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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
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はじめに後ろ姿をみたとき。夕焼けだ、とおもった。
鮮やかな橙色のジャケット、濃い紫のスリムジーンズ、濃紺のスニーカー。いかにも着こなしに難儀しそうないでたちで学生課のまえで張り紙をとっくりと眺めていた後ろ姿を、僕はじろじろ見すぎたのだろうか。自転車にまたがったままでその場からうごかない闖入者をふりかえった視線が僕をとらえた。
「どうかした?」
「服」
「服が?」
「枕草子みたい」
なんだそれ、と黄昏の空をまとった彼がわらった。
その笑顔の感触が心地よいと感じた。あれは大学一年の春。

想像もしなかった。
夕焼けの色が変わらないように、彼がそれから変わらず傍にいることになるなんて。

「ただいま」
一緒に暮らしているすこし安いマンション、もしくはわずかにスタイリッシュなアパートというていの部屋に帰り、声をかける。
「おかえり」
持ち帰りの仕事をしていたらしい彼がふりかえってわらった。
これもまた、夕焼けとおなじ、おそらくはずっと変わらないもの。
パソコンにむきあう表情は大学時代の未熟さやひよこ社会人の緊張を削ぎ落とし、ここ数年、これも変わらない。
変わったことは、僕がコーヒーをすきになり、彼が新聞を読むようになったこと。
かばんをソファに置き、傍らのひつじのぬいぐるみ(ふたりでオーストラリアに行ったときに買った)を抱え、パソコンの画面を覗きこむ。もこもこしたウールのかたまりがべええっと鳴く。
学術論文なのだろう、もはや英とも独とも仏ともつかない文字の羅列。
「すこし待ってて。米が炊けるのもうすこし時間かかるかも。炊飯のスイッチ押してなかった」
パソコンを斜度30くらいに伏せて、彼が台所に行く。パソコンの角度で僕は今夜の営みはないなぁ、とおもう。

この部屋には、もう愛のことばが介在しない。
せつない水に満たされた、箱庭のような部屋。
いままで知っていた、その中で生きてきた、ことばが作る世界が崩れるのは、たいへんに空恐ろしくとても心許なく、それでも素晴らしかった。
「だいすきだ」と繰り返し口にしていた不自由さを、懲りもせずなつかしく思うときはあるけれど。
特別なごめんねもうつくしいありがとうもないかわりに、ことばに変えられないものがある、この部屋にはある。
夕焼けが夕焼けであるように、全力で僕らの恋は僕らだ。そうありたい。
たとえそれが、僕の自己満足であっても。

「どうした」
「ん?」
「なんか考えてたろ」
「考えてた……思ってた?うん、しあわせだなって」
そりゃそうだ、とローテーブルのむかいに座る彼は頷くと、さんまにスダチを絞った皿をこちらにわたしてくる。
「うまいぞ、さんまだ。しあわせに決まってる」
「そうだね」
僕もわらう。
僕といて、彼が笑っていてくれることが、うれしい。だから。
鏡映しに、彼もおなじだとしっているから。

どんどんいらないものを削ぎ落とし、ずんずんきれいになっていく。
しあわせが透明になる、うつくしい場所。
なにもないけれど、どこにもつながらないけれど、大事な部屋。
ほっとして泣けるほど。
耳をひらいて、君をきくよ。
眼を閉ざして、僕をおしえる。

うんと歳をとって、記憶もおぼろげになって、いつか、が訪れたそのときは。
想い出もなにもかも、残ったことに気づかないくらい残るのだろう。
それまでは、ことばのない部屋で、やさしい場所で生きていく。
巡りあえた正解の場所で、普通のしあわせをくりかえす。

夕焼け小焼け、明日もまた。
出会った頃と変わらない橙を見あげ、うちへ帰ろう。

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【2018/09/14 21:54】 | お題SS。
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音楽家が旋律がきこえれば、拍をとる。
文筆家が絶景を目にすれば、筆をとる。
春歌が恋に落ちたのはそんな感じだったので、相手たる燿のどこに「してやられた」のかはわからない。
ただ、旋律で絶景で、目の前にいると「なんとかしなければ」という思いに駆られる、そういう存在だ。
そして、燿との恋愛がはじまってこの方、旋律が途絶えたり絶景が霞んだりすることがない。盲目のなかで眩いものをみている。

すばらしいミュージックを手掛け、前代未聞の傑作を書いたようなものだな、とふりむかせた春歌自信の感慨としてのところだ。

そして、いままた、なんども経験した新鮮さのなかで燿に抱かれている。奏でるように、書くように、あたらしい輪郭をみつけるように。
だいすき、とおもう。
ぐちゃぐちゃ突かれ、思い切り感じて、うわごとのように「いい」と繰り返す。
「お、願い、……もっと、ああっ」
悲鳴の様相を帯びる声をはじめは心配されたが、いまは逆に高まりを撫でさすられる。
どろどろのなかから春歌は硬質できらきらしたものをひろう。かつんかつん、と頭のなかで鳴る。ひびく。
春歌のみつけたリズムに乗せるように律動され、何度目かもしれぬ果てにたどりつくまで。

「してる時さ」
「……うん」
交わる記憶を思い出すのは恥ずかしくてつらい。自分のCDをきけないミュージシャンが一定数いるというのは、とてもよくわかる。
「春歌、すごいよなー……」
がばりと向き直り、なにがどこが!と大慌てで問い詰めた。『ふつう』の基準がわからないから、なお不安になる。
「いやいや、いや、感じてるとことかいくときとかもちろん、ふつうの意味ですごいけど」
「それはそれで」
「いままで、自分もごまかさなくちゃいけない気分?自分で自分に後ろめたい部分?もあったのにな」
「……のにな?それで?」
「春歌を抱いてるのはぜんぜん違う。オーケストラの指揮者ってこんな気分なのかな。ことばになるまえの音をひろうみたいな」
「はあ」
いいや、おやすみ。
そう言って恋人はそれこそ致命的に照れたのか、むこうをむいてしまう。春歌はこんなにうれしいのに。

ことばになるまえの僕をみつけてくれている。
ひろって、あつめて、かたちにして、名前と言葉を与えて。
それは、彼をみつけた僕と同じ気持ちだろうか。それともそれを上回る感覚なのだろうか。
春歌は燿に出会って、衝撃のあまり、いったんばらばらにほどけた。
そして世界に生まれ落ちるまえの暗がりから、燿に手を引かれて、新たな日のもとへ。陽ざしのなかへ。

眠りに落ちるまえ、朧な回路でおもう。ミュージック。恋はこのうえない音楽だ。
夢のなかで春歌は世界に呼びかける。
ハロー世界。
こちら、はるか。応答、どうぞ。
きこえますか、こちらの音楽が、高まる胸が、呼び合う声が。
かけがえのない、旋律が。

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『にんぎょうひめ』という長編のお話、プロットは頭のなかにあるのです。
ないよ~~~文字に起こす時間がないよ~~~へ(´ム`へ)~~~~~
お仕事がいそがしいよ~~~~

【2018/09/30 16:36】 | お題SS。
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