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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
君もいつか死んでしまうことから
どうやったら僕をまもれるのかな
誓えることなんてなにもないから

やさしい時間のおわり
ふたりの日々のさいご
僕は君になにをいおう
泣かずにいられるかな

君は庭で光に手を伸ばす
空のちかくにいかないで
ねぇ たったそれだけで

君がいつか消えていくことから
どうやって僕をまもればいいだろう
約束なんてなにもないから

未開封の君を
僕がひとりで生きる時間のぶんだけ残して逝ってね
まいにち君の名残につつまれて
過去があるから未来を生きるの

君がいつか死んでしまうことから
記憶で僕をまもればいいんだ
君以外の安心はいらないよ
誓えることはなにもないけど

そばにいさせてください
ここにいさせてください
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【2017/06/09 10:03】 | 詩人ごっこ
|
【きらきらぼし】

きん、と音がする。きんきん、と繰り返し。一定のリズムをもったそれは、澄(すみ)の記憶のなかであたたかい。

かばんの中でメロディが鳴った。さっとこちらに視線が集中する。
けっこうな乗車率の私鉄車内、気まずい思いをしつつ、澄はスマホを取り出し、マナーモードに設定してからメッセージを確認する。
『仮免とれたー!宴を開いてくれ!』
文字越しに伝わってくるはしゃぎように澄は微笑んだ。返信する。
『じゃあ、きょううちで。』
返信の返信、はスタンプひとつ。ばたばたと身支度をはじめているにちがいない恋人のようすを思い浮かべ、おはじきをばらまいてピンクやオレンジでてんでに色付けしたような夕方の空の雲を眺めた。

インタフォンが音を鳴らしたのは午後8時、誉志(ほし)が画面越しにひらひら手をそよがせている。
二重ロックを解錠し招き入れると、感に堪えないようすでいう。
「やったー!もう、運動神経ぜんぶ死んでるからぜったいむりだと思ってたー」
狭い上り口でこまかく足を鳴らしていたかとおもうと、急に神妙な声を出した。
「その節は、さんざんご迷惑を……」
『その節』。つまりは誉志が指導教官に対する愚痴、前途への不安、弱音エトセトラを真夜中に電話で縷々述べた、ことを指しているのだろう。
「いいって。それに、僕にとれるくらいだから誉志だってもともとだいじょうぶだったんだよ」
車なんて大嫌いだった。心底憎んでいた。
けれど、澄たちが暮らす地方では必需品だったので、個人的な感情を抑えて大学一年の夏にはやばやと取得した。
……そのことを、記憶の音の主はどう思っているだろう。

もうすぐ満ちていく月を見あげながらコンビニに酒を買いに行き、出前のピザを頼み、だらだらと宴というよりはいつもの休日プラスアルファ出前、といった趣の夜は更けていく。

おもうさま抱き合ったあとでぼんやりした手のひらにむき出しの背中を撫ぜられている。
「ほんと澄のおかげ~……愛してるよ~……」
とろとろと誉志の声は耳に心地よい。さきほどまで澄を抱いて、せつなげに切迫していた声が完全に弛緩しきっている。
「だから僕でも大丈夫だったくらいだから平気だったんだって」
照れくさいので真に受けずに流すと、誉志の手が伸びてきて頬に触れる。
「お前でも大丈夫だったくらい、ってどういう意味?」
「車、きらいだから」
誉志はふしぎそうに言う。
「お前がはっきりきっぱり『きらい』っていうの、珍しいね」
「けど、車がなかったら、いまここでお前とこうしてないかな」
「それはぞっとしないな」
「3歳のころだよ、母さん……もう、顔も覚えてないけど……が、車の事故で、死んで」
傍らの恋人がかすかに身じろいだ。気がつかないふりで、続ける。
「だから、車はきらい。大嫌い」
「うん」
「……覚えているのが、家にあった子供用の鉄琴で母さんがきらきら星をおしえてくれたことで」
他者に話すのは、はじめてだった。心の引き出しの奥の、触れても消えない光。

―……すみ、ひいてごらん。
うしろから白くて指の長い手が、小さな手を包む。
きん、と音がする。きんきん、と繰り返される音は、メロディになる。
歌声。Twinkle. twinkle, little star...

