秩序のとれた海 例えば君とふたりで
三月の雨のつづきはオルゴール 地面で踊りやさしくうたう。

幼いこどもが部屋の片隅で絵本を開くように、彼の声をオンラインでさがす。母親におとぎ話を読んでとせがんでいたころのように。
微かに風の音がする。三月の雨は屋根を叩いている。

ベッドの上に置いたPC越しに繋がったむこうで、彼はこちらに穏やかに笑いかける。
『また、眠れない?』
「うん」
腹ばいになって両腕に顎を埋めたまま、雨が降っているから…と告げる。屋根の上にも、心のなかにも雨は降り続いている。彼に出会ったときから。
『面白い話、してあげようか?』
「うん」
『月がどうして満ちたり欠けたりするのか、知ってる?』
「知らない」
本当は同学だった中学で習った。地球の影がどうとかこうとか。
でも、欲しい答えはそうじゃない。彼が送ってくれる答えはきっとちがう。
『本当はな、満月に向かうときには、宇宙で月に息を吹き込んでいる奴がいるんだよ』
「息?」
『そうそう、はーはーはー、って。ビーチボールを膨らませるのと一緒』
「はーはーはー?」
笑うと、画面越しの彼の目が細くなって、笑い返してくれる。
『ほら、笑った』
「じゃあ」
話を続けたい一心で、言う。
「欠けていくときは、そのひとはなにをしているの?」
『しゅーって、自分で吹き込んだ息を抜いているんだ』
「しゅー?」
今度は声をあげて笑う。
頭の片隅で、宇宙で卵のような月を膨らませたり萎ませたりしている『だれか』を思う。
その『だれか』の孤独はいかほどだろうか。
「なんのために?」
『だって、月が止まってしまったら、地球に住む動物が困るだろ?』
「そうかぁ…」

彼は穏やかに問いかける。
『眠れそう?』
「ううん、まだ」
『じゃあ、花の蕾がどうやって、咲く花の色を選んでいるか、知ってるか?』
「知らない」
いつも彼のくれる話は、ばかばかしいほどロマンチックだったり、救いようのない冗談だったり。
取りとめのない会話は続く。

深夜3時半をまわったところで、降り続いていた雨が止んだ。
「あ、雨があがったよ」
『じゃあ、もうだいじょうぶだな』
「うん」
『ゆっくり寝ろよ』
「うん、ありがとう」

三月の夜に雨が音を立てると眠れなくなってしまったのはいつだっただろうか。
彼に出会う前だったような気もするし、彼に出会ってからだったような気もする。

それでも、ほんとうの意味で笑い返してはいけないことは、ちゃんと知っているから。だから、傘を片手に彼に会いに行ったりはしない。
とりとめもない、オルゴールのような声を聞くだけ。雨音を掻き消してくれる、柔らかな旋律に耳を傾けるだけ。

目を閉じる。
足音も立てず、夢がやってくる。
……『夢がどうやって、寝ているひとにやってくるのか、知ってる?』
聞こえない彼の声が、聞こえる。

三月の雨のつづきはきみの声 それだけでいい それでいいから。

******

続篇(というか…side B)ができました。
こちらもご一読いただけるとうれしいです⇒『三月の、雨の音譜は』

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【2015/03/12 10:49】 | お題SS。
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