秩序のとれた海 例えば君とふたりで
茅野さんは、退院してきてから一度も僕に痛みを与えはしない。
それでも。それなのに。安心していいのだ、と頭ではちゃんと納得しているのに。
いつ、あの日々が蘇るのかといつもどこかで……心のごくごく片隅でずっと……震えている。怯えている。
この、おそるおそる薄氷のうえを歩くような日々に。

あの、最後の暴力の夜がさっと蘇って、虚脱感と恐怖のぬかるんだ沼に足をとられることもある。
向かい合ってわらいながら食事をとっているとき、ソファで茅野さんと僕が好きな映画をみている時間、抱き合って眠る夜にさえ。
そんなときに僕は繰り返す。ひとつしかおまじないをしらない、幼いこどものように。

『俺も、雨多がすきだよ』

きっと、もうこの世界には。僕をすきだといい、手を取りあって生きてくれる相手は、茅野さんしかいない。
その途方もない閉塞感はなぜか僕に希望をもたらす。彼のいない部屋で泣きながら安寧に身をゆだねている。絶望のなかの安堵。
たぶん、茅野さんの部屋の扉はもう開かないのだ。
ちいさくわらって、これが正しいのだと思う。思いたい、と。

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【2017/04/22 07:30】 | 世界の果ての暖炉で
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