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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
【はないかだ】

彼は、西にある、遠い国の名前を口にした。
僕がぼんやりと川面を流れる、桜色を数えていたときだった。
「俺、いかなくちゃ」
覆せない決定事項、だった。翻せない決断。
だって、さいきん、彼の心のなかでは風が西から吹いている。とても、強い風。
舞い上がる糸の切れた凧をもはやどうすることもできないのだ、と僕はだまってうなずく。
羅針盤のない舟、コンパスのない樹海。彼とつづけている恋には『さまよう』ということばがとても相応しい。
「いなくならないで、くれるなら」
「いってくるだけ」
そういった彼は、水面に目を戻した僕の頭をがしがしと撫ぜた。

僕にはよくわからない民族紛争やら宗教問題やらに興味を持つ彼は、時折「行かなくちゃ」という使命感でいっぱいになる。
凧というより風船なのかもしれない。ヘリウムではなく、使命感で膨らむ心の持ち主。
職場でワーキングホリデーの申請をし、ビザを取り、みえないところに行ってしまう心。
いなくなるわけじゃない、いってくるだけ。
なんども言い聞かせている言葉は、『言い聞かせている』時点でおまじないのようなものだ。
彼のいなくなった視界で僕は、いつも怯えている。たぶん、約束と心しか、つなぐものがない関係に。

そして。
僕は、心底、心の底から疲れてしまう。
信じることに。心に覆いをして、引き留められない自分をみないようにすることに。
全力で信じていないとふたりをつないでいる(はずの)絆はいともたやすく、きえてしまいそうなのに。

連絡が、とれなくなるわけじゃない。
永遠に、あえないわけじゃない。
だけど、そばにいてくれない。
僕より、大事なものがある。
……そういうひとだとわかっていた。わかっていて、すきになったのはきっと、僕の勝手だから。だから、重荷にならないように僕は自分を取り繕う。

こまごまと、現地でおもしろい品をみつけては送ってくれる。
ときどき、ポストカードがポストに届く。
いちいち、そのひとつひとつ、新鮮でいいのかもしれない。すくなくとも、マンネリ化していくよりは。怠惰に彼を想うことはない、いつも希求するときは必死になる。

名を、呼ばれた。
「ごめんな」
ゆるゆるとかぶりを振る。だって、すきになったのは、彼が彼だからで。
風船じゃない彼は、僕の想うひとじゃないから。

水面を流れる、花。
いっておいで。でも、戻っておいで。
僕はたゆたゆと海のように待ってるから。
河が、花を連れて帰ってくるのを、ちゃんと待ってるから。

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【2017/04/15 07:30】 | お題SS。
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