するすると思いだすうちに、泣いていたらしい。誉志がぎゅっと抱きしめてくる。
「だから、たまたまお前の着信音がきらきらぼしで、お前の名前が『ほし』で、だいじな、なくならない記憶といっしょだから、だから男なのにってびっくりしたけど、お前がすきだよ」
もう、なにを言っているのかよくわからない。
誉志の持っているもののなかで、すきなものはもっとあるのに。
いまは、どうしても、どうしてか、その理由がこぼれてきらきらと部屋を満たしていく。
背中をあやすように撫ぜながらかすかに恋人はうたう。あの、しあわせなリビングに満ちていた、うた。
Twinkle, twinkle, little star, how I wonder what you are...
空に輝く宝石みたいな、手に触れられない、でも確かにみえるやさしさで。
いま聴いている声と記憶の声を重ねながら、澄は緩やかに意識を眠りに落としていった。

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【2017/06/11 15:21】 | お題SS。
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【フェイクワールド】

逃げることは、自分の居場所をひとつ潰すことだ。
そして、居場所はあっけなく潰れる。透明な緩衝材のように。はじめからなかったかのように。
よく、しっている。痛いほど、わかっている。
じゃあ、と紀也(きせ)は思う。最初からその『居場所』を壊れてもいいようなくだらないものにしておけばいいのだ。それこそ、ビニールでできたぺらぺらな緩衝材のように。
それが、開き直りにすぎないことも、ちゃんとわかっているけれど。

「別れようか」
紀也のまえで『居場所』だった女がいっそすがすがしくわらう。
「紀也は変わらない。わたしには変えられない。よくわかった」
「そう」
「だから、別れる。紀也のためじゃないよ、わたしのため」
「うん」
「紀也にどれだけぶつかってもむだだから、木っ端みじんになる前にサヨナラするね」
「じゃあ、とっととそこからいなくなれよ」
ひややかなまなざしとともに、むしろしずかに辛辣なことばを吐いた。女の顔が凍りつく。
「消えろ。うざい。もともとお前なんかいらねーよ」
カフェの椅子を蹴って立ち上がる。これ以上、わらう女をみるのが痛いから。
「変わりたいとおもって変われる人間なんてそうそういないんだよ」
捨て台詞はむしろ、紀也の胸にさっくりと刺さった。顔をしかめ、伝票をひっつかむ。

すこしだけ、たいせつだった。
すこしだけ、いとおしかった。
だから、潮時だったのだ。はじめからなかったものとして扱えるうちに、サヨナラできてせいせいだ。
そう思うのに、カフェから離れた歩道橋でどうしようもなく、どうしようもなく虚しくなる。
ぺらぺらなのは、俺だ。くだらないのも、壊れてもいいのも、俺だ。
紀也はくしゃくしゃに丸めたレシートを乱暴に歩道橋から放った。どうでもいいのも、俺だ。
歩道橋の後ろから小走りの足音がした。
紀也が、どこかでさがして、呼んで、心で呼んでいた、足音。
求めていた声がした。
「きせ」
ゆっくり振り返ると希(のぞむ)が肩のあたりで手をひらひらさせている。

「SNSってこわいよな、一瞬でお前の別れ話がオープンになってる」
「こわいのはお前だよ。まじで、なんでいつもいつもいつも、失恋直後に発見してくるわけ」
「なんでだろうね、ふしぎだな」
軽くわらった希が足を止める。振り返る。いつも、振り返ってしまう。
「失恋なんて、軽々しく言うな。失ったなんて思ってもいないくせに」
笑顔のままでいわれたことばは、頬を引っぱたかれるより痛かった。

―……そんなに逃げてばかりいたら、居場所がなくなっちゃうよ。
いつも、希のことばが忘れられない。
ほんとうに紀也を想っていることがわかったから。
くだらないにせもの(自分含む)ばかりの世界で、紀也にとって希だけがリアルだ。

「ここにいろよ」
枕のなかに埋められた声はくぐもっている。
した後のかすれた声を聞かれることを、希はいつまでたってもいやがる。
「ずっと、ここにいたらいいのに」
ふたりで存分に抱き合ったあと、希がいう。
「ずっとここにいたら、もう、失くすものも壊すものもないのに」
ゆっくり希の髪を撫ぜる。どうしてそうできないのか、自分でもわからないのだ。
なにか失くして、だれかを壊して、自分も傷んで。
そうしてはじめてもどるのだ。希のもとに、紀也にとって唯一のリアルないとおしさやたいせつさのもとに。
でも、ここは。
「お前を『居場所』にしたら、いちばん大事なものを壊しそうでこわいんだ」
「そう」
かたくなに枕に顔を押し付けたまま希がいう。かすかに肩がふるえている。泣いている。
かわいそう、どうしたの、泣かないで。
そんなことばが頭の中で渦巻く。そうさせたのは自分なのに。だから、覆いかぶさり、もう一度抱いてやることしかできない。

翌日の昼下がり、希の部屋をあとにした。
『帰る場所』なんだ、と紀也はいまさらながらに思う。
紀也にとって希は帰る場所。
「紀也」
呼んだ声に振り返る。だるそうに戸口に凭れたまま、希がいった。
「がんばれ」
「うん」
にせものの世界でいつまで、どこまで、なにと闘えば。闘って、納得すれば。
……希の傍にいられるだろう。
見あげた空は張りぼてのようなのっぺりした空色で、やっぱりフェイクだと思った。

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【2017/06/12 11:50】 | お題SS。
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