FC2ブログ
秩序のとれた海 例えば君とふたりで
あの日、あの夏の日。
兄の命は海に流された。一緒に海にきていた女の子が溺れたのを助けて、自分が死んだ。
どれだけの力が、どれだけの容赦のない凄惨が、その身の上に働いたのかあづみにはまだわからない。ちぐさがどれだけ苦しかったか、痛かったか。

ちぐさ。
呼ぶたびに、あづみは砂になりそうになる。あの日、足の裏にまとわりついていた砂。
年上の女性が怖くてしがみついていた兄の手。あの手を、もっとしっかり握って放さなければ、ずっと、海に負けない力で握りしめていたら。

形見、ということばが脳裏にうかんだ。
ちぐさの。ちぐさの形見。
なにもいらない、と思うのに足は兄の部屋に運ばれる。
空っぽの段ボールがたくさん運び込まれていた。どうしようもない虚脱感があづみを襲う。
ちぐさは、もう、いない。どれだけ思い出しても、どれだけ呼んでも、どれだけ手を伸ばしても。

「ちーちゃん、あんまり高いものは身につけなかったけど……」
「うん」
あづみは抜け殻の部屋を見渡した。

******

ランキング参加しております。
いつも応援ぽちをしていただき、ありがとうございます《*≧ω≦》

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト

【2018/01/10 07:30】 | いつか、ひかりへ辿り着く
|
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可