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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
「……かやのさん」
返事はないとわかっている呼びかけが、部屋にうわんと響いて消えた。

時計をちらりと見遣り、パン屋の仕事にむかう支度をはじめる。
いないひとの名前を呼んでしまったことと、呼ばずにはいられなかった自分と、その両方に打ちのめされながら。
玄関で靴ひもを結ぶ。ここからどこかに行くことはできるはずなのに、どうしてここからはどこへも道が伸びていないのだろう。
世界につながるはずの道は、あの夜の土砂崩れですべて塞がれてしまった。
安らかな閉塞に僕は自分を閉じ込める。その、穏やかな思考停止を感じながら。

「いってきます」

また、返事のない呼びかけ。
僕が早朝のシフトで茅野さんより先に部屋を出た日、きっと彼もおなじことをしている。

たったそれだけが、僕らをつないでいる。
かすかな、細い、断ち切ってしまえば一瞬の糸。けれど、失えば痛むのだろう。
だから。だから、怯えても震えても、つづけなければならない。薄く頼りない氷の上をあるく日々を。氷が割れたなら、その下になにがあるのか。決して、決して、考えないように。

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【2017/04/23 07:30】 | 世界の果ての暖炉で
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