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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
さきにこちらをどうぞ。

【映画と傘と繋いだ手】

夏の終わり、夕方のシネコンを出ると音を立てて雨がふっていた。地面をななめに打つ豪雨は白くけぶり、僕の足元をすこし濡らした。
「けっこう降ってるな」
高居さんはかばんから折り畳み傘を取り出すと、僕に「はい」と差し出した。自然と受け取るかたちになる。傘はひらくのがためらわれるほど畳み目がそろっていた。傘をひらいて雨を受ける。
ふと目をあげると、高居さんはすでにシネコンの自動ドアをくぐりぬけていた。
渡された傘と背中を三往復見比べて、慌てて後を追った。
「高居さん!」
雨に濡れた背中に声をぶつけると、立ち止まった彼は咎めるように僕の手のなかの傘をみた。
「いいですか」
と僕は高居さんを見あげた。
「傘があります。人間がふたりいます。片方が濡れて歩くくらいなら、傘なんて畳んじゃったほうがいいんです」
苦笑の気配がして、相手は僕の手のなかの傘をとるとふたりの頭上に広げた。

紺色の傘は少し早めに夜を連れてくる。
ひとつの傘の下を並んで歩きながら、映画の感想を交互に述べた。僕は比較的肯定的、高居さんはけっこう否定的な意見だった。
「豊世くんはみたものを否定するのがきらいかい?」
高居さんに問われて考え込んだ。
「そう…ですね、せっかくお金を払っているわけですし、せっかくなら肯定的な部分をさがしたいです」
「君の、そういう思考、いいとおもう」
雨は霧雨のようになってきた。傘を畳んだ高居さんは、右手に傘を持つと左手で僕の手を握った。
ちょっとびっくりして「高居さん?」と問う。
「初デートの上書き更新だよ」とちいさくいって、高居さんがわらった。

おもっても、いいのだろうか。
ここは僕の居場所なのだと。

ふっと、背中を押されるような不安に駆られたけれど、なにも言えない。
かわりに、手のひらのなかの温度をぎゅっと握り返した。
だいじょうぶ。きっと、信じていい。信じていいんだ。高居さんの優しさや、手のひらの温もりを。
「豊世くん」
名前を呼ばれる。呼びかえす。
霧雨がふたりの肩におだやかに降るなか、僕のつかう私鉄駅への道を高居さんとゆっくり歩いた。

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しばらく高居さんと豊世くんを書きたいです。一回のSSのつもりが、ひさしぶりに書きたいひとたちになりました。
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【2017/08/29 08:26】 | お題SS。
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