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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
ぼくはまだ笑いながら、八柳に言った。
「さわちゃんなら、八柳の気持ちに気づいてるよ」
「さわちゃん!?」
あの花火大会の夜から、ぼくは姉さんを『さわちゃん』と呼び続けてしまっている。
「あ、姉さんのこと、たまにそう呼んじゃうんだよね」
「あぁ、沙羽子さんだから」
「うん、姉さんは、もしかしたら八柳がぼくのことを好きなんじゃないかって言ってた」

八柳が頭を抱える空気の動き。本当に困ると、ひとは頭を抱えるものらしい。髪をがしがし掻きまわし、八柳が呻くようにいう。
「何者なんだ、”さわちゃん”」
「大学で行動心理学を勉強しているみたいだよ」
「たぶん、無関係だと思われる」
「見掛けだけで言い寄ってくる男を、片っ端から振っているみたいだよ」
姉さんはしょっちゅう『鬱陶しくてろくでもない奴』を撃退するのが大変だ、と嘆いている。
「あー…、人間の本性見ちゃうタイプか…」
八柳が呻くように言う。

「で、なんて言ってたんだ、お前の姉さんは」
「同性愛者の男がぼくを見てどう思うか、八柳が言ったことは自身のリアリティーを伴う実感だとかなんとか…」
八柳がため息をつく。
「そこまでわかってて、お前に俺と関わるな、とは言わなかったのか?」
「言わなかったねぇ」
「言わなかったねぇ…って…お前は暢気すぎるし、”さわちゃん”は、なにを考えているんだ」
「たぶんだけど」
ぼくは、あの夜の姉さんのことばを思い出しながら、言う。
「姉さんは、ぼくが八柳のことを好きなことも、知っていたんだと思う」

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【2015/03/15 08:54】 | この目で見るまでそこにいて
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