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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
【架空の星をあつめる】

画面を暗くして眠っていた朔弥(さくや)のパソコンが、りんっとちいさな音を立てて目覚めた、その音で琉生(るい)も目を覚ました。
パソコンの所有者は傍らでこんこんと眠りつづけている。
いま、何時だろう。カーテン越しのごくうすい光。
ナイトテーブルでゆうべのふたりの姿を沈黙とともにみていた時計を見遣る。06:35。
ぜろ、ろく、さん、ご。
この時間まで眠っていても、ばたばたしなくていい土曜日であることを脳内で確認する。
「さく」
壁にへたりと貼り付くようにしているすべらかな背中を叩いた。
心から言える。この背中にすがって、なかで気持ちよくなっているときが、単純な毎日の彩りだと。水墨画のようなまいにちに、さっとひと刷毛はくような、そのときによってちがう色。
きのうは、橙のような、紫のような。
そこまで思いを巡らせても目を覚まさないので、もういちど呼びかける。
「……どうした?」
目を開けたばかりのあたらしい眼が自分をみるのがうれしい。春の浅い空気越しにパソコンを指さした。
「パソコンの、音がした」
「うん」
生返事で琉生に覆いかぶさるので「どうしたの」と問う。
「るい」
『そういうとき』にしか呼ばない声で名前を呼ばれた。ちいさく返事をして、肌に唇が触れる感覚にほのやかに喘ぐ。

二度、いかされたあとの、うつらうつらとしたまどろみの靄をただよう。朔弥が机に向かってなにごとか綴っているのを、打鍵音できいていた。
「……なんて?」
「3次の、因数分解のときかたを聞かれた」
「そう」
「楽勝」
「うん」
数学科から大学院にすすんでわりと常になにやら数式のようなものを操っている朔弥には、中学数学など口頭問題だろう。
打鍵音がやんでしばらくして、琉生を眠りから引き戻した音が、また、きこえた。

朔弥は、ネット上のサイトで塾講師のようなことをしている。
質問に対する回答に生徒が納得すると、星のマークといっしょに、あのかろやかな鈴の音がもらえる。

豆から挽いたコーヒーを机に持っていくと、恋人は「ありがと」とわらって、ふうっと滑らかな漆黒の水面に息を吹きかけた。眼はじっとパソコンを見つめている。
琉生も画面をのぞき込んだ。画面右上のボックスに、578という数字がみえた。朔弥がここ1週間であつめた星。
膝をついて椅子のそばに陣取り、勝手にマウスをいじってボックスをクリックする。
星の所有者は咎めるでもなく、琉生の髪をいじった。
こんぺいとうみたいな、様々な色の星。琉生にひととき見せてくれる快楽といっしょだ。色とりどりの。
1週間で578個の星。多いのだろうか、すくないのだろうか。どんな星座が描けるのか。わからない。
すこしこわくなって、ボックスを閉じた。
「……さく」
「どうした?」
「けさ、どうしてすぐにパソコンみなかったの?」
「こんな星よりおまえがほしかったからだよ。なんか、さっきはしたかったんだ、すごく」
こんな星。だけど、このひとは。このひとは、この架空の星で星座をつくりたがっている。自分の存在価値とか、意義とか、そういう名前の。
僕では、それをわからせてあげられない。お互いの気持ちが唯一の糸のような、こんな恋では。
「ごひゃく、ななじゅう、はち」
たしかめるように、かすかな声で読む。頭上から「うん」という声が降ってきた。

僕もこんぺいとうをあつめている。
甘い、色とりどりの、それなのにかなしい、星。
このうえなく大切なのに、ときに投げ出したくなる、星。

ぼんやりと考える。
腕が伸びてきて、かすかに頬に袖が触れた。パソコンの電源が落とされる。
「どこか行く?」
「どこか?」
「きょうはすこし、時間があるから。研究室にも出なくていいし」
わらって、3つ先の駅にある海沿いの公園の名前をあげると、いいね、とうなずいた。

星をありがとう。
たくさん、両手にあまるほどの、きれいな。
これからの道がやさしいひなたの日々じゃなくても、名前もない星をひろって生きていく。

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【2017/04/09 09:44】 | お題SS。
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