FC2ブログ
秩序のとれた海 例えば君とふたりで
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

リボンを、ちょうちょのかたちに結わえるのが苦手だ。
緒里(おり)のむすぶちょうちょはいつもいびつで、シューレースであれ荷造りであれ、満足に結べたためしがない。結果、緒里はよく転び、修学旅行のナップサックを背負うのはいつもクラスでいちばん最後になり、その集大成としてなんだか自分の人生は全体的に己のちょうちょ結びのようだ、と30歳になろうとする夜、ふと思ったりする。
対人関係を結ぶことも苦手な緒里のサースデー(サーティーのバースデーだから、だそうだ)を祝ってくれるのは、高校大学通してからの古いつきあいの則(のり)だけである。
その則は実に器用でサースデーに緒里には名すら推測できないこじゃれた料理と自作のケーキをもってきた。
「すげー、則……リストラの憂き目にあったら、料理人になればいいよ」
「俺、会社勤めすきだからやだな」
緒里は則の料理をおさめているスマホのカメラ画面から顔をあげた。
「会社勤めがすき、ってそれはまた日本の政治が喜びそうな……」
「老成するタイプだから」
「うらやましいことこのうえないな」

「あーあ、いつになったらまともになれるかな、もう三十路だよ」
豪勢な食事のあとで緒里がぼやくと、則の手が伸びてきて頭をかるく撫ぜた。
「おまえは大器晩成型の人間だろ」
「……晩成ってなにを成すんだろう」
「そりゃあ、」
則は言葉に詰まると、苦笑する。
「なしてみなけりゃわかんないだろな」
肩を落とした緒里のの傍らに則がまわりこんできて、ゆるく抱きしめた。
かすかにこわばった身体がぬくもりに緩むのを見計らうタイミングで「緒里、すきだよ」と則がいう。
うん、と頷いた緒里が自分を抱く指に一本ずつ指をからめる。
目を閉じて、キスと、その先を待つ。

やわらかくなったきもちいい箇所を恋人に穿たれながら、緒里は祈る。いっしんに願う。
どの糸が、どの結び目がほつれてもいい。この糸は、どうかこの糸だけは、ほどけませんように。
「ねぇ……、のり」
「どうした?痛むか?」
ふたりしてなんどか絶頂をむかえたあとだった。ひくい声にゆるゆると首を振る。痛みはしない。むしろ、ねぇ。
「もっと強くして、ほしい」
糸がほどけないように。ちゃんと、もっと、結び目が気持ちいいとわかるように。
嵩を増したものをふかく受け容れながら、自分の意志ではどうにもとまらない熱でつよく思う。
この糸がいつかほどけたら。
そのあとの世界には、もうなにもいらない。
ほんの一瞬焼け付いた気持ちは、写真のように鮮やかで、すこし泣きそうだった。
スポンサーサイト

【2018/06/11 18:43】 | お題SS。
|
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。