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秩序のとれた海 例えば君とふたりで
☆★高居さんと豊世くんの続きです!みっつ前くらいのSSからの続きもの。よろしければ遡ってみてくださいませ★☆

【ドライブともみじとはじめてのキス】

空はすきっと晴れわたっていた。秋のはじめ、晴天がつづいている。
洗濯ものが乾きさわり心地がいいように、僕の心もあたたかい。というのも、高居さんが運転する青いヴィッツの助手席にちょこなんと納まっているからで、ひさしぶりにふたりで出かけることが気持ちをあたためてくれている。
「高原まではすこしかかるから、眠っていたらどうかな?」
「だいじょうぶです」
高居さんが苦笑した。
「そんなに俺の運転が心許ないかい?」
「逆です、安心できるから逃避の必要性がないんです」
青い車は軽やかに高速を走る。
「豊世くんは運転をしないのかい?」
「ええ、車自体をもっていませんし、そもそも右折するのに左折を三回しなければならないような技能しかないと思われ」
しばらく考えて、ハンドルを握っているひとはわらう。
「それは、たいへんだね。俺が心配でひやひやしなきゃならなくなる」
「空想でも心配してくれるんですか?」
「あたりまえだろ」
高居さんの横顔をみると、ちらっとこちらをむいて微笑んだ。慈しむべきものをみるまなざし。慈愛、ということばを心にうかべ、似たようなものを、同じように返せているだろうかとおもう。高居さんがくれるものが大きすぎて、時々取りこぼしているような気持ちになる。

もみじの景勝地にたどりついたのはそれから2時間後だった。
「山がしあわせそうですね」
「そう思う?」
「はい」
「豊世くんは気持ちがゆたかだよな。俺なんか、きれいだなで終わり」
ぼんやりしている、なにを考えているのかわからない。わりと子供のころから言われてきた。独特の世界のなかに住んでいて、そこに入り込めないのが寂しいと。
だから、この瞬間まで僕は自分の思考回路や言い回しの癖がきらいだった。
でも、高居さんは。
「そんなふうにいわれたの、はじめてです」
高居さんの手の甲にそっと手を重ねた。わかっているよ、と言いたげに高居さんはじっとしている。

蕎麦ともみじアイスなるものを食べ、帰路につく。
瞼の裏に燃えるような山並みや、なんどもみた高居さんの笑みが残っている。
「山からしあわせをお裾分けしてもらったみたいですね」
「だから日本人は紅葉狩りがすきなのかな」
「来るべき冬に備えてですね」
冬眠するくまみたいだな、と高居さんがいう。
「俺、2週間くらいかな、関西に出張だからしばらく晩飯を一緒に食うのはお預けだな」
「えー…僕が冬眠前のくまになりそうです」
高居さんが無反応なので心配になってちらっとうかがった。重かった、だろうか。
標識がSAの所在をしらせると、高居さんはパーキングに車をとめた。
「豊世くん、ちょっとこれみて」
右手を軽くふって言う。
「どれですか?」
高居さんに視線をやると、不意打ちで唇が重なった。え?とおもい、わりと冷静に「あ、そっか。約束してた」と脳みそが思いだした。
いや、がらがらの駐車場、困る要因はないけど。でも、突然すぎて心拍数がむしろ平坦だ。
「とよせ」
いままで、呼ばれたことのない調子で、距離で、名を呼ばれた。
反射ではい、と言いかけると唇がさらに重なって、左手が高居さんの右手とシートの間でぎゅうっと軽く押される。
しばらく僕の口腔をまさぐっていた舌と高居さんの熱が離れたあとになって、やっと心臓がやれ大変だと騒ぎ始めた。
「高居さん」
「……怒った?」
「約束、ちゃんとしてくれて、ありがとうございます」
目をまっすぐに見て、言う。かなわない約束、果たされない誓いの数ある世界で願いをかなえてくれる高居さん。
至近距離にあったその目が伏せられて「豊世くんにはかなわんな」と苦笑が降ってきた。
「俺が冬眠前になりそうだったから、これからお持ち帰りして、もっといろいろしようと思っていたのにな」
『もっといろいろ』の内実がわからないわけではない脳みそが勝手に照れた。大いに照れた。
「……冬眠明けに」
「え?」
「冬眠がおわったら、しましょう。ちゃんと、いろいろ」
「うん、また今度、な」
高居さんがゆったりとわらった。欲を全く感じさせない笑顔だった。でも。
耳にはさっきの『とよせ』が残っている。僕を欲しがる声。

アパートのまえに青い車がとまると、じゃあまた、と高居さんは去っていった。
部屋に戻りひとりきりになって、ふと気がついた。
どこかで、どこかで、高居さんが我に返るんじゃないかと、怯えていた。キスするのはべつに僕でなくてもいいと、覚めるんじゃないかと。
でもいまは。いまは、頭のなかで『とよせ』という呼び声がそれを強く否定していた。
ぼうっと痺れたような腕を伸ばし、テーブルの上の高居さんの部屋の鍵を握る。
ぎゅっと握る。約束した。2週間したら、冬眠後のくまたちは。
そしてそれは途方もなく遠い未来にも、現実的過ぎる将来にも、おもえた。

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【2017/09/04 17:48】 | お題SS。
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