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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
寒かった。夏だというのに、毛布と布団をかけても寒い。
震えながら、布団の中にうずくまる。封じ込めていたあやえちゃんとの思い出が、呼吸するたびに蘇ってくる。細く息をつく。

5歳年上だった。たくさん、歌を教えてくれたね。『まっくら森のうた』がぼくたちのお気に入りだったね。幽霊のポーズをしながら歌うあやえちゃんを、さわちゃんが笑ったっけ。
長縄遊びにしぶしぶつきあってくれるときだって、最後にはぼくに跳べるくらいの速さで縄を回してくれたのに。

ぼくは、母さんやさわちゃんより、あやえちゃんに懐いていて、懐いていて大好きで…大好きだった、それなのに。

ぼくの心は暗く、醜く、歪んでいる。小鳥が水に、魚が空にいる世界みたいに。
都合のわるいことを覆い隠して、覆い隠したまま歪んだまま、だれからも愛されて、守られて、大事にされていたのに、何ひとつ気づこうとしなかった。目にひとが見えない理由を、だれにも訊かれなかったのをいいことに。
何ひとつ、だれひとり、大事にしてこなかった。あっさりと、あやえちゃんの記憶を手放したように。

記憶。血だまり。そのなかの大事なひと。その記憶はたしかにぼくを痛める。
でも。それよりももっとぼくを打つのは、なにもかもを忘れ、逃げ出したぼく自身の現実だ。
目を閉じて、手足から力を抜き、死んだふりをしてみた。いつもより強く、とくとくと確かにぼくを生かす血流の音がする。途方もない徒労感に襲われ、ぼくは目を閉じたままさらにうずくまる。

布団のなかに消えてしまいたかった。
ぼく自身を手放すように。
立ち直れそうにない。
そんなとき、そばにいてほしい八柳は、もういない。
なにもかも、もう、どうでもよかった。

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【2015/04/01 09:01】 | この目で見るまでそこにいて
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