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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
あの夜。
マンションの外階段から転げ落ちて、腕の骨を折った僕が職場のパン屋に復帰したのは、季節も巡り、まもなく冬になろうとしているころだった。
休暇をもらっている間、茅野さんと暮らすマンションの部屋から紅葉した公園を眺めながら、パン屋のバックヤードで僕を睨んだ沙紀ちゃんのことばが何度も耳によみがえった。

―……『なににもなりませんよ』

しっている。わかっている。張り裂けそうなほどに。
今回の痛みで思い知ったはずなのに。
それなのに僕は、水槽のなかに暮らすことしか知らない金魚のように、ここで、この部屋で暮らしたいと願っている。

茅野さんが病院に足しげく通ってくれて、何度も「もう、大丈夫だから」と手を握ってくれて、その目が泣き出しそうなことだったことに、さよならは塞がれた。
僕は無力なのか、案外しぶといのか、ただ鈍いだけなのか。それとも、愛し愛されているということなのか。
どれもがきらきら輝く本当のようで、どれも真っ赤な噓のようだった。
事実の小石を拾い上げる僕が、いちばん僕をわかっていない。僕に、いちばん僕がみえていない。

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【2017/04/21 07:30】 | 世界の果ての暖炉で
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