秩序のとれた海 例えば君とふたりで
【きみの舟】

灰色の空から憂鬱そのものを切り取って降らせるように、雨粒が落ちてくる。梅雨明けちかくの激しい雨。
このまま雨がやまなければ、と奏良(そら)はぼんやり考える。
校舎だけが残った世界で、僕たちは延々と学びつづけるのだろうか。もう、使いどころのない数式を、古く綴られた文章を。
雨音に誘われるように連想はつづく。美術は、音楽は。
割れたチャイムの音に、奏良の意識は引き戻される。
……海の底から釣り上げられた深海魚の気分だ。雨がつづくとはしゃぐ教室は、奏良にはまぶしすぎるから。

「奏良」
斜め後ろの席から勇魚(いさな)の声がした。頬杖をついたまま振り返ると、かすかにわらいながら、いう。
「まーた、ろくでもない考え事してただろ」
ろくでもないわけでもないと思うよ、とちいさく反論する。
「ただ、このまま雨がやまなかったらいいのに、って。そう思っただけ」
くらーい、と勇魚が顔をしかめた。

「ノアはさ、」
帰り道にくるくると傘をまわしながら奏良がいうと「ノア」と勇魚がおうむ返しに返した。
「……って、だれだっけ?」
「聖書の。旧約聖書の」
「あー、舟かなんかをつくった」
船であってる、と受け答え、どうやら旧約聖書には(にも、かもしれない)あかるくない相手にあらすじを解説した。
「……そいつさ、ばかかな?」
「だよな」
「ぜーったい、全動物をすくうなんてむりだよな。弱肉強食とか食物連鎖とか起きて」
「僕は、ばかっていうか、愚かだと思う」
「おなじだろ」
「ちがうだろ」
奏良は足を止めて、勇魚をみた。
「すべての生きものを助けようなんて、思い上がりだよ。愚かすぎる」
となりをあるいていた足も止まり、奏良に視線がとんでくる。
「どしたの?」
「どうもしない」
どうしたんだろう、自分らしくもない。こんな、こんなに、はっきりものを言うなんて。
そうだな、と早足で歩きだした奏良の背中を勇魚の声が叩いた。
「俺だったら、すきなやつだけ乗せて、ふたりでおわったあとの世界をみてみたい」
奏良はかすかに驚いて、振り返った。
「お前と俺で、沈没した世界にうかんだ舟で生きるのも、いいかもしれないな」

その水は、どんな色だろう。
どんな魚が泳ぎ、どんな藻が揺れている世界なのだろう。

奏良の足元に薄い影が差した。
「晴れてる」
軽やかな返事。
「うん、雨降ってるけど、晴れてるな」
雨が降っているけれど。晴れている。その言い方に改めて、勇魚をすきだと思う。

僕の梅雨明けも、ちかいのかもしれない。

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【2017/04/13 08:28】 | お題SS。
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