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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
こちら⇒『三月の、雨のつづき』のお話の続編(…というか、side B)です。
読み比べていただけるとうれしく思います。
では、どうぞ。

***

三月の雨の音譜は叫び声 こっちを向いて 振り返ってよ。

ぼんやりとした意識が、雨の音に引き上げられる。三月になると、深夜の雨音は目覚まし時計のようだ。けっこう強い、春の嵐。彼はまた、眠れないでいるのだろうか。思考がそこに行きついたところで、タイミングを計ったように電子音がした。雨の予報に電源を落とさず、スリープモードにしていたパソコン。
起き上がり、ロックを解除して通信機能を立ち上げる。画面右下の時計は午前2時。

なにかの本で読んだ。切り立った崖のうえで風に煽られてフラフラしている者にとっては、この時間帯がいちばん…。

『ごめん、起こしたよね…』
両腕に顎を埋めた彼は申し訳なさそうに、言う。起きていたよ、と告げるかわりに微笑んでみせる。
「また、眠れないでいる?」
画面のむこうの彼は、微かに頷く。
「面白い話、してあげようか?」
『うん』
彼の口許に、仄かな笑みが揺れるように浮かぶ。

「どうして、海に波が打ち寄せるのか知ってる?」
『知らない』
「海はな、いつでも陸に会いたがっているんだ。それで、恋しいよ会いたいよって、波の声で言っているんだよ」
彼の瞳を動揺がよぎる。ほんの一瞬のことだけれど。すぐに、いつもの、どこか幼い口調で訊かれる。
『なんで、海は陸に会いたいの?』
「陸のなかに、海は忘れ物をしてきたんだ」
『忘れ物?』
「うん、だから、海は陸のことが忘れられないんだよ」
『そうかぁ…』
切ないねぇ、と彼は笑う。
切ないのはお前だろ、と思う。

雨の夜の雫の音は、彼の悲鳴だ。会いたいよ、恋しいよ、という悲痛な叫び。画面のこちらに向かって、聞こえない声で必死に叫んでいる。
わかって、いるのに。

まだ雨は降り続いている。
「次の話、聞きたいか?」
『うん』
彼は、画面のむこうで笑って頷く。
「どうやって、ヒトデができたか知ってるか?」
『ううん、知らない』
「空に光る星をだな、真似したがった海の砂たちが、寄り集まって固まった。それがヒトデのはじまりだ」
『ふうん。じゃあ、ヒトデ…っていうか、砂の夢は叶ったんだ』
よかったね、と彼は言う。

三月の雨の夜、彼が望む話。現実からかけ離れた、おとぎ話のなぞなぞ。大学の授業の合間合間に、ふと思いついた問いと答えをノートの片隅に書き留めるようになって、もう長い。

いまより幼い彼の声がする。記憶のなかで。
『三月の夜に、雨が降ると眠れないんだ』
さらりと聞き流せばよかったことばが、胸に引っかかってしまって取れないのは罪悪感からだ。
彼の無意識の叫び声に、気がつかないふりをしつづけている、後ろめたさ。
応えてやれはしないくせに、それでも彼が離れていくのがこわくて、他愛もないおとぎ話を繰り返す。
笑って、くれるから。
おとぎ話。なにもかも曖昧なのにはっきりしているのは、これが憐憫でも同情でもないということだ。

稲妻の話をしたところで、雨が止んだ。
『…止んだね』
「そうだな、眠れそうか?」
『うん、もう平気だよ』
「ちゃんと寝ろよ」
二言三言交わし、通話機能を切り上げる。
泣きたいのはきっと彼のほうなのに、なぜか胸が痛い。
たとえ永遠に雨が降り続いても、彼の求めるものを与えることができない。
それでも思う。世界のどこかに止まない雨の降り続く街があればいいのに。

三月の雨の音譜は水の糸 切っても切っても 切れないものは。

******

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【2015/03/15 09:25】 | お題SS。
|

若丸さんへ
砂凪
こんにちは、若丸さん。
そして、ごめんなさい……お返事が、異様に遅れてしまいました。
職安通いを始めたので、慣れない雰囲気に疲弊しています。

一気読みしてくださったとのこと、ありがとうございます~♬
地の文に一人称がないこと、気づいてくださってうれしいです。
わざと人称を抜くことによって、ふわふわした詩のような雰囲気を出したかったのです。

いちおう、書いた時点では前篇主人公の片想いだったのですが、気持ちにズレがあるもどかしさをふたりともが覚えているという点で『両片想い』かもしれませんね。
後編主人公は、前篇主人公への後ろめたさから、切っても切れずにいて。
……これ、長編にしたら面白いかもです、自分設定がいろいろありますし。
気が向いたら長編にしてみようかしら。

めちゃくちゃ曖昧なうえにただの呟きのようなSSなので、ご感想を描きにくかったと存じます。
それなのに!素敵なコメントありがとうございました☆⌒゜

拝読しました
牛野若丸
続編まで一気読み♪
両視点とも、地の文に主人公の一人称がなくて、語りかけるような文章の紡ぎ方ですね。
前編主人公の片想いかと想ったのですが、どうも両片想いのようにも見えまして。
でも、後編主人公は「応えられない」と言っていますね。
ゲイじゃないから応えられない、ってことかな?(俗っぽい解釈ですみませんw)
恋愛感情なのか、友情との履き違えなのか、ちょっと曖昧なのが、BL本来の醍醐味かも知れませんよね。
素敵なSSをありがとうございました!

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コメント
この記事へのコメント
若丸さんへ
こんにちは、若丸さん。
そして、ごめんなさい……お返事が、異様に遅れてしまいました。
職安通いを始めたので、慣れない雰囲気に疲弊しています。

一気読みしてくださったとのこと、ありがとうございます~♬
地の文に一人称がないこと、気づいてくださってうれしいです。
わざと人称を抜くことによって、ふわふわした詩のような雰囲気を出したかったのです。

いちおう、書いた時点では前篇主人公の片想いだったのですが、気持ちにズレがあるもどかしさをふたりともが覚えているという点で『両片想い』かもしれませんね。
後編主人公は、前篇主人公への後ろめたさから、切っても切れずにいて。
……これ、長編にしたら面白いかもです、自分設定がいろいろありますし。
気が向いたら長編にしてみようかしら。

めちゃくちゃ曖昧なうえにただの呟きのようなSSなので、ご感想を描きにくかったと存じます。
それなのに!素敵なコメントありがとうございました☆⌒゜
2015/04/27(Mon) 10:08 | URL  | 砂凪 #-[ 編集]
拝読しました
続編まで一気読み♪
両視点とも、地の文に主人公の一人称がなくて、語りかけるような文章の紡ぎ方ですね。
前編主人公の片想いかと想ったのですが、どうも両片想いのようにも見えまして。
でも、後編主人公は「応えられない」と言っていますね。
ゲイじゃないから応えられない、ってことかな?(俗っぽい解釈ですみませんw)
恋愛感情なのか、友情との履き違えなのか、ちょっと曖昧なのが、BL本来の醍醐味かも知れませんよね。
素敵なSSをありがとうございました!
2015/04/23(Thu) 15:31 | URL  | 牛野若丸 #-[ 編集]
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