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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
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かーんっ、と。思考停止を求めていた脳裡で、みじかく小気味よい音がした。
チタンのなべ底を玉じゃくしで思い切り叩いたような。実際の痛みを伴った衝撃だった。
きっと、そのくらいの衝撃がなければ、あるいはその覚醒が僕にもたらされることはなかっただろう。

気付いたとき、僕は部屋の壁に背中をつけて、短く呼吸していた。ベッドではこちらをむいた茅野さんが、驚いた顔をしている。

あたらしい事実に、目が醒めた。
世界を新しくめくったようだった。
ひとりだ、と思った。
どうしようもなく、途方もなく、僕はひとりだ。

その事実は、かなしくも、せつなくもなかった。寸分の痛みも伴わない、ただ、事実が事実だった。
あおむけた眼に、間接照明に照らされた天井がみえた。曖昧な色合い。
その色を見あげたまま、思う。孤独ではない、茅野さんがいるから。でも、ひとりだ。奈落の底にいたころも、いまも。

僕だけじゃない、と思う。みんなひとりきりだ。
ならば、と思う。糸や絆なんて、結びっこないじゃないか。漂流しているものが、お互いに出会うようなものだ。

僕は。僕は、いったいぜんたいなにを茅野さんとの暮らしに求めていたのだろう。
ぬくもり、やさしさ、いとおしさ。そんなものを求めるから、疲れるのだ。もう無理、と自分でわかるほどに。

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【2017/05/09 07:30】 | 世界の果ての暖炉で
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かすかに、口許から笑いが漏れた。茅野さんが名を呼ぶ声に、そっと視線を向けた。

「雨多、どうした?」
「大丈夫です。ただ、ちょっと寝惚けていて」

そう、寝惚けた僕は、夢を見ていた。この暮らしの、すくなくともその先のどこかに、温かいものがあるはずだと。
茅野さんがベッドから降りて歩みよってくる。ゆったりと抱きしめられて、頭のなかでその体温を心で感じるぬくもりに挿げ替えようとするけれど、できそうになかった。
覚醒は、それほど明瞭だった。

「ごめん、ごめんな、雨多。びっくりさせるつもりはなかったんだよ」
「うん、僕もすみません」

そう、謝らなければ。気がついてしまったのだから。茅野さんとの日々の先には、もうきっとなにもないのだと。

手を引かれ、ベッドに納まった僕は茅野さんを見あげる。
「……しなくていいんですか?」
「雨多」
窘めるように名を呼ばれる。もう寝なさい。先ほどまで、僕を求めていたはずの体温が去っていく。

気休めに過ぎない温度だとわかっていても、ぬくもりは存在し得なかったんだと眼前に叩きつけられたようで、それで、はじめて悲しかった。
悲しいと感じる気持ちも、いつか、こうして目が醒めているうちに失せていくのだろうか。

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【2017/05/10 07:30】 | 世界の果ての暖炉で
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薄氷の下にあったものは、まぎれもない『ひとり』だった。
落下地点があまりに意外で、僕は唖然とする。
ただ、ぽかんと現状を眺めているうちに、それしかできないうちに、あの夜に茅野さんの部屋を抜け出すすべを僕から奪った雪がきれいに溶けた。

街灯ひとつ灯った、ひとけのない薄暗いなかを、ふたりで並んで歩いていた。近所のレストランで食事をした後だった。
あのころにはありえなかった、外食。
……まだ、僕は『あのころ』としか思えない。茅野さんの暴力。思い出さないために『あのころ』と思うだけで。

俯いてあるいていると、ふっと気づく。茅野さんの姿が隣にない。
振り返ると、ひとつ後ろの街灯のしたでうわんと影をひろげた茅野さんが、こちらをみていた。
奇妙にゆがんだ影は茅野さんのものなのに、自分の姿をみている気がした。
駆け戻ろうとした足が止まる。どうして。どうして、僕は。
そこで思考は停止する。僕は、なんだろう。

「雨多」
暗闇のなかで奇妙な対峙を破ったのは、茅野さんの声だった。
しずかに、名前を呼ばれた。
「俺といるの、しんどいなぁ」
どうしよう、どうすればいい、なにを言えばいい。否定も肯定もできないのだ。

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【2017/05/11 07:30】 | 世界の果ての暖炉で
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「……ひとりはこわいですよ」
どうにか返したせりふはあまりに残酷で、ぐらっと足元が揺れた、そんな気がした。
茅野さんがしぼりだすような声でいった。怯えているように、慄いているように。
「……まだ、俺はお前の傍にいてもいいのか?あんなにつらい思いをさせて、なにひとつ償えなくて、それでも、まだ」

やっと、足が動く。
街灯の間の距離が長い、ひとつぶんほどしかなかったのに、のったりとした液状のなかを走るようだった。
ようようコートをつかむ。顔をのぞき込むと、彫像になったように動かない茅野さんは、途方にくれた眼をしていた。
はじめて見る眼だった。このひとにずっと、こんな眼をさせていたのは、僕だ。ごまかして、覆い隠して、『あのころ』としか思えなくて。どこかで、怯えつづけて。

「茅野さんが、くれたのは」

ちいさな声で、ことばを探る。
過不足なく、偽りなく、誇張なく、心を伝えるために。なにも言えず、言わず、後悔の海にいた、このひとのために。
「僕に、くれたのは、マイナスとかネガティブとかだけじゃありません。つらいこともあるのは、そう、なんですけど。でも、それだけじゃなくて」

