秩序のとれた海 例えば君とふたりで
「やっぱり誤作動だったんだって」
君はいつもの、唐突に切り出すやりかたをした。
ぼんやりとその手のカップから立ち昇る湯気をみながら、その言葉が湯気のように消えてしまえばいい、とおもった。
「どうする?……どうしよっか?」

人が心に抱く情動が、最新鋭の通信波によって誤作動するケースがあるというニュースが世間を騒がせてから1カ月。
君はその心が、僕にむかう恋が、『まちがい』ではないことを確かめにクリニックを受診した。
結果、君の情動は、心は。

「歩生はどうしたいの」
僕の口をついたのは、いちばん卑怯なことばだった。自分の意思を示さず、相手の出方を探る。
わかっている、わかってはいる。
解放すべきだということ。
だけど、僕は。
―……心が偽物でもいい、そばにいて。
本音を飲み込む。君は真実を愛している、そんな君が僕はすきだから。君のきれいな部分を僕のことばで汚してはいけないから。
「すこし、離れてみよう」
君はいった。
そうだね、と僕もうなずく。
本物の、偽物の。偽物の、本物の。
ことばが脳で渦を巻く。きもちわるい。

君はコーヒーカップを洗うと玄関にむかう。
その背中を追った。だめだ、この気持ちが偽物でもいい、君がすきだ。
偽物が、まがい物が、本物に劣るだなんてそんな真理はどこにある。
「待って」
喉から出た声はかすれて撚れていた。僕の声じゃないみたいに。
「いかないで、偽物でもそばにいて……離れるなんて、そんな」
君が振り返る。突き放されるのか、それでもなお離れていくのか。

ぎゅっと抱きしめられた。

「歩生、」
名を呼んだ声をふさいで、君はわらう。
「俺もそばにいたい。これが、この気持ちがまがい物でも」
ずっと、一緒にいよう。たとえ、「ずっと」が一瞬の嘘でも。嘘でできたまがい物のお城に、ふたりで暮らそう。

******

ランキング参加しております。
いつも応援ぽちをしていただき、ありがとうございます《*≧ω≦》

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト

【2017/12/27 09:35】 | お題SS。
|
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可