FC2ブログ
秩序のとれた海 例えば君とふたりで
【星々ディスタンス】

僕たちは『仰げば尊し』をうたわない世代だ。
なぜだかはわからないけれど『大地讃頌』を、卒業式でうたう。嫌いではないけれど、やっぱりなぜかはわからない。
全3回の全校練習が終わって、椅子を教室に運び戻しながら哲孝が僕の隣で言う。
「受験受験で、歌練習どころじゃないからじゃないか?」
「まあねー…」
「なに?『仰げば』をうたいたかったの?」
「そうじゃなくて。きのう、母さんに平成っ子をばかにされたからね」
哲孝がかろかろとわらった。

難関大学への進学が学校推薦で決まった僕はもう呑気なもので、図書館から借りた本を部屋でゆっくり読んでいる。
スマホがぽよぽよ、とメッセージの着信を告げた。ひと段落するまで放置して、パラグラフのあいだにさしかかったところで糸しおりを挟み、電子機器を手にする。
哲孝から。
どこだろう、痛むのは。春にはもう、離れてしまう感傷か。告げるはずも、はじまることもなく終わる恋の悲しさか。
『赤本まじつらい』
ちょっとわらった。なんだよ、ひとの気も知らないで。がんばれ、とスタンプだけで応援する。
ふたたび、本の世界へと。宙で足がたたらを踏んでいるような、ふわふわ心許ない物語。
行き場もない想いに似ている。

いつか僕が死んだら、哲孝をすきだった僕の気持ちは、だれが憶えているのだろう。
土に還ったら、土壌に染み込んで地球いっぱいにひろがるのだろうか。
どこかで、哲孝はそれを知るだろうか。たとえば、雨が降って髪が濡れたときなんかに。

いくつかのまいにちを繰り返した午後、哲孝から『サクラサクサク北海道!』とメッセージが届いた。『おーめーでーとー』と返す。『センキュー』と投げ返される。みえないキャッチボール。
獣医師になるために北海道の私立大を受験した彼と、東京を離れずに(たぶん)公務員志望で生きていく僕と。
「まぁ、人生は無難第一だよな」
ひとりごちる。この世は万事、事なきをよくする。
『空港まで迎えにこいよ。久しぶりにあそぼー』
『ほいな』
命令とお誘いのメッセージに本を机の上に重ねて、ジャケットを羽織り、家を出た。

先ほどまで読んでいた本に書かれていた。
銀河系は延々と膨張をつづけ、星々はものすごい勢いで引き離されていると。時間が流れるとは、そういうことだ。距離は変わり続ける。
ひとだって、きっとそうなのだろう。近くにいることだけがしあわせじゃない。遠くても、離れても、変わらず変えずつづけていく。
途切れたり、途絶えたりしないのならそれでいいし、生きる道と道が交差したなら、どんなに頼りない糸でも切れてしまうことはないのだろう。
賛美されるのはそばにいることだけじゃない。離れても、両手できらりと光らせることができるもの。

叶わない恋を抱えて、僕の銀河はひろがる。
何度でもきっと、いくらでも、たぶん。

******

ランキング参加しております。
いつも応援ぽちをしていただき、ありがとうございます《*≧ω≦》

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト

【2017/02/07 07:30】 | お題SS。
|
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可