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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
【糸つなぎ】

僕はどうにも玉結びと玉止めができない。
小学校の家庭科で運針の授業を受けたとき、配られた手ぬぐいをさいごまで縫えなかったのは僕だけだった。いや、縫うには縫えた。玉止めをするために引いた糸があれあれと抜け、呆然とする僕の手には布と糸にばらけた『雑巾』が残った。家庭科の先生は「小野瀬くん、玉結びがじょうずにできていなかったのね」と青い糸の一端を手にしていった。屈辱と赤恥の記憶だ(むろん、その頃はそんなことばをしらないけれど)。

人生ぜんぶ、僕にはなんだかそんな感じなのだ。
人間関係にかぎって言えば、完全にこの事象に一致する。最後の一歩を踏みだしたつもりが最初がそもそも成り立っていなかったり、引っ張ったらするするとほどけ残るのはただの糸だったり。
齢17にして断言できる……この世に、赤い糸は、存在しない。
僕の左胸から伸びている(はずの)糸は、手繰り寄せて期待した挙句に、きっと何の前触れもなくぶつり、と途切れているのだろう。

と、滔々と人生観を語ってみせた相手に、先刻僕は告白された。
相手はあっけにとられている。無理もない。恋を告げて、その相手からほの暗い厭世観を聞かされたのだから。実に気の毒だ。
しかし、気の毒なのは僕もイコール。目の前でぽかんとしているのがついさっきまで友人だった(はずの)男子なのだから。
「……で?」
ようやく相手が放った濁音に、「だからさ」と言いかけた僕を遮って、きゅうきゅうと上靴の底で床を擦りながらことばがつづいた。
「やっぱ、俺、むり?」
「べつに、お前だからむりってわけじゃなく、僕の人生ぜんたいを見直してみるとお互いのためにもやめといたほうがいいと思う」
断った、つもりだ。しかし、相手は爆笑した。あまつさえ「やべーな、お前おもしろすぎる……」と言われる。
「おもしろくは、ないと思うよ」
遠慮しいしい見解を述べる。齢17年、僕は自分を『つまらない人間』だとジャッジしている。
相手は「んーん?」と半笑いでいうと、くらりと真顔になる。
「お前の糸がどこにつながっていても、どこにもつながらなくても、片側がまだ空いているのなら俺のと結んでほしい」
「はぁ」
「ほどけたら、途切れたら、何度でも結びなおすから。ちなみに俺、運針得意だし」
「まぁ」
「ということで、ひとつよろしく」
てきぱきと述べると、相手は軽やかに屋上へとつづく風防室から階下へ降りる階段を駆け下りていった。
軽やかな口笛の音をききながら、頼りない吹き流しのようにぶつりと途切れた先で風に煽られているだけだった自分の糸が、だれかの手に掴まれたのを感じていた。ひどく安心する感覚で、息をひとつ、ついた。
乱射する光が風防室を満たしている。

ひとりのまいにちの、おわりだった。

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【2017/02/09 07:30】 | お題SS。
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