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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
かすかに、口許から笑いが漏れた。茅野さんが名を呼ぶ声に、そっと視線を向けた。

「雨多、どうした?」
「大丈夫です。ただ、ちょっと寝惚けていて」

そう、寝惚けた僕は、夢を見ていた。この暮らしの、すくなくともその先のどこかに、温かいものがあるはずだと。
茅野さんがベッドから降りて歩みよってくる。ゆったりと抱きしめられて、頭のなかでその体温を心で感じるぬくもりに挿げ替えようとするけれど、できそうになかった。
覚醒は、それほど明瞭だった。

「ごめん、ごめんな、雨多。びっくりさせるつもりはなかったんだよ」
「うん、僕もすみません」

そう、謝らなければ。気がついてしまったのだから。茅野さんとの日々の先には、もうきっとなにもないのだと。

手を引かれ、ベッドに納まった僕は茅野さんを見あげる。
「……しなくていいんですか?」
「雨多」
窘めるように名を呼ばれる。もう寝なさい。先ほどまで、僕を求めていたはずの体温が去っていく。

気休めに過ぎない温度だとわかっていても、ぬくもりは存在し得なかったんだと眼前に叩きつけられたようで、それで、はじめて悲しかった。
悲しいと感じる気持ちも、いつか、こうして目が醒めているうちに失せていくのだろうか。

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【2017/05/10 07:30】 | 世界の果ての暖炉で
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