雨多、いったいぜんたい、お前はどこでなにを学んできたんだ?あの声が、またきこえた。

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【2017/05/12 07:30】 | 世界の果ての暖炉で
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漂流しあうひとりとひとりが、絆や想いさえ結べないのであっても。
このひとの傍にいたのは誰なんだ?
……このひとの傍に、光をみつけることをやめてしまったのは。あるいは、あたたかな椅子をさがすことをやめてしまったのは。

茅野さんだって、ひとりだった。
筏にしがみついたそのもう片方の手を、僕にむかって差し出している。それを絆ではないとどうして、だれが、言い切れるのだろう。……僕は、なんと傲慢だったのだろう。

「隣にいたいと思う気持ちを、僕にくれたのは、はじめてくれたのは、茅野さんで」

そうだ、雪が溶けたのだ。もうどこにでも行ける僕は、茅野さんの部屋を選んだ。安寧じゃない、怠慢でも、狡さでもなく。

「だから、間に合うから。僕の『これから』は、ちゃんとぜんぶ、ぜんぶここにあります……茅野さんのとなりに」

間に合う保証などなにひとつない。
もう、とうに手遅れなのかもしれない。僕は、そして茅野さんも、すっかり遅いのかもしれない。
それでも、信じていたくて僕は言う。信じて、いさせてほしくて。

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【2017/05/13 07:30】 | 世界の果ての暖炉で
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まだ、大丈夫だろうか。
灯りは熾火を残しているだろうか。
あたたかな暖炉に新たに薪をくべたなら、光は放たれるのだろうか。

だいじょうぶ、と。僕は自分に噛んで含めるように、いう。
苦いコーヒーを飲んだ後の酸味だけがあの部屋にあるのだとしても。わらうことはできる。また、新しくコーヒーを淹れなおして。

「雨多」

抱きすくめられた。
ここが、居場所だ。
たとえ、僕はここだと大声で叫べなくとも。過去がどんなに纏わりついても。
茅野さんを抱き返した。ひとりじゃない、と伝える代わりに。
呼びたい名前も、呼んでくれる声も、おたがいがひとつきりだと信じられるなら。

茅野さんの心音を聴きながら、街灯がひとりとひとりの影を優しくつないでいるのをみていた。

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【2017/05/14 07:30】 | 世界の果ての暖炉で
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鍵コメのMさまへ
砂凪
こんにちは、ご訪問ありがとうございます!
aquarium管理人の砂凪です(*^U^*)

ふしぎ、というワード…たいへんにうれしいです。ありがとうございます。
これはとくに『変な設定』のお話でもないので、とりわけ。
やったー!
ふわふわしているのも、どこかで足掛かりをみつけみつけしてなんとかやっているのも、わたしです。
だからそんな日常がおはなしに反映されているのかもしれません。

雨多の歪みも書きたかったので、リクエストいただいた後日譚ではがんばったです(o`^´)

愛と暴力。似たようなことをわたしも思います。
その前では言語が非力だという点でも似ていますよね。

>身体と心はいたわってあげてくださいね。
ありがとうございます(*- -)(*_ _)
その通りですね。
すこし元気になるまで長編は書けないとおもうのですが、掌編をぽつぽつ書いていこうと思います。

いつでもお待ちしております!
コメント、ほんとうにありがとうございました(*´▽`*)ノ

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こんにちは、砂凪です。
みなさん、お元気にされていますか?
気候変動にも負けず、突然の雷雨にも負けず、萌えを求めて(中略)そういうひとにわたしたちはなりたい……んですよね!

『暖炉』おわりました。
もうね、2年くらい煩悶しつづける雨多を描きたかったのですが。
たぶんわたしにしか需要のない作品になってしまい(笑)二年ぶんくらいざっくり削除しました。
ええ、文字数にして5000くらい?
deleteキーを押すのって、あんなに指ががくがくするんですね……。
『これ消すの?一瞬で消えるの?書くのに3日かかったのに…』(by:指)みたいな。
でもザクザク消していくのがちょっと楽だったりしました。
自分の記憶やいやだったことも一緒に消えてくみたいで。
むろん、錯覚に過ぎないのではありますが。

さて、みなさんに「お元気ですか」とお尋ねしたわたしは、さくっとびょーきです。
ちょっと持病のウツが五月病を呼んでくださって。
にくきもの。よんでもないのにきちゃう、まろうど。
やる気おきない、全身倦怠感がだらだら、空白の時間が重い。
脳みそもお約束というかなんというかマルファンクションでして、つらーーーい!です。はい。
ともすると「THE☆どうでもいいにんげん、わたし」といいだします。
理性と知性(あるのか…!?)のほうで「どうでもいいことないねんで」とぎゅうぎゅう抱きしめてあげないといけない始末。
仕事はなんとかこなせるのでまだいいのですが(食い扶持を失うわけにはいかねえ…)

というわけで、脳みそがお話をつくるくらい働いてくれるまで。
また、わたしが元気になるまで。
開館休業みたいになりますが…申し訳ないです、ことしに入ってこんなことばっかりですね~。

ほんとに。
みなさま、心はお大事に~~~……。
またぴかぴか元気(ってなんだよ)になって戻ってきます!
それまでのあいだ、すこしのあいだ、さようならです。

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【2017/05/15 09:41】 | お知らせなど。
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