみたいな顔して。わりいな、映画長かった。んで、予想してたのとちょっとちがってて居眠ってた。スタバ奢るから勘弁してくれ」
「え……?あ、うん」

27歳のときのままの姿で、あの日着ていた服を着て(失踪届にかいたので覚えている)、いなくなる直前に見たはずの映画のパンフレットを手にしている穂呂をぽかんと見上げた。
いやいやいやいや、「あ、うん」じゃないだろ僕。おかしいだろ、これ。どう考えてもありえないだろ、こんなの。
呆然自失状態の爽立に気づかず、穂呂は軽やかに言う。

「きのうお前が寝てからテレビ見てたら、新しいフレーバーが出たとかでさ、実は俺が行きたいの」

映画館の向かいのカフェにすたすたと歩み寄る背中を慌てて追う。
ショップの前の看板を見た穂呂は怪訝な顔をして「あれ?」と言った。
「CMでやってた新しい味の、ラズベリーじゃなくて、マンゴーだった気がするんだけど、気のせいかな」
やっと、声を見つけた爽立は震える声でばかみたいに言った。そろそろと口許に手のひらをやる。
「気のせい、じゃないと思うよ……」

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【2016/07/09 07:30】 | はちがつのかたち
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題名と装丁に惹かれて読んだのですが。
いままで読んだ数多の本のどれにも似ていない……。

無理やりカテゴライズすると『不気味メルヘンうわぁうわぁエンド』。
しかし、この本を読んでしまった後では『カテゴリ』、『概念』、『意識』、『思考』、『存在』という諸々がいかに怪しいか、不確かか、あるない論になってしまうものかを痛感するので、『カテゴライズしている自分』がちゃんちゃらおかしな『存在』にも思えます……(だからわりといいかげんなカテゴリ名)

めっぽう面白かったです。

どこに着地するのか、というわくわくで読んでいた、ら。
実在していない地面故、着地さえできない終わりかたでした。
まるでマトリョーシカの森に迷い込んだように、終盤は不安な気持ちでいっぱい。
(たぶん、おそらく、願わくばそうあってほしい感じで)実在している(はずの)著者、谷山浩子さんに「谷山さーん…」と呼びかけたくなる頼りなさ……(←褒めています)

意味を掴んだ、と思った次の瞬間にはさらさらとその『意味』自体がないんだよ、と告げられる感覚が繰り返され。
あんたの生きる世界はほんとにあるの?と何度も何度も突きつけられ。
ページをめくると奇天烈な展開が待っていて。

谷山さんのうたを聞くたびに覚える感覚そのものの本でした。

――……まいごのまいごの

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(最後の一行、ミスタイプじゃないです(笑)意図があります)

【2016/07/09 11:46】 | 読書感想文